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20.2話

 一拍の間をおいて。


「シャァァルジュッ!――アタァァッカンッ!!」


 地の底から湧きあがったような咆哮。

 大きな大きな奇声のような雄たけびをあげて、ジョルジュ将軍が襲い掛かった。


 ――まるで、騎乗した騎士のように。


 猛烈な勢いで、徒歩による突撃を敢行する。

 超人的なジョルジュ将軍だからこそ可能な、徒歩のランス殺法だ。


 空をきり、地を駆け行き、獰猛な獣の如く飛びかかる。

 その激しくも鋭い突進に、カナは――。


「おお、力強いですね」


 ――と、微笑んで。

 一瞬の交差のうち、ジョルジュ将軍の身体が空高く舞い上がった。


「おおぉぉぉ!? なんとなんとなんとぉ!? 私が飛ばされるとはなぁー! はっはー!」


 突然に浮かびながら、そして落下しながら。

 楽しそうに嬉しそうに、ジョルジュ将軍は満面の笑みで声をあげる。

 常人であれば助からない高さ、死への落下。

 しかし。


「いやはや、新鮮な体験であったぞぉ」


 今度こそ木から悲鳴が鳴った。

 そこには空で停止するジョルジュ将軍の姿があった。 

 落下しながら近くの木にランスを突き刺し速度をやわらげて着地したというわけだ。

 鎧を着たまま、軽快な動きで地に舞い戻る。


「力を逸らし利用して、投げへと転じる、といったところか。まるで魔術のような技の冴えだな!」


 心の底から感心したという風に、ジョルジュ将軍が力強く頷いた。


「スイゲン流の技、たった一度で見抜きましたか。まったく動じず、見事に着地なさる貴方も大したものです」


 カナはそう呟き、ジョルジュ将軍が肩を鳴らす。


「海の上では一度だけ。陸の上では一度も全力を出したことがなかったが……。戦士の本懐を遂げる機会もないまま燻っていたのだが……。まさかこのような少女が全力を出させるとはなぁー!」

「楽しいですか、楽しそうですね」


 ジョルジュ将軍が放つ鋭き突きを、カナが優雅に上体を逸らして避ける。

 突きが当たらないと理解した時点で、すぐに引き戻し、再び突く。


「ええ、僕も楽しいですよ」


「ヌゥン! ドゥィヤ! ド、ド、ド、ドゥィヤ!」


 吼え声とともに放たれる高速の閃き。

 突き、戻し、突き、戻し、突き、戻し、――高速のリズムで行われる突きの連撃。

 かわし、流し、ずらし、避け、――全ての突きをほとんどその場から動かずに回避しきるカナ。


 それらの突きに慣れてきたところで、ジョルジュ将軍の突きは一気に速度を増してカナへと降りかかった。


「――ほぅ、さらに鋭く」


 キィン、キィンと、金属音が幾度もこだまする。

 今度は避けず、杖で受け、回して弾き、力を逸らし、まるで演舞のようにした動きでその全てを受けきった。

 ここぞとばかりにジョルジュ将軍が猛烈な一撃を放つが――。


「――流水の型、スイコエンジン」


 ランスに巻き付くような動きで杖が回り寄り、ジョルジュ将軍を再び空高く放り投げた。


 カナの操るスイゲン流兵法はクラブ一族に脈々と受け継がれる伝統の武術である。

 スイゲン流は太古の昔より編纂され伝えられてきた武の集大成であり、七つの源流を元にした型で構成されている。

 そのうちのひとつが力の操作を得意とする流水の型だ。


「ぬぉぉ!?」

 

 プレートメイルアーマーを着こんだ状態で回転しながら空中に飛ばされたジョルジュ将軍は、そのまま地へと落下していく。

 しかし、態勢不利な状況から、ジョルジュ将軍は空を回りながらも近くの木を蹴って、落下の勢いを合わせながらカナの頭上に降りかかった。


 偶然ながらも後方から降りそそぐ超速の急襲は、微動だにせぬカナの視野には入らない。

 鋭きランスの先端が動かぬカナを捉える。


 その外で、聖騎士らは祈るような仕草で目をつむり、小さく口を動かした。


 後ろを向いたままのカナの身に、ランスの先端が刺さろうというとき。

 その手にもつ錫杖が後方に伸びて、正確無比なタイミングでランスを絡めとる。


「では、水平に」


 カナの言葉とあわせて、急襲したジョルジュ将軍の勢いがねじ曲げられ、水平に投げ放たれる。


「なんとぉ! 今度は水平か! はっはぁ! では私も水平射撃と行こうではないか!」


 くるくると回りながら水平に飛ぶジョルジュ将軍が、再び木の幹を足場にして、射撃と言いながら自身の身体を打ち出した。

 より速く、より鋭く、より強く。


「アタッカァァンッ!」


 カナの付近までくると、同じように再び投げられ、再び戻る。

 何度も、何度も。

 鋭き、凄まじき速さ。


 それは奇妙にして超人技の応酬、斬新にしてバランスのとれた攻防。

 わずかな数の観客が見守るなか、曲芸の如き極限が交わされ続けていた。

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