9.茹でとうもろこしは豪快にかぶりつけ
今回は麦茶の代わりに紅茶を魔法でキンキンに冷やしてもらった。
シャーベットを作っている時も同じく氷の魔法を使っているようだ。人間界では料理に魔法を使う姿など見たことがなかったので、じいっと見入ってしまった。
ここに運ぶ前に私も飲ませてもらったが、茹でたてとうもろこしに合うキンキン具合だった。
「これが茹でたコーンか。して、どうやって食べるのだ?」
「横持ちにしてもらって、実のところを豪快にガブッといってください」
「なるほど。では早速」
魔王様は茹でとうもろこしをがっしりと掴み、はむっと被りついた。
「ん~!」
声を漏らしながらバクバクと食べ進めていく。気に入ってくれたらしい。
私が両手でぐるぐると回すジェスチャーをすれば、魔王様は真似をしながらとうもろこしを堪能していく。
ちなみにタイランさんに用意したものとは、茹でとうもろこしである。
蒸しパンを持っていっても拒まれることは目に見えているので、食事として認識されそう、かつ温かいうちに食べた方がいいものをチョイスした。
もちろん茹でとうもろこしは冷めても美味しい。
だからこそ、警戒されにくいものとしてもちょうど良かった。魔王様の分を茹でるついでに作れるというのもある。
タイランさんも魔王様のように喜んでくれる、とまではいかずとも、ちゃんと食べてくれるといいのだが……。
ベタベタになった手で二本目を掴む魔王様を見守りながら、ここにはいないワーカーホリックさんに思いを馳せる。
「なぁダイリ」
「なんでしょう」
「これの他にも美味しいものがあるのか?」
「お野菜で、ですか?」
「果物やおやつでも良いぞ! 我は我の知らない美味なるものが食べたい。もちろん蒸しパンももっと食べたい!」
「蒸しパンに混ぜて美味しいのは林檎ですかね。甘藷との相性もバッチリです! そのまま食べられる野菜ならトマトがオススメです」
そのまま食べても美味しいが、私はキンキンに冷やしたトマトが好きだ。
それも薄くスライスしたものにオリーブオイルをかけたり、チーズを添えたりしたオシャレなものではない。まるごと豪快にかぶりつくのである。
トマトは独特の酸味やかじった時に出てくる汁が苦手という人も多いが、私はむしろその二つが好きなのだ。
かじって作ったへこみのところに砂糖をまぶすと、絶妙な酸味と甘みを楽しめる。
いつ食べても美味しいが一番楽しめるのはやはり夏。
窓から吹き込む生ぬるい風を感じながら食べるのが私のお気に入りだ。隣に浅漬けキュウリがあるとなおよし! 想像しただけで頬が緩む。
「そんなに美味しいのか?」
「とっても!」
力強く頷けば、魔王様はジュルリとよだれを垂らす。今すぐにでも食べたいと顔に書いてある。
だが今日はもうおしまい。
冷やす時間もあるので、用意をするなら明日だ。
「明日は冷やしトマトをお持ちしますね」
「蒸しパンも! 林檎の入った蒸しパンもだぞ?」
「はい。楽しみにしていてくださいね」
魔王様の反応は良好。るんるんでキッチンに戻る。
夕食準備までの空き時間はミギさんとヒダリさんと共に食料庫を見て何が作れそうか考える。
魔王様のおやつもそうだが、タイランさん食事計画第二ステップ用の料理も思案中である。
ちなみにタイランさんの夕食は今日も肉まんである。
茹でとうもろこしを置きに行った際、メイドに「昨日と同じ物を」と指定してきたそうだ。
昨日の分は少し種を工夫したらしい。気に入ったのかもしれないと、二人は上機嫌で私の分の肉まんも作ってくれた。
このまま普通に食事も取ってくれるようになればいいのになぁ……。
そんな思いが伝わったのか、はたまたたまたまか。
夕食時に食事を運んでいったメイドが持って帰ってきたのは、半分残った昼食と、すっかり綺麗になったとうもろこしの芯だった。
かぶりつく派ではなく、プチプチと一粒ずつ取って食べる派だったらしい。
メイドの情報によれば、おしぼりも使われた形跡があったそう。乾き具合から見てかなり早めに食べただろう、とのことだ。
たまたま作業のキリが良かっただけかもしれないが、手応えは良好である。
「明日は次のステップに進みましょうか!」
「進みましょう。ホットサンドが何かは分かりませんが、きっと美味しいのでしょう」
「試作品が楽しみです」
わくわくと揺れる二人に向かって、任せてください! と力こぶを作る。
私が明日の朝食用に選んだのは、ホットサンドである。
次なる料理を考えている時にホットサンドメーカーを見つけたのだ。キッチンの設備説明の時には見かけなかったが、これは二人が奥に仕舞いこんでいたようだ。
なんでも人間界に潜んでいる魔人からもらったのだそう。
ワッフルメーカーが欲しかったところに手違いで来てしまったようで、二人は使い道がよく分かっていないらしかった。
存在すらも忘れていて、しばらくの間、はて? と首を捻っていたくらいだ。
ホットサンドメーカーがあることよりも、サラリと流された情報に思わず笑みが固まってしまった。
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