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17.木べらには強化付与を

 重要なのは、木べらに強化付与魔法をかけること。


 教会にいた頃は付与する専門で、自分に使用する機会はなかった。だが実際かけてみると楽。効果が小さいことは全く気にならない。


 少し手が重くなったかな? と思い始めた頃にちょうどよく強化の追撃が来るのだ。

 これほどありがたいものはない。前世でお菓子作りの途中にハンドミキサーが壊れてしまった時、この魔法があればどんなに楽だったか! と涙がうっすらと浮かぶくらいだ。


 回復魔法の下位互換と言われている回復付与魔法も、両方慣れれば上位下位が生まれるのだろうが、私からすれば素晴らしいほどの効果を発揮する。


 疲れた日の夜にかけたら、お風呂入ったり湿布貼ったくらいの効果はありそうだ。

 魔王城に来てからお菓子作りばかりで翌日に残りそうなほどの疲労感を覚えることはないが、機会があったら試してみよう。


「あ、このくらいでいいですかね。シャーベットを盛り付ける時に使っていたお皿持ってきてもらっていいですか?」

「ああ。これか?」

「そうそう。スプーンはどけてもらって……ってタイランさん!? なんでここに?」

「皿を下げに来た」

「あの、これはまだ試作品でタイランさんと魔王様の分は明日作りますので」

「そうか、まだ食えないのか……」


 タイランさんは肩を落とす。ホットサンドの時の魔王様のようにぐいぐいくることはない。

 だが食べたかった……と小さく溢して皿をシンクに置く彼に心が痛む。


 散々シャーベットを食べたのだからお腹が冷えてしまうとか、三人分しか作っていないだとか、それらしい理由は頭に浮かぶ。


 悪いことは何一つしていないのに、なぜか良心がズキズキと痛むのだ。

 私はこの申し訳なさを抱えたまま、明日を迎えねばならないのか。少し悩んでから、短く息を吐く。


「ミギさん、ヒダリさん。ちょっといいですか?」

 キッチンの端に二人を呼び、顔を付き合わせた状態で相談することにした。タイランさんに聞こえないように声を潜める。


 彼からの疑わしげな視線をじりじりと感じるが、話し合いに混ぜる気はない。代わりにスピーディーに済ませるつもりだ。


「このまま帰すのも可哀想かなと思うのですが、タイランさんに出したら魔王様にも出さないと不平等じゃないですか」

「そうですね」

「でももう遅いですし、おやつとシャーベットの両方を出しているので、大量にあげると身体に悪いと思うんです。だからお二人さえよければ三人分を五等分させて頂きたく……。あ、もちろん明日と明後日、改めてお二人の分も作りますので」


 ホットサンドの時と同じく、彼らには我慢を強いることにはなってしまう。

 こちらも違う意味で心苦しくはある。だが二人はすんなりと頷いてくれた。


「構いませんよ。私達もソースをかけたものとジャムを載せたものは食べたいです」

「ですがタイランはともかく、魔王様は足りるでしょうか?」

「元々が試作品であることを強調して、飲み込んでもらうしか……。ちょっと魔王様に聞いてみるので、タイランさんを引き留めておいてもらえますか?」

「分かりました」


 二人にタイランさんを託し、私は隣の部屋へと移動する。

 袋から通信機を取り出し、接続すればすぐに魔王様の顔が映った。


「こんな時間にどうしたのだ? 何かあったか?」

「実はアイスクリームの試作品を作っていたところにタイランさんが来まして……」


 事情を説明した上で、条件を出す。

 試作品なので一人当たりの量は少ないこと。今日はソースを用意しないこと。


 この二つを受け入れてもらえるのであれば、魔王様にもアイスクリームを用意する。

 受け入れられないのであれば、タイランさんにも出さない。予定通り、明日のおやつにソースと一緒に用意する旨を伝えた。


 言いながら、魔王様には酷な二択だなぁと自分でも思う。けれど魔王様の答えはあっさりとしたものだった。


「構わん。今からそちらに向かう」

 それだけ告げると、魔王様は通話をブツリと切った。よほど食べたかったらしい。


 キッチンに戻り、二人に魔王様が来ることを伝えた。タイランさんにはアイスクリームを少しだけなら出せるとも。


「いいのか?」

「はい。今から分けるのでちょっと待っていてくださいね」

「急がねば」


 三人分のアイスクリームを五等分し、お皿に盛り付けていく。量は少ない。

 けれどタイランさんは優しい目でそれを見つめている。蒸しパンの時とは違う反応だ。なんだか幸せそうだ。



 すぐに魔王様も合流し、全員で隣の部屋へと移動する。

 初めから量が少ないことを説明してあるからか、魔王様からのおねだりはなかった。


 ただ空になったお皿を見つめながら「明日はもっといっぱい。いっぱい」と呟きながら、ふふふと笑っている。隣のタイランさんなんて最後の一口を運んだ後からずっとスプーンをしゃぶりながら感傷に浸っている。


 ミギさんとヒダリさんは早速感想を伝え合い、何に合うかを考え始めていた。


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