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第25話 ごろごろは義務です

 リボーヌ城の大広間ではパーティーが行われ、グイエン侯爵とカライス伯爵による共闘宣言が正式に発表された。

 戦後の話し合いが終わったことで、数時間前には敵対していた者同士が今では仲良く祝いの席を満喫しあっている。

 少なくとも、表面上は。


 聖女として戦意高揚に用いられたカナも、はじめは豪華な食事を楽しんでいたのだが……。

 途中から、聖女と話したい、コネを作りたい、という貴族などが殺到しだしたのだ。

 カナの方に行かないよう、領主らがなるべく食い止めてはいたが、それにも限界がある。

 なんやかんやと頻繁に話しかけられるのが面倒臭くなり、カナは途中で退席してしまうのであった。



 そして現在。

 ロロと共に城内の与えられた部屋に戻ったカナは、のんびりとベッドに転がりくつろいでいた。

 姉妹そろってぐったりと横たわり、安らぎの時を満喫している。


「疲れたよ~」


 寝転がりながらくたびれた声を出すのはカナだ。

 戦場や儀式での疲れもないわけではないが、どちらかといえばパーティーの方がカナにはこたえた。

 話しかけてくる者たちに悪意があるわけではないが、カナは静かに気楽に食事をしたかっただけなのだ。


「カナ姉様、お疲れ様でした。ロロも頑張って疲れましたので、うざくないよう、よろしくお願いします」


 同じベッドで共にふかふかしているロロが頭をカナの方へ差し出す。

 よろしくお願いします、とは要するに催促だ。

 カナは慣れた手つきでロロの頭に手をあててさらさらと撫でていく。


「なでなで~っと。ロロの頭を撫でてると安らぐね~」

「撫で心地に定評のあるロロですから。さ、ごろごろしましょう」


 繊細に丁寧に髪の一本一本をほぐすように。

 眠気すら誘いそうなその手つきに、ロロも満足して微笑んだ。


 カナはクラブ本家に引き取られて以来、ほとんどの時をロロと共に過ごしてきた。

 たまにあった兄からの命令や修練以外のほとんどを。


 同じく兄の手伝い以外にやることのなかったロロは、共にくつろぎカナに撫でられるのを好んだ。

 そこでカナはよりよき心地よさをもたらそうと、撫で方を研究し続けた。

 練習台にしようとした近所の猫に怯え逃げられながらも、まるで武術の修練のように研鑽を積み続けたカナは、撫での極みに至ったのだ。

 大した時間もかからなかったし、実際に極みかどうかはわからないのだが、ロロが満足していればそれでいいという結論に至っただけでもある。


「ごろごろ~、懐かしのやわらかベッドだね~」


「快適です。至福です。さらに御本があればよかったのですけれど」


 ロロは喜ぶ。

 姉であり兄でもあるカナが、こうして落ち着いて楽しそうにしていることを。

 それこそが、願いであり、役目であり、遺志であるのだから。


「あ、何か探してこようか?」

「カナ兄様。ごゆるりと、御心安らかに――」


 ロロは決して忘れない。

 はじめて出会った日のことを。

 何の感情もないまなざしで静かにたたずむ、虚無の器のような兄のことを。

 美しくも恐ろしいその生き物に、怯えすくんでしまったあの日の後悔を。

 

 カナにとってロロとセタこそが、優しくも厳しく接し、教え、“人”に戻した者たちだ。

 それ故に、ロロもわかっていた。

 自身が過れば(あやまれば)、カナも過ち(あやまち)を犯すことになるのだと。


 すべては、始母セイオウが遺志のままに。

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