18.アプリコットジャム
翌日は普段より少し早くおやつ作りを開始した。
昨日の反応を見て、予定よりも多めに作ろうと思ったのだ。昨日の倍では足りないだろうと、三倍は用意することにした。
フルーツソースは二人に任せることにして、強化付与魔法は気合いを入れてかけた。
そこからせっせと練り、無事に完成した山盛りアイスクリームにホッと胸をなで下ろす。
だが昨日と同じくキッチンにやってきた二人によってそのほとんどを食べ尽くされることとなった。
ミギさんとヒダリさんの分は避けておいたから良かったものの、明日の分は当然のように残らなかった。
魔王様は「明日はもっといっぱい」と恐ろしい呟きを残し、タイランさんは「足りない……足りない……」とぼやいていた。
二人が去った後で明日はもっと大量に作るのかと遠くを見つめる。
するとミギさんとヒダリさんが私の肩に手を置いた。
「明日は私達も手伝いますから」
「え?」
「材料混ぜるところは不安ですが、練るところは出来ます。一緒に頑張りましょう」
「ミギさん、ヒダリさん……。ありがとうございます」
援軍の来訪にほろりとしてしまう。けれどすぐに彼らの欲望も知ることとなる。
「作業量が三分の一、とまではいかずとも減ったので、もっと量作りましょうね」
「私達ももっと食べたいです」
「それにジャム作りも大変でしょうし」
「あ、そうだ。ジャム!」
アイスクリームのことばかり考えてすっかり頭から抜け落ちていた。
アイスクリーム作りと比べれば大変というほどではないが、少し時間はかかる。
魔王様にも伝えた通り、アプリコットのジャムは一晩寝かせる必要がある。忘れれば忘れた分だけ食べられるようになる日も遠のいていく。
「アプリコットならすでに届いていますよ」
「見ていても良いですか?」
「もちろん」
二人は食料庫に向かうとそれぞれ木箱を一つずつ抱えて戻ってきた。
「とりあえず二箱持ってきましたが、どのくらい使いますか?」
「全部使ってもいいですよ」
「えっと、じゃあ一キロほど」
「それだけでいいのですか?」
「気に入ってもらえればまた作ろうかなと」
「なるほど。あ、瓶も持ってきましたよ」
「ありがとうございます」
ジャムは傷がついてしまった果物を大量消費する時などによく作られる。
前世では規格外品だとか大量に採れたとかで、旬の果物が安売りされていると決まって買い込んできたものだ。
作ったジャムはお菓子作りに使ったり、家族や知り合いに配ったり。
アプリコットジャムも夏になるとよく作っていた。祖父の家に木があって、毎年送ってきてくれたのだ。
子どもの頃は母と一緒に、一人暮らしをし始めてからも毎年作っていた。懐かしい。
保存魔法があるこの世界、というか魔王城では急いで作る必要はない。
食べたい時に食べたい分よりも少し多めに作れば良い。
瓶を熱湯に入れて煮沸消毒している間に、二人にはアプリコットを洗って水気を拭き取ってもらう。
綺麗になったものは割れ目に沿って包丁を入れ、中の種を取り出す。そこからさらに半分に切る。
この時の重さの半分が、今回使う砂糖の量となる。
好みによって多少の増減は大丈夫だが、種を含めた重さを基準に用意すると甘くなりすぎるので注意が必要だ。
鍋にアプリコットを敷き詰め、砂糖をかけ、を繰り返して層にしていく。
そのまま水分が出てくるまでしばらく放置。大体三十分くらい。心配なら長めに置いておくといい。
水気が出てきたら鍋を火にかけて沸騰させる。
浮いた灰汁を軽く取り除いていく。すると横で見ていた二人が「あの」と声をあげた。
「灰汁は全部取らないんですか? 師匠から灰汁は絶対に取るようにと教わりましたが……」
「使う食材によってはえぐみが出るので取った方が良いものもあるんですが、灰汁が素材の旨みであることもあるんですよ。といっても取った方が仕上がりは綺麗だし、安心だって言う人もいるので好みの問題ですかね。私はほどほどにしています」
「なるほど」
「勉強になります」
しばらく煮込んだら鍋に布巾を被せ、その上から蓋をする。
この状態で冷蔵庫に入れて一晩寝かせる。
前世で使っていた一人暮らし用の冷蔵庫には鍋を入れることなんて出来なかった。
なのでボールに移し替えて、朝起きたら鍋に入れて、という作業があった。
だが魔王城の大きな冷蔵庫は広々としていて、少し大きめな鍋もすっぽりである。もう一つくらい入りそう。
調理器具が充実しているだけではなく、冷蔵庫のスペースまで空いているのはとてもありがたい。
朝起きたら冷蔵庫から取り出した物を火にかけてさらに煮詰めていく。少しサラッとしているくらいで止める。
お玉一杯分をお皿に載せて、残った分は瓶に移していく。
後はゆっくりと冷やしていくだけだ。
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