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1.崩れ去るのは一瞬で

「俺、姫様と結婚することになったから」

「え?」

「メイリーンは村にでも帰って他の奴と結婚してくれ。金ならがっぽり稼いでるんだろ?」


 夢であったなら良かったのに。

 一縷の願いを込めてゆっくりと瞬きをしても、目の前のジュードは顔を歪めたまま。幼い頃から少しずつ組み立ててきた足下が、ドンガラガラとひどく不格好な音を立てて崩れ落ちていくような感覚に襲われる。


 私とジュードは幼い頃から結婚の約束をしていた。何事もなければ今頃結婚をして、子どもだっていたことだろう。


 けれど三年前に新しい魔王が誕生したことで、魔王討伐をするための勇者とその仲間たちが選ばれることとなった。勇者に選ばれたのはジュードだった。


 それまで田舎の村でのんびりと暮らしていたのだが、素質が認められて魔王討伐パーティに加わることが決まった。


 お国のため。ひいては世界のため。

 立派なことだと、寂しさを飲み込んで見送った。


『帰ってきたら結婚しよう』

 その言葉を信じて待ち続けた。手紙を送ることも叶わず、彼の安否を知る手段と言えば新聞だけ。週に一度、村の近くにやって来る商人に頼んで持ってきてもらったそれを見て、生きていてくれたことに胸をなで下ろす。


 ただ待っていることしか出来ない自分がふがいなくてたまらなかった。


 ジュードが旅立った次の年、王都で聖女の試験が開催されることになった。国中の町や村に配ったらしい募集要項は、王都からかなり離れている私達の村にも張り出された。


 王都の教会は国で一番力が強い聖女が集まっている場所で、今まで大々的に採用試験を行ったことはなかったのだとか。

 けれど魔王が復活したことにより、人手が足りなくなった。


 悪を倒すため、魔力あるものは是非協力して欲しい。そんな文言が綴られていた。


 魔法が使えなければ聖女にはなれない、というのは子どもでも知っている常識である。それは王都の教会に属する聖女以外でも同じこと。


 平民でも魔力持ちはいるが、魔法が使える者は貴族に限られる。なんでも使用するにはコツがいるとかで、そのコツを教えてもらうにはお金と伝手がいる。だから平民の多くは魔力を持っていても、活用せずに生涯を終えていくことがほとんどである。


 人手不足を補うために、そこに目を付けたのだろう。大きく書かれた報酬もかなりの額だ。一年も働けば立派な結婚式を挙げられる上にお釣りまで来る。


 これだ、と近くに置かれていた配布用の募集要項を握りしめて家に走った。

 報酬に惹かれたのではない。王都に行くための理由が出来たことが嬉しかったのだ。王都に行けば村にいるよりもずっと早くジュードの安否を知ることが出来る。聖女になればほんの少しだけでも彼の力になることが出来る。今の状況よりもずっといい。


 だから必死で両親を説得した。父も母も、私がジュードに続いて村を出ることにいい顔はしなかった。それでも最終的には王都内なら危険も少ないだろうと納得してくれた。


 定期的に手紙を出すこと。それだけが両親が私に提示した条件だった。


 自室に戻り、最低限の荷物を鞄に詰めた。遠くからも人が来ることを想定しているようで、試験は三週間ほど日程が確保されていた。この間に行けばいいらしい。だが早く結果が知りたい。もしもダメでも王都で働けないか。


 そんな思いで二日後にやって来た乗り合い馬車に乗りこんだ。馬車には私と同じくらいの年頃の女性が何人もいた。聖女試験を受けに行くのだろう。



 彼女達と共に揺られること十日。王都の教会に到着して、すぐに結果が出た。私は平民にしては珍しく、魔力が多いらしい。練習すれば他の子よりも戦力になれるかもしれない。そう言われて聖女の見習いとなった。


 そこから必死で働いた。全ては前線で戦う彼の力に少しでもなれるように。その一心だった。


 両親と約束した通り、毎月必ず手紙を出した。

 家族からの手紙には私とジュードがいなくなった村での様子が詳細に書かれていた。誰々が結婚したとか、どこどこのおばあさんの具合が悪くなったとか。私が出てすぐに妹が結婚したと書かれた手紙を受け取った時は、もう少し待てば良かったと後悔した。


 それでも私の仕送りが役立ててもらえたことが嬉しくて、つい半年前に手紙に同封されていた赤ちゃんの写真には涙が流れた。


 他の聖女見習いの子の話を聞きながら、将来への焦りが沸き上がることもあった。それでも私も妹のように幸せになれると信じていた。


 ジュードが魔王と和平を結んだという知らせが耳に届いた時は、本当に嬉しかった。これ以上、彼が傷つく心配をしなくてもいいのだと。仕事が終わった後で、部屋で一晩中泣き明かしたほど。



 その後から勇者と姫様の結婚に関する記事を目にするようになった。見ないようにしたところで、教会でも毎日その噂が飛び交っていた。それでも私はジュードを信じていた。


三連休中は多めに更新する予定です。


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