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10.ホットサンドはおやつに含まれますか?

「人間界に魔人って潜んでいるんですね……」

「旅行する者もいれば人間と混ざって暮らす者もいます。おそらくダイリさんが思っている以上に多いかと」

「人間は魔族を長年敵視していたようですが、魔族からしてみれば気付いていないだけでわりと身近にいるはずですよ。和平が結ばれたのも魔王様のお考えが一番ではありますが、この辺りの事情もあってのことです」

「な、なるほど」


 衝撃の事実である。

 大量の食材を手に入れることが出来るということは人間と取引の出来る存在がいるのだろう、とは思っていたが、そんなに多いのか……。


 本当に「勇者』が必要だったのか考えてしまう。といっても一つの架け橋になったのは確かだ。


 それが丈夫な石橋か、欠陥だらけの吊り橋かは分からないけれど。

 橋を渡して、双方を知ってから補強することだって出来る。


 まだ数日とはいえ、あの魔王様を知ってしまったからには討伐される姿なんて想像もしたくない。橋が頑丈になることを願うばかりだ。


「ダイリさん? 大丈夫ですか」

「あ、はい! では早速ゆで卵を作っていきますね」


 今回用意するホットサンドは二種類。


 一つ目の具材はベーコンとタマゴ。

 ゆで卵は食感を残すため、半生よりも固めで作っていく予定だ。鍋に落としてからきっちり時間も計る。その間、ベーコンもカリッと焼いていく。ゆでタマゴは少し粗めに潰し、ベーコンは小さめに切る。

 この二つをさっくりと混ぜてから、パンの上に載せていく。


 私は具材が多めのものが好きなので、出来たものを全部載せる勢いで。

 その上にパンをふっくらと被せてからガシャンと閉じる。後は火加減と中を確認しながら両面焼くだけ。


 出来上がったホットサンドは取り出して、斜めにカットする。


 やはりタマゴとベーコンの組み合わせは強い。勝利が確定しているようなものだ。

 断面から立ち上がる美味しそうな香りに、二人は鼻をヒクヒクと動かしている。グッとガッツポーズを決めたい気持ちを抑え、二種目の作成に入る。


 二つ目はホットサンドの鉄板ハムチーズ。それに食料庫で見つけたドライトマトも入れる。


 こちらは下準備は特になく重ねて焼くだけ。

 二人とも「それだけ?」と拍子抜けしている。ただハムチーズはサンドイッチでもよく見る組み合わせなので、心配はしていない。


 それどころか早く出来ないかとわくわくしているようだ。

 焼き具合を確認しながら、二人に声をかける。


「もう少しで出来ますからね」

「こちらも美味しそうですね」

「早く食べたいです」

「一番先に食べるのは我だからな!」


 ミギさんとヒダリさんの声に続き、なぜかこの場にはいるはずのない人の声が聞こえる。

 おかしいな、と振り返れば、キラキラとした目で私の手元を眺める魔王様がいた。


「魔王様! なんでここに!?」

「我に隠れて美味しそうな物を食べようとするなぞ酷いぞ、ダイリ」


 気付いたから良かったものを! とひどくご立腹な様子である。それでいて私の顔には一切視線を向けていない。

 すでに出来上がっているベーコンとたまごのホットサンドに熱烈な視線を送っている。


「すみません。おやつ以外はいらないかなと思って……」

「これはどこからどう見てもおやつではないか! 悩んだら聞くのだ。人間はよく報連相が大事だと言っているだろう。近くにいるのに相談を怠るとは全くもぉ……」


 アフタヌーンティーにサンドイッチが入っているくらいだから、おやつと言えないこともない……のかな? 

 だが広く括ればという話で、一般的にホットサンドはご飯である。決して魔王様をハブった訳ではない。


 私にその意図はなくとも、魔王様はぷっくりと頬を膨らませているのは事実。おやつだと信じて疑っていないようだ。


 正直、おやつの定義などどうでもいいのだろう。


 食べたいか、食べたくないか。

 一番重要なのはそこで、魔王様はすでに食べる気になっている。だからぺこりと頭を下げることにした。


「すみません。次回からは気をつけます」

「あれをくれたら許そう」

「どうぞどうぞ」

 楽しみに待っていてくれた二人には小さく頭を下げてから、魔王様セットを用意する。

 隣の部屋まで待てずにキッチンで食べ始めてしまった彼は「美味いな~。もっと欲しいな~」とチラチラと視線を送ってくる。


 可愛いだけではなく、おねだり上手でもあるらしい。


「これは元々タイランさんの朝食用なので、あまりお出しするのは……」

「タイランはこんなに美味いものを毎日食べているのか!? ズルい!」

「いえ、食事を取らないから工夫をした結果です」

「つまりタイランがこれなら食べると分かれば、毎朝これが食べられるようになる?」

「え?」

「ダイリ、今すぐタイランの分を用意するのだ。我があやつにこの美味さを伝えてこよう!」


 早く早く、と急かされながら残りの材料で同じ物を作る。半分にカットしたものを一つずつお皿に載せる。


 魔王様はそれを両手で持って、タイランさんの元へと駆けていった。


「タイランがこれを気に入れば、明日もこれが食べられるぞ」

 魔王様が去り際に小さく溢した言葉から彼の強い食欲が見受けられる。甘藷の蒸しパンの時同様、食べるまでぐいぐいと押しつけられるタイランさんの姿が目に浮かぶ。


 全ては魔王様の、明日もホットサンドを食べたいという欲を満たすために。


 けれどタイランさんはすでに肉まんを食べている可能性が高い。


 満腹状態の彼の口に無理矢理ねじ込まないといいのだが……。


 一抹の不安を抱えながら、魔王様を見送った。


 戻ってきた魔王様曰く「明日の朝もこれが食べられると言ったら喜んでいたぞ!」とのことだった。ミギさんとヒダリさんはとても喜んでいたが、真偽は不明である。


 計画が後退していないことを祈るばかりだ。

 とりあえず褒めて欲しそうな魔王様に明日の分も約束することとなった。


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