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15.アイスクリーム

「アイスクリームなんてどうでしょうか?」

「あいすくりーむ? なんだ、それは。初めて聞くぞ」

「なめらかな舌触りの甘い氷菓です。いろんな味があるのですが、私も作ったことがないので、初めに作るとすれば一番シンプルなミルクアイスクリームになります」

「アイスクリームを作れるのか?」


 私と魔王様の会話を遮るようにタイランさんが話に入ってくる。

 その声に振り向けば、真後ろにはタイランさんの顔があった。ドアが開く音さえしなかった。それどころか気配すらなく、話しかけるまで全く気付かなかった。


 もしやアイスクリームというワードに反応して、飛んできたのだろうか。驚きでバクバクとする胸を押さえる。


 彼が使ったのはおそらく転移魔法。私が魔界に送られた時に使用された物と同じだ。


 魔王城内の移動にそんな大層なものを使うか? とも思うが、そうでなければホラー展開になりそうなので、転移魔法ということにしておきたい。


 未だ大きく跳ねる胸に手をあてながら、深呼吸を繰り返す。


 するとタイランさんがシャーベットのお皿を持っていることに気付いた。載っているのはシャーベットだ。追加で持ってきたのだろう。


 それを魔王様にずいっと押しつけて、彼は私の顔を覗き込む。


「アイスクリーム、作れるのか?」

「た、たぶん」


 小さく頷きながら一歩遠ざかる。

 するとタイランさんも異常な距離に気付いたようだ。二歩ほど下がってくれた。


 こほんと咳をしてから悪かった、と謝罪の言葉をくれた。


「ここでアイスクリームを食べられると思ったら嬉しくてつい……な」

「アイスクリーム、好きなんですか?」

「好きというか、昔、師匠と一度だけ食べたことがあるんだ。ドーム型の真っ白なアイスクリームに、フルーツのソースがかかっていて、とても美味かった」


 恥ずかしそうに頬を掻きながら打ち明けてくれた。

 ミギさんとヒダリさんが師匠さんの絵を持ってきてくれた時と同じだと思うと、微笑ましくなった。温かくて優しい思い出なら、可能な限り再現したいものである。


 フルーツソースなら前世でも作ったことがあるし、難しいものではない。よほど珍しい果物でもなければ食料庫にあるはずだ。


「何のソースだったんですか?」

「俺の分はイチゴで、師匠の分はオレンジだった」

「ではイチゴとオレンジのソースも作りますね」

「……悪いな」

「我のもソースをかけて欲しい!」

「別掛け出来るように器を分けましょうか。そうしたら三つの味を楽しめますよ!」


 魔王様はきゃっきゃと喜びながら、私の腰に抱きついた。上目遣いでいっぱい食べたいとおねだりする姿に胸がずきゅんと貫かれる。


 可愛い。可愛すぎる。

 彼の頭に手を伸ばし、よしよしと頭を撫でる。


 しばらく癒やされてから、魔族の王様相手に不敬だと怒られるかも、とハッとする。急いで手を引いて、タイランさんの顔色を確認した。


 けれどトマトの時のような鋭い言葉が飛んでくることはない。

 頬を緩めて、アイスクリーム……と呟いている。完全に思い出に浸っている。少し多めに作ることにしよう。


 そう考えて、ふとあることを思い出した。


「そういえば明日、人間界からアプリコットが送られてくるらしいので、アイスクリームが残ったら明後日はアプリコットのジャムもかけましょうか」


 人間界で農家をしている魔人がいるらしい。その魔人というのが、かつてミギさんとヒダリさんのお師匠さんを連れてきた人である。


 その頃から食事をする習慣のあったその魔人は、食事好きが高じて、今は人間界で様々な果物を育てているのだそう。

 転移魔法を使って各地を飛び回りながら育てているというのだから驚きだ。


 アプリコットの他にも、春にはイチゴ、秋にはブドウやリンゴを送ってくれるらしい。

 それらは今までシャーベットにしたり、肉にかけるソースとして使っていたそうだ。ただしそのくらいしか使わないので、毎年一箱程度。


 今回は近々人間が来ると話したために何かに使うだろ! と大量に送ってくれることになったそうだ。


 その話を聞いた時、二人と話し合って一部をジャムにすることを決めた。


 食料庫にかけられた魔法があるので、保存期間を気にする必要はないが、ジャムはお菓子作りでも出番が多い。


 アイスクリームやヨーグルトにかけても美味しいし、ジャムクッキーやジャムケーキも良い。氷菓が好きならかき氷にジャムで作ったシロップをかけるのもまた……と使い道はポンポンと浮かぶ。


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