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29.2話

 ここまでの記憶を静かに鑑賞していた者たちは全員黙り込んでいたが、驚きを隠せなかったクリストハルトが静けさを破るように言葉を漏らす。


「ミスティア……、まさか? このような大物が関わっているとは……!」


 ごくり、と喉を鳴らすクリストハルト。

 その顔には汗が浮かんでいる。


「誰なんだそいつは?」


 意外そうな表情でフレンツが問いただすと、クリストハルトはそちらを向いて答えた。


「邪教“サバスサバト”が“主教首座”のひとり、“欲深きもの”ミスティア。わかりやすくいえば邪教の最高幹部です」

「なるほど、大変わかりやすい。で、そいつはヤバいのか?」


「ええ、とてつもなく。“主教首座”の者たちはそれぞれが別の目的で陰謀を進めていると言われています。……個々が独自に活動する指導者というわけです」

「ん? そいつら協力してないのか? 」

「なにせ好き勝手に生きることが彼らの教義ですから」

「なるほどね、納得」


「“欲深きもの”は過去には聖都ティカヌス異端審問会と戦いながら、いまだ生きて活動を続けている極めて危険な存在です。その名の通り、強欲で執着心が強く、欲しいものを手にするためには何をしてくるかわかりません」


「聖都ティカヌス……、神聖帝国ゼナードの首都だな。要するに、大陸最大の信徒を抱えたゼナー教の中でも精鋭中の最精鋭ってわけか? ……そんな奴らとぶつかりあっても潰されてないのは確かにヤベえな」


 詳しい話を聞いたフレンツは、頭をかいてから困ったように手のひらを上にする。

 降参、と言っているようなポーズだ。

 その姿に苦笑したクリストハルトは、ついでのように言葉を付けたした。


「その通りです。教会の最高戦力といっても過言ではありませんね。もちろん、私の所属する小麦(セモリナ)聖騎士団も精鋭部隊なのですけれどね。私自身は最前線には出ておりませんが」

「最北東の氷の大地でいまだ残り続ける魔王軍の残党の抑えっつう、あの騎士団か。傭兵の俺でも知ってるよ」


「私もあなたを知っておりますよ、フレンツ殿。古い話ですし覚えていらっしゃらないでしょうが、小さいころにあなたに鍛えていただきました。……クリストハルト・フォン・ゼンダーブルク、と言えばいかがです?」


 思わぬ言葉を耳にして、フレンツは驚きを隠せなかった。

 その家名を聞き、一気に記憶のふたが開いていく。


「……ああ、ゼンダーブルク将軍の孫か! そういやあの人も元聖騎士だったなぁ。いやあ、世間は狭い。そうか、あのガキんちょが聖騎士になったか。俺もオジサンになるわけだわ」


 そんな世間話のような会話を周りの者たちは興味があるような無いような雰囲気で聞いている。

 というのもフレンツという男は過去のことをほとんど語ったことがないからだ。

 しかし、語っている内容は、昔教えたことがある、というそれだけの話なので面白い過去が発掘されたわけでもない。

 結果として、続きが聞きたいようなどうでもいいような、そんな空気になっていたわけだが……。


「失礼、話が逸れましたね。……ともかく、さきほど記憶をみせていただいた中で重要な情報は2つあります」


 と、クリストハルトが話を元に戻したので、ある意味では皆が引き締まって集中することになった。

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