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21.給料と……

 けれど彼女の要望はひどくあっさりとしたものだった。


「これからもあなたの望む本を見つけてあげる。だからキラキラしたおやつを作ったら私にもちょうだい」

「キラキラ、ですか?」

「そう、キラキラ。待っているから」


 そう告げるとオルペミーシアさんは図書館の奥へと戻っていった。

 変なものを要求されなくて良かったとホッと胸をなで下ろす。


 けれど『キラキラしたおやつ』とは一体どんなものなのだろう?


 うーんと唸りながら自室を目指す。ショーウィンドウに並んでいるようなものならストレートに言うだろうし、前世で言うところのSNS映えしそうなものかな。マカロンとか。

 それとも光が反射してキラキラ見えるゼリーや飴みたいなものか。


 マカロンならちょうど卵白がたくさん余っているので作れる。いくら魔法で保存が効くとはいえ、早く使うに越したことはない。


 卵白の消費にはフィナンシェを作ろうと考えていたが、可愛さで言えばマカロンである。

 食紅はないけれど、果物なら沢山ある。色づけも出来るはずだ。


 マカロンは生地を乾かす時間もあるから作るなら朝から作業を開始しないと。

 夕食時にでもミギさんとヒダリさんに相談して、作れそうなら明日にでも本のお礼として持っていこう。


 そう決めて、夕食までの間は持ってきてもらった魔道書に軽く目を通すことにした。


 ペラペラと捲りながら、うえっと変な声が漏れる。

 数学の問題集を読んでいる気分だ。しかも自分の実力よりも少し上のものを。


 オルペミーシアさんが選んでくれた魔道書はどれも難しそうで、けれど何を言っているか・何をやろうとしているのかがまるで分からないという訳ではない。


 私の知識でも十分読み進めることが出来るものを選んでくれたのだ。


 彼女はあの短い時間で、私の知識レベルや技術レベルを見抜いたのだ。

 ジャンルといい、レベルといい、息を飲んでしまうほどに的確だ。さすが本に詳しい魔人。


 また頼らせてもらう時のためにも、キラキラおやつの差し入れは必須である。


 夕食時には彼女オススメのおやつ本を持って、キッチンへと向かうことになった。


 それから毎日の習慣に勉強が加わるようになった。


 もちろんおやつ作りも続けているし、ミギさんとヒダリさんとの料理についての話し合いも今まで通り。

 けれどお菓子作りの相談に本を持っていくことも増え、朝食前と夕食後は魔法を勉強するようになった。


 難しい本を唸りながら少しずつ進めていくのである。

 オルペミーシアさんはマカロンを気に入ったようで、以降もいろんな本を進めてくれる。


 図書館には頻繁に行くようになった。充実した毎日に、大事なことを忘れていた。


「これ給料な。それからこれも使え」

「ありがとうございます。でもなんでレターセット?」


 ずっしりとした重みの革袋と一緒に渡されたのは紐で括られたレターセットだった。

 飾り気はなく、非常にシンプルなものである。タイランさんの私物と言われても納得が出来る。


 だがおやつのリクエスト表ならまだしも、なぜこんなものを持ってきたのだろうか。

 意図が分からずにじいっと視線を落とす。すると目の前から深いため息が落とされた。


「ここに来てから誰とも連絡を取っていないだろ」

「それは……」

「深く追求する気はない。だが大事な人がいるならちゃんと連絡しろ。『便りがないのは元気な証拠』とか言うが、俺はあの言葉が嫌いだ。無事かどうかなんて分からない。あれはそう思い込もうとしている人間の言葉であって、連絡しない側が言い訳に使っていい言葉じゃない」


 ため息よりも淡々と述べられた言葉がグサリと胸に突き刺さる。

 タイランさんは私が連絡を先延ばしにしていることに気付いていたのだ。


 多分、昨日今日のことではない。

 それでも待っていてくれて、ついに我慢が出来なくなったからレターセットを持ってきたのだろう。


 少しわかりにくいが、タイランさんは優しい人なのだ。

 忙しいといいながらちょこちょこと魔王様の様子は見に来るし、シャーベットを作ってもらってからは、ミギさんとヒダリさんに食事の感想を告げるようになった。


 口は悪いけれど、それだけ。


 私が図書館に通い出してからは遠くから心配そうに見ているのにも気付いている。


 初めの態度は多分私を警戒していただけ。

 今では少し警戒が解けて、認めてもくれていて、だからこその心配なのだ。

 彼の行動が好意であることが分かるからこそ、レターセットを見なかったことには出来やしない。


 気が重いなんて言ってないで、書かないと。

 心配させてはいけないと思うのに、長い長いため息が溢れそうになる。


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