第22話 主教と邪教
「――それで、僕が狙われる理由は何なのでしょう?」
カナが口を開き質問する。
というのも、聖騎士というのは基本的に聖職者であって、人同士の戦争には関わらないものだからだ。
例外があるとすれば、看過できない異教を討伐するための戦争か、ゼナー教の聖地にして神帝が治める遥か北東の地――神聖帝国ゼナードが関わる戦争ぐらいである。
今回は建前として宗教戦争の体となってはいるので、聖騎士がガルフリートの内戦に参戦していること自体はありえなくもないのだが、それならば部隊として参加するだろう。
カナは戦場で聖騎士の恰好をしたものと出会っておらず、そして何事もなく敵軍はやられていったので参戦していたとは考えにくい。
なにしろ聖騎士というのは各宗派が抱える神官戦士の中から選抜された屈指の精鋭だ。
優秀で才能ある子供たちとはいえ、苦戦もなく終わるような相手ではない。
カナとの戦いにしても、ただ敵を倒すというだけならば最初から襲い掛かるべきで、いくらジョルジュ将軍が強いといっても、後ろで見ているだけというのは不自然だ。
相手が強いとみて援護に来たとしても、その程度の理由で聖騎士たるものが音や気配を断って暗殺まがいの不意打ちをするだろうか。
秩序や正義を旨とするゼナー教の聖騎士がそのような行為に出たということは、それ相応の理由があるはずなのだ。
例えば、カナを悪魔と断じて退治する、などの理由だが……。
この場合でもやはり不意打ちを選択する理由にはならないし、たったふたりしか送らないというのがまずおかしい。
「……おお、神よ」
熟年の聖騎士が血をこぼしながら祈りだす。
地に伏したまま右腕だけをもぞもぞと這うように動かして、切り裂かれた自身の胸元に手を当てた。
「偉大なるアティラよ、我を許したまえ。全ては、主教座下の意のままに……っ!」
問いに答える様子がなく、カナが眉をひそめると、熟年の聖騎士が小さくそう呟いた。
――悪寒が走る。
直感的にカナが後ろに退いたとき、熟年の聖騎士は黒き光とともに死散した。
飛び散った死肉からは不気味な瘴気が放たれて、周囲の草木が枯れていく。
カナ自身は見たことのない現象。
しかし、これと同じようなものを、その身に宿る古き記憶が知っていた。
『――これは呪いじゃな。アティラ、と申しておったのは聞いたじゃろ』
「アティラ……、光と闇の神アティラ」
クローゲンに教えられ、カナが思わず口ずさんだその言葉。
それに反応したのは、水にぬれた青年の聖騎士であった。
「……どういうことです」
剣を携えながらも構えることなく、青年の聖騎士はカナの横に並び立つ。
そこに敵意は見られない。
「術のさわりだけしか行使しなかったとはいえ、お早い復帰ですね」
「あの珍しい術は解除させていただきました。――それよりも、ガリウス卿が邪神に祈りを捧げるとはどういうことなのですか」
飛び散った死肉をみつめながら、熟年の聖騎士の名を口にする。
困惑した目で、ただみつめている。
「それは僕に聞かれましても……。あの人自身がアティラ、と口にしていたことしかわかりません。そもそもが何故、僕を狙ったのでしょう? まだ魔族だからという理由でゼナー教の秩序とやらのために襲われる方が納得できるのですが」
カナ自身の口から魔族であると紹介されたが、青年の聖騎士は少し驚いた顔つきになっただけでそれ以上のことは何もしようとはしなかった。
「……我が上司ガリウス卿からは魔族の疑いがある者を捕らえる、と言われてはおりました。しかし、貴女が怪しいと見極めたのはつい先ほどのことです」
「ああ、それで貴方だけは殺気がなかったのですね」
その言葉に、青年の聖騎士が無言のまま頷く。
そして、カナも青年の聖騎士も、会話しながらに同じ疑問を浮かべていた。




