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18.2話

 同じ頃、左端に配属されていたマルキアス隊でも、そうした敵軍の変化を目の当たりにしていた。


「なんだ……? 逃亡兵?」

「騎士が真っ先に逃げ出したのでしょうか? マルキアス様」


 マルキアスが漏らした言葉に配下の女性、イザベッラが反応する。


 このあたりの戦局は比較的落ち着いているのだが、敵軍に徴集兵が多く配属されていたことに加え、余力をもってあたるようにとオーリエールからの指示があったことも理由のひとつだろう。

 左端の部隊には、敵軍が敗走した場合はそれを逃がし、敵軍が挟撃をはなれて態勢を整えようとすればそれを防ぐ、という役割があったからだ。


 マルキアスはその騎士たちの動きに眉をひそめ、――やがてその表情が変わる。


「……いや、違う! 逃げる奴の気迫じゃない!」


「まさか、あそこから突撃を……?」

「たった3騎ですよ。そんな無茶な……」


 マルキアスの言葉に、配下の男性2人が驚いたように口を開いた。


「戦闘の男の恰好を見る限り、おそらく将だ。指揮官である将が単独で動く理由。……自身の武をもってこちらの指揮官を討つことか! まさかと思う無茶だからこそ、意表をつけるというわけだ!」


 正解を引き当てたとばかりにマルキアスの口元が釣りあがる。

 その姿に、配下の者たちは感心したように声をもらした。

 イザベッラを含め、この直属の配下3人は、マルキアスの貴族時代から付き合いのある者たちで、家を潰され追われたときに共に脱出した同郷の友人たちだ。


「味方は……気づいた様子がない。……端っこにいた俺たちだからこそ、か」

「ど、どうしましょう。本陣に知らせますか?」


 イザベッラは焦りながらその反応をうかがったが、マルキアスは少し考えてから首を振った。


「それでは遅い。……イザベッラ、デクラン部隊長に伝えろ。俺たちは横から来る敵を迎え撃つために持ち場を動くってな」


 マルキアスが指示を飛ばす。

 部隊こそ任せられているものの、マルキアス隊はデクランの指揮下に配属された部隊だ。

 最前線の者は戦いの渦中にいて近視眼になりがちなので、左端にいるマルキアスらが敵軍の動きを観察し、その変化を報告するのは大事な任務なのであった。


「は、はい!」


「悪くない選択だが、ここに俺がいたのが不幸だったな」


 マルキアスは断言する。

 初陣に緊張する心を押さえつけるように。


 貴族として厳しい訓練を積んできたのだから、決闘においても引けを取るつもりはない。

 正々堂々とこうした障害を打ち破ることこそ、貴族として再起するために必要なことだと考えていた。

 家族を捨てて逃げ出した父とは違うのだと、自身に言い聞かせるように。


「フェリペ、クリストバル、いくぞ! マルキアス隊、これより側面から来る敵を迎撃する! 早まった敵を手柄に変えてやれ!」

「おおー!」

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