6.蒸しパンを一緒に作ろう!
早速今日使用する分の材料を確保し、キッチンへと戻る。
キッチンの方も改めて紹介してもらった。こちらは昨日のおさらいに近い。
「では早速作っていきましょうか」
作るのは魔王様からリクエストのあった甘藷の蒸しパン。昨日と全く同じ材料と器具を使用する。
違うのは作る量が少なめなところと、隣で同じ動作をしている人がいるところか。簡単だからと彼らに教えながら調理をしていく。
肉料理に合うデザートは何種類か作るのだと話していた彼らだが、蒸し器を使ったおやつは初めてのようだ。一つ一つ確認しながらこわごわと進めていく。
「甘藷はこのくらいのサイズでいいのでしょうか」
「熱が通れば大丈夫なので、少し大きめでも大丈夫ですよ」
「牛乳はきっちりここまでですよね?」
「はい。バッチリです」
昨日より時間はかかったが、誰かと一緒に調理するというのは楽しいものである。出来た分をお皿に盛る。
小さな山が出来たお皿を二人にスッと差し出す。
「ミギさんとヒダリさんの作った分もここに載せてください」
「ダメです!」
「魔王様にお出しするには極めてからではないと!」
力強い拒否である。こだわりの強さも師匠から引き継いだのだろう。
かつての彼ら同様、無理強いをするようなことはしない。だが代わりの提案はする。
「なら、私が作ったものと交換しませんか?」
「交換、ですか?」
「魔王様用の他に、ミギさんとヒダリさん用に作ったんです。一つずつ渡すので、お二人が作ったものも一つずつください」
「ですが私達が作ったものは美味しくないかもしれません……」
「でも私が感想を伝えられるのは食べた物だけです。感想を伝えさせてください」
「なるほど。でしたら是非に!」
どうぞ、と渡され、私のお皿に彼らが初めて作った蒸しパンが載る。
「では私達は紅茶の用意をしておきますので、ダイリさんは魔王様の元へ」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
今日もキッチンの出口まで見送られ、キッチンワゴンを転がしながら王の間へと向かう。すでに魔王様は今か今かと待機していたようだ。
ドアを開くと、目の前に彼が立っていた。玉座に運ばれるまで我慢できなかったらしい。
「食べて良いか!?」
「どうぞ。上段にある分は全部魔王様の分ですから」
「わぁ」
魔王様は立ったまま蒸しパンを頬張る。両頬を膨らませながら幸せそうに食していく。まるでリスのようだ。
魔王様が入り口付近で食べているのを察してか、すぐに椅子と机が用意される。
紅茶の準備も整い、魔王様の可愛いティータイムが始まる。
「なぁダイリ、甘藷とはどういう食べ物なのだ?」
「土の下で育つ野菜です。皮は紫色で、中は黄色。熱を通すことで甘みが出るので、おやつにもよく合いますね」
「果物ではないのか!? こんなに甘いのに……」
目を丸く開いて、蒸しパンを凝視する。魔王様の中で甘いもの=果物という印象らしい。
思えば前世には野菜を使ったおやつもたくさんあったが、こちらの世界ではあまり見かけない。
探せばスイートポテトとかならあったのかもしれないが、少なくとも私はまだ見ていない。この反応を見るに、魔王様も知らないようだ。
「野菜でも甘いものはいっぱいありますよ。甘藷の他に蒸しパンに良く合う野菜といえばコーンですかね!」
「コーン! それならポタージュが美味いと聞いたことがある」
「今日のご飯はそのコーンポタージュ作ってもらったんですが、とっても美味しくて三杯もおかわりしちゃいました。食料庫にコーンがあると思うので、明日はコーンの蒸しパンを作りましょうか?」
「コーンの蒸しパン……美味そうだな」
「ちなみにコーンは蒸しパンに入れても美味しいですが、茹でたものをそのままかぶりついて食べても美味しいんですよ」
芯についたままのとうもろこしを回しながら食べるジェスチャーをしてみせると、魔王様の喉が大きく動いた。
醤油があれば焼きとうもろこしにも出来るのだが、似たようなものがあるかは後々確かめることにしよう。
「両方食べたい!」
「では明日はコーンの蒸しパンと茹でたコーンをお持ち致しますね」
「楽しみにしているぞ! ところでダイリ。用意した服は着ないのか?」
「服、ですか?」
何のことだろうか、と首を傾げる。
思い浮かぶのはクローゼットに大量に入っていた誰かの忘れ物らしき服である。
「クローゼットに入れておくように伝えたのだが、サイズや好みが合わなかったのか?」
「前の人の置き忘れじゃなかったんですか? 見るからに高そうなものばかりで枚数もかなりありましたが……」
「ダイリのために用意させた。好みが分からなかったからな、とにかくいろんなものを集めるように指示した。といっても時間がなかったからどれも既成品で申し訳ないが……」
「十分すぎるくらいです!」
そもそも一般の人間は服といえば既成品もしくは手作り品である。
既製品だってポンポンと購入するようなものではない。収入にもよるが、多少のほつれなら繕うし、丈が合わなくなれば調整するなり弟妹に譲るものである。
わざわざ頼んで作ってもらうのなんて一部のお金持ちか貴族くらいなものだ。少なくとも私はそんなもの怖くて着ることは出来ない。
あのクローゼットの中の物だって簡単に腕を通せるかと聞かれれば、私は勢いよく首を横に振る。
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