25.メティとグウェイル
「そうじゃなくって。ダイリちゃんのお花が気になるんだよ。私も楽しみ」
「私の花?」
「今日植えるのお花はね、植える人によって全然違うお花になるんだよ」
繋がれた手をユラユラと揺らしながら、メティちゃんの花についてお話をしてくれる。
彼女の花はシャボン玉のような花だったらしい。
植えてしばらくしてから、子どもの両手で作ったほどの大きさの透明でキラキラした球が出来たそうだ。数日後にその中に小さな蕾が少しずつ発生して、最終的にはしゃぼん玉の中にお花畑が出来たのだと得意げに話してくれた。
フラワーバルーンみたいな感じなのだろう。
前世ではお祝いごとにプレゼントされることも多く、先輩の結婚式に置いてあったなと思い出す。それを見て自分の結婚式にも置こうと決め……と余計なことまで思い出して、心の傷が開きかける。
「今度も同じ花が出来たらダイリちゃんにあげるね」
メティちゃんの純粋無垢な笑みによってそんな気持ちも浄化していく。やはり子どもはいい。裏がない分、こちらも純粋な気持ちで接することができる。
魔王様も可愛いけれど、男の子と女の子ではまた違った可愛さがある。二人を見ていると、ずっと子どもが欲しかったことや妹が羨ましく思ったことも少しずつ和らいでいく。
もちろん今も子どもが欲しいという気持ちが消えた訳ではない。
けれど子供がいないから不幸せとも思わない。ここはそういう劣等感を忘れさせてくれる。
「楽しみにしてるね」
フラワーバルーンと似ているとしても、バルーン内で花は育たない。
ましてやお花畑など出来るはずがない。生きている花だからこそ出来る芸当であり、魔界だからこそ育つ花なのだろう。
「うん! でもメティは違うお花も見てみたいな〜」
「いつも同じ花が出来るんじゃないの?」
「同じ花が咲いたり、違う花が咲いたりするんだっておじいちゃんが言ってた。だから楽しみなんだって」
「そっか。わくわくだね」
わっくわくと上機嫌で大きく手を揺らし始めたメティちゃんと一緒に庭に出る。そこでは大量のプランターに囲まれたグウェイルさんが準備をしていた。
「こんばんは」
「嬢ちゃん、手伝ってもらって悪いな」
「いえ、私もどんなお花か気になっていたので。これが例のお花ですか?」
今日はとある特殊な花の植え替えを手伝うことになっている。
なんでも種からしばらくは月の明かりを当てずに育て、ある程度大きくなったら植え替えるのだとか。それも植え替えの日は種を植えてから二十日後の夜から月明かりを浴びて育てる、と明確に決まっている。二十日を過ぎるとダメになってしまう大変シビアな花だ。
開花条件が厳しいため自生している花はほぼなく、種も大変貴重らしい。そんな品をここへ持ち込んだのはタイランさんである。
なんでも以前冒険していた時に見つけたらしく、魔王様へのお近づきの印としてプレゼントしたのだそうだ。
とても綺麗な花を咲かせる上、種は万能薬になるそれを魔王様は「我は興味ないからやる」の一言でグウェイルさんに渡した、と。
魔王様らしいといえばらしい。
だが受け取ったグウェイルさんは魔王様から与えられた花を咲かせてみせる! と燃えている。
プランターの中身は同じ花だが、少しでも月明かりを浴びたらダメになると、複数の場所で育てるほど気合が入っている。
ただし気合が入りすぎた結果、量が多くなってしまい、一晩で植え替えが終わるか怪しくなってしまった。本末転倒な結果にグウェイルさんが頭を抱えていた時、たまたま私が通りかかり、手伝いをかって出たというわけだ。
グウェイルさんは父と同じくらいの見た目ということもあってか、会うたびに「ちゃんと寝てるか?」「飯食ってるか?」と心配してくれる。家族への手紙に書く内容に悩んでいれば相談に乗ってくれる。
以前メティちゃんがこの場所に案内してくれたのも、グウェイルさんが文字が書けないなら絵でも描けばいいとアドバイスしてくれたからだ。
魔界の花は人間界のものと違うけれど、おそらく家族がそれに気づくことはない。半日かけて描きあげた絵はグウェイルさんとメティちゃんに褒めてもらえた。
文章でなくとも、楽しく過ごしていると伝えられると教えてくれたのは二人のおかげだ。
だから何かお返しが出来ればと思っていた。そんな私にとって、植え替えはちょうどいい機会だった。
それにしても大量にあるとは聞いていたものの、想像よりずっと多い。これをメティちゃんと二人で作業しようと思ったら、確かに頭を抱える量だ。
三人でギリギリ間に合うといったところか。
シエルさんにタオルを用意しておいてもらって良かった。
「そうだ、今からこれに回復付与魔法と強化付与魔法かけるので良かったら使ってください。多少疲れにくくなるかと」
魔法をかけて、二人に渡す。
首にかけることを想定して、メティちゃんの分は少し短めのものを用意してもらった。
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