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◆オリヴィエからの手紙

タイラン視点

「あの女、何者だ?」

 部屋に戻ったタイランは改めてオリヴィエからの手紙を眺める。


 数日後にこちらにやって来る予定だった彼女から、予定が変わったとの連絡が入ったのはつい昨日のこと。


 てっきり魔界に来る日が遅れることになったのだろうと思っていたが、まさか他の人間を送ってくるとは思わなかった。


『その子は王都の教会で聖女見習いとして働いていました。少し訳があって、私の代わりに二年ほど魔界で過ごしてもらうこととなりました。私の代わりにその子を頼みます』


 手紙に書かれていたのはこれだけ。得られた情報はあの女が聖女見習いであったことと、訳ありであることだけ。


 そもそもオリヴィエの魔界行きの理由は厄介払いである。

 元大聖女である彼女には力がある。大聖女が変わって五年が経つ。だが未だに発言力は大きく、新大聖女派と元大聖女派の派閥が分かれるほど。


 オリヴィエの存在は、新体制に移りたい教会にとって邪魔だった。だが簡単に排除出来ない。そこで教会は簡単に口出し出来ない場所に送ってしまおうと考えたのだ。


 だから他の誰かを送って魔界行きを回避したところで、教会という存在から逃れられる訳ではないのだ。むしろオリヴィエが魔界にいないと分かれば騒ぎになる。新大聖女派も元大聖女派も探し出そうと躍起になるだろう。今よりも厄介なことになるかもしれない。


 なにより、オリヴィエ自身も魔界行きには納得していたはずだ。タイランがこちらに来る直前にも彼女の意思を確認している。


 常に居場所を把握されるような生活になっても、死ぬまで利用され続ける生活よりはずっとマシだ。むしろ教会から解放されて清々する。いざとなったら偽装すればいいと笑っていた。

 その時にはあの女の話は出てこなかった。


 つまり、あの時まではオリヴィエ自身が魔界に来る予定だったのだ。だがたった十日にも満たない間に予定は狂った、と。そう考えるのが自然だろう。


 あの女はオリヴィエが教会を敵に回してでも計画を変更する必要があるほどの訳ありなのだ。なぜか当人は事の重要性を全く理解していない様子なのが怖いくらいだ。


 何かある。だがその『何か』を告げるつもりはない。

 いや、タイランにさえ告げることの出来ない理由があるのかもしれない。送られた理由が定かではないにしろ、オリヴィエがタイランに望むのは彼女の保護。

 魔王に怯えたかと思えば、魔族の根城で呑気におやつを作るような変な女を託されたのだ。


 赤の他人からならお断りだと返却するところだが、相手はオリヴィエ。タイランが師匠に次いで信頼する相手である。確実に面倒事だと思いながらも引き受けるしかなかった。


 名前を聞かなかったのはその面倒事を少しでも減らすため。どうせ二年でいなくなるのだ。情なんて持ちたくない。嫌われて距離を取られるくらいがちょうどいい。


「それにしてもこれ美味いな……。それにあの女の魔力、覚えがあるような? 聖女見習いとは接点なんてないと思うが」


 訳あり女の作った蒸しパンを咀嚼する度に疑問は深まるばかり。

 答えを知っているであろうオリヴィエは、今どこにいるのかすら分からない。


「めんどくさっ」

 タイランの呟きは誰かに届くことはなく溶けていくのだった。


1章はこれにて完結です。

次話から2章に入ります。


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