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14.放っておけない人

 せっかくおやつを食べる習慣が出来てきたというのに、悪いことをしてしまった。

 何か代わりに出来ることはないかと考える。するとふと名案が浮かんだ。


「タイランさんって蒸しパンの他に何が好きなんですか?」

「牛乳ゼリー」


 即答だ。牛乳ゼリーというと蒸かしパンと並ぶ子どものおやつである。

 初日はあれだけ嫌そうな顔をしていたのに、私の作るおやつと彼の好物は意外と近いのかもしれない。


 笑いが零れそうになるのを必死で我慢する。


「じゃあ明日は牛乳ゼリーを作りますね。入れるフルーツはお楽しみに」

「ん」

 ちょっと嬉しそうだ。唇のとんがりがなくなっている。


 魔王様とは少し違う形の子どもっぽさだが、こうして表情に出してくれるようになったあたり、少しは認めてもらえていると思ってもいいのかな。


 みかん入りの牛乳ゼリーを作ってからというもの、タイランさんは少しずつおやつを楽しみにするようになっていった。


 魔王様ほどではないが、おやつ休憩なるものを取り始め、一緒に紅茶を要求するようになったのである。


 その影響もあってか、ご飯を食べる量も増えた。


「今日も美味かった」

 お皿を下げにきたタイランさんから直接そう伝えられ、ミギさんとヒダリさんはもうお祭り状態である。るんるんでシャーベットを作り始めた。


 片方が氷魔法を使い、片方がサクサクと崩していき、ちょうどいいシャリシャリ感になっていく。


 完成したシャーベットはお皿にこれでもかと盛り付けられ、今にも溢れ出しそうだ。

 それを隣の部屋で待っていたタイランさんはバクバクと食べ進めていく。


 山盛りがすごいスピードでなくなっていく光景はまさに圧巻である。なくなればおかわりを盛り付けられ、黙々と食べていく。


 彼がシャーベットを拒んだ理由はこれだろう。

 このペースで食べ続けていたら、仕事のリズムは確実に崩れる。そのことをタイランさん自身も自覚していたのだろう。


 生体反応役というものが未だによく分からないが、タイランさんの生態は少しずつ分かってきたような気がする。


 私の役目はタイランさんを休ませる意味もあったのではないか? と思い始めてきたくらいだ。


 ここ数日で回復ポーションを飲む量は一気に減ったそうだが、これをほぼゼロまで下げるのが私の当面の目標である。名前云々よりもこちらが急務である。


 急がないとこの人、倒れる。若いからと平気で無理をするタイプに油断は禁物だ。

 タイランさんの新たな一面を知る度にますます無視出来ない存在となっていく。


「ところでダイリは食わねえのか? 美味いぞ」

 スプーンを咥えながら、こちらに視線を向ける。

 タイランさんはすでに三杯目をおかわりし終えている。ようやく落ち着いたところなのだろう。


「頂きますよ。でもその前に魔王様に連絡してもいいですか?」

 ミギさんとヒダリさんにお伺いを立てると、コクコクと頷いてくれた。

 ここで連絡しなかったらまたへそを曲げられてしまう。二人ともそれが分かっているのだ。


 一方でタイランさんは、不思議そうに首を傾げている。

 もうおやつは渡してきたじゃないかとでも言いたげである。彼のことは無視して通信機を起動させる。


「今、ミギさんとヒダリさんにシャーベットを作ってもらっているのですが、魔王様も食べますか?」

「いる!」


 魔王様の元気なお返事を受け取ったミギさんとヒダリさんはせっせと新しいシャーベットの作成に励む。


 出来上がったシャーベットはお皿にてんこ盛りにしてもらい、本日二度目となるおやつの配達へと向かうこととなった。



「シャーベットお持ちしました」

「来たか!」

 シャーベットを持って王の間へと入ると、魔王様がスキップするように段から降りてくる。私の手元をのぞき込み、おおっ! と声を漏らす。


 ミギさんとヒダリさんから聞いたところによると、シャーベットは普段料理を食べない魔族でも好んで食べるらしい。ちょうど今の時期にはパラパラとキッチンにやって来るのだとか。

 ベースだけ二人が作って、後は自分で凍らせる魔人もいると話してくれた。


 暑くなると冷たいものが食べたくなる心理は人間も魔族も変わらないらしい。

 魔王様は早速スプーンでシャリシャリと掘り進めている。


「トマトも良かったがこれも良い。……なぁダイリ。他にも冷たくて美味しいものはないのか」


 魔王様はスプーンを唇に引っかけながら、上目遣いで聞いてくる。

 その瞳からはそれはそれとして冷やしトマトはまた食べたいとの訴えがありありと伝わってくる。冷やしトマトはまた用意することにしよう。


 それにしても冷たくて美味しいものか……。


 トマトから連想されるのはキュウリやスイカだが、シャーベットから連想されるのは冷凍林檎やアイスクリーム。そこまで考えて、ふとこの世界でアイスクリームを食べたことがなかったと思い出す。


 そもそも前世の記憶を思い出すまではアイスクリームなんてものの存在自体知らなかった。


 だが魔王城にある材料でも作る事は可能だ。

 冷凍庫はないが、氷の魔法がある。一日くらいならどうにか保存出来ないか、と考えを進めていくと途端にアイスクリームを食べたいという気持ちがむくむくと育っていく。


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