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第95話 立ち位置

 マホの合図でスマイルと二人同時に勢いよく扉を開けて飛び込む。


「魔の根源たる──あれ?」


 汎用のワードから視認した敵に合わせたワードと組み合わせようとしたマホだったが──。


「なんやハズレかいなー!」


 そこには何もいない。

 カラ部屋だったようだ。


「あのね、普通は「当たり」っていうのよ?」


 スマイルのリアクションに呆れたようにティエラはそう言う。


「ふぅ、何事もなくて一安心だ」


 突入する二人をハラハラしながら見ていたリョウヤもホッと息を吐き出す。


「まー、いくらマホっちでも全部思い通りってわけじゃないよねー」


 少しだけそこにモンスターがいることを期待していたヘヴンリーも安堵している。


「マホ姉さん! いくらなんでも二人が前に出るのは危ないですよ!」


 珍しくレイもマホに対して咎めてくる。


「ハハハ……ごめんごめん。なんか楽しくなっちゃって。次は前をお願いするね」


 それにはマホも頭を掻き、苦笑いしながら謝る。


「はい!」


「ん! 任せてー!」


 マホが反省したので二人も雰囲気がいつもと同じになる。


 そしてカラ部屋を抜けて進むと次は広いか狭いかの二択。


「これはもう広い方! どんどん行こう!」


 最初の宣言通り、二番目以降のこの分岐は広い方の道を選び続けている。

 そして毎回モンスターと遭遇していた。


「あれ? またモンスターいないね」


 しかしここでは「当たり」を引いたらしい。

 つまり狭い方を選んでいたら面倒な戦闘になっていた、ということになる。


「ほらー、マホっちが戦おうとするからモンスター逃げちゃったよー?」


 先程のマホのノリをイジってくるヘヴンリー。


「ええっ? そ、そんなことあるの?」


 それを間に受けるのがマホだ。


「ないない。ヘヴンリーも適当なこと言わないの。でも、ハーちゃんには謝った方がいいわよ? ほら、すっごく残念そう」


 ティエラの言葉にホッとしつつ、言われた通りに後ろを振り返ると、最後尾のハートのテンションがガタ落ちして負のオーラが出ているのが目に見えるくらい肩を落としている。

 こちらはこちらで戦闘シーンを撮りたかったらしい。


「わわわっ、ハーちゃんゴメン! 次はきっとモンスター引くから!」


「はは、ここに入ってそんなことを言うのはマホさんくらいですね。普通はモンスターの出ない楽な方を求めるんですけど」


 マホの発言にいつものハートの雰囲気が戻ってくる。


「でもハーちゃんもマホと同じこと求めてるわよね?」


「そうですね。こういうのを気が合うと言うんでしょうか。これまではそういう方はいませんでしたから……」


 ハートはティエラの指摘に口元を緩めながらも少し斜め上の虚空を見つめる。


「撮影したいって言われて歓迎するパーティもなかなかないよねー」


「ハートを知らなければ、実質5人パーティになると思うだろうしな」


 その意味を理解しているヘヴンリーもリョウヤもハートの苦労を想いつつ、ハートを加える側の立場を想定した意見も交える。


「ええ。ですがみなさんはこういった足手纏いを連れては行けない場所へも同行させてくれます。本当に感謝してますよ」


「何言ってんねん。ウチはハーちゃんが足手纏いやなんて思ったことないで?」


「ええ。そもそもハーちゃんは強いしね。いざという時はちゃんと動いてくれるってわかってるし、何より動画が面白いわ!」


「そう! それが一番だよねー。特にマホっちの動画!」


「ちょっ、ヘヴンリー! でも、私も楽しみにしてるんだー!」


「あの……この前のイベントの動画、すごくよかったです!」


「そうっス! それに深夜組は一緒に戦ったじゃないっスか!」


「みなさん…………この程度では僕は泣きませんからね?」


 ハートの返しにスマイルはガクッと膝が折れる。


「まぁ、なんだ。俺はこのクラン設立の時にハートがいてくれてよかったと本気で思ったぞ」


「はは、女性ばかりでしたからねぇ。ともかく、みなさんありがとうございます」


「ハーちゃん、お礼なんていらないよ? このクランは『気まぐれ』なんだから、みんなが好きにやっていいんだよ。やりたい事を見つけたら言っていいんだよ」


 それはハートに向けられた言葉だったのだが、別の一人の胸にも響いた。

 ただその心の内を明かすのはまだ先だと、開きかけた口を閉じた。


「ふふ、ありがとうございます。──おっと、お礼は不要でしたね。では、思う存分撮らせていただきます」


「うん!」


「マホっちに向けてだと、言葉だけならヤバい人だよね」


「ぷっ、せやな」


「まぁ、ハーちゃんは最初からそう言っていたけどね」


「ふっ、折角の感動のシーンを茶化してやるな」


「そうですよ。マホさんがいい事言ったんですから。ねぇ、リョウヤさん」


 リョウヤがフォローに回ると、ハートはあえてそう続けた。

 二人はアイコンタクトを交わすと、フッと笑う。


「ああ」




 また辿り着いたチェックポイントを抜け、8人は進む。


 そして二度目の扉の分岐に当たる。


「今度こそ右! リョウヤさん、ヘヴンリー、レーちゃんお願い!」


 マホが扉を選び、その左右にヘヴンリーとレイ、正面にリョウヤが立つ。


「マホちゃん、合図してくれるか? 二人はそれに合わせて開けてくれ」


「オッケー!」

「はい!」


 リョウヤの指示に前衛二人は武器を右手で掲げて返事する。


「よーし、それじゃいくよー。……せーのっ!」


 マホは一瞬間をとって視線で前衛を確認してから合図を送る。


 そして二人が扉を開けてリョウヤが飛び込む。


 その瞬間、ムチのようなものがリョウヤを襲うが、想定していたリョウヤは盾でしっかりと受け止め、()()はバチンと弾かれる。


「やはりな!」


「うわ、き、恐竜?」


「ちゃう! デッカいトカゲや! こいつがボス級ってことやな!」


 その姿を見たマホは本で見た恐竜かと思ったが、先に名前を見たスマイルが否定する。

 先程のムチのような攻撃はヒュージリザードというこのモンスターの長い尾によるものだったらしい。


「さっき出てたら私達モロだったね……」


「せやな……」


 改めてマホ達はリョウヤ達が何を心配していたのかを理解し反省する。


「マホ! よく見て!」


 ティエラの声が飛び、改めてマホは視線を前に向けた。


「え? 二匹?」


 ヒュージリザードは一体ではなかった。

 先程攻撃してきた方はかなり手前にいて、それに遮られて見えなかったその奥にもう一体控えていた。


「確かにボス級も一体だけとは言っとらんかったけども!」


「スマぷー! 手前から──え!?」


 それぞれ杖を構えて詠唱に入ろうとしたタイミングで手前のヒュージリザードがバックステップし、奥のもう一体がマホに向けて飛びかかってきて前足のツメを振りかざす。


 虚を突かれたマホはその瞬間詠唱も回避も諦め防御を選択する。


「おっと!」


 そこにリョウヤが割り込み盾でガードする。


「リョウヤさん!」


「はあっ! ……だいぶ慣れてきたな、いい判断だ。だが、今はその必要はない。二人は魔法に専念してくれ」


 盾で抑えたまま一気に押し返し、即座に判断できるようになったマホの成長を讃えるが、今前に出るのは自分達だと主張する。


「そーそー、その為にあーしら前衛がいるんだかんねー!」


「そうですよ!」


 ヘヴンリーとレイも続いて体勢を崩したヒュージリザードに斬りかかる。


「もちろんあたし達もね!」


「いるっスよ!」


 ティエラとアークは行動に移ろうとしているもう一体を牽制してくれる。


「わかった! トカゲには……何がいいんだっけ?」


「確か熱や! 熱いんも冷たいんも効くはずや! ここは火でいくでー」


 火と氷で攻めるのなら統一しないと相性が悪い。

 そこでスマイルはすぐに火を使うことを伝えた。


「よーし……。光を奪う闇の炎よ 魔の根源たる我に応え敵を焼き尽くせ! ダークフレイム・ジャッジメント!」


 ヘヴンリー達が応戦している方のヒュージリザードに狙いを定めて魔法を放つ。


 黒い炎が巨大トカゲを包み、そこに更にスマイルから放たれた炎の矢が間を開けて数本突き刺さる。


「爆ぜろ! ダークフレア!」


 炎の中のヒュージリザードの残りHPを見て、炎が消えると同時に簡潔に魔法を詠唱し、トドメを刺す。これで残り一体だ。


「ねぇ! たまにはみんなも思いっきりやろうよ!」


 いくらなんでもここまでマホとスマイルばかり戦っている。

 いや、正確には全員戦っているのだが、他のメンバーはあくまで黒子役に徹していた。

 なので既に一体倒した今なら、とマホは方針変更を叫ぶ。


「その言葉を待っていたんだ!」


「やっちゃうかんねー!」


「いただきます!」


「負けないわよ!」


「やるっス!」


「ふふ、ではせっかくなので僕も」



 一瞬だった。


 物理組の全力は、残ったヒュージリザードに抵抗する暇も与えずに瞬殺してしまった。もちろん明らかなオーバーキルだ。

 元々二体同時出現固定で合わせて通常のボス一体分程のHPしかなかったとはいえ、それでも改めてこのメンバーの火力の凄さを感じたマホだった。


 まぁ、炎の継続ダメージもあったとはいえ、その半分近い火力を単独で出しているマホは更に規格外の域に達しているが。



 そして次のチェックポイントで一旦終了することを決める。


「だいたい半分手前ってとこだな。この調子なら明日中のクワトロ到着もいけそうだな」


「いやー、とんでもないペースっしょ」


「まぁ、ここは難易度に起伏はないからね。このペースが落ちることはないと思うわ」


「じゃあ、明日12時に! 遅れてもちゃんと待ってるからね!」


「ふふ、そう言ってマホっちが遅れたらあかんでー?」


「大丈夫だもん!」


「はは。マホさんが遅れてもちゃんと待ってますからね」


「そうです! 待ちますから!」


「遅れないってば! ははは。それじゃあ、おやすみー」


「「おやすみー」」


 全員で燭台にロウソクを灯し、ログアウトしていった。

お読みいただきありがとうございます。


評価を頂くとPVも伸びますね。

どちらもありがとうございます。

やはり書く原動力としてどちらも励みになります。


あまり頻繁にこういうことを書かないようにしてますが、まだ評価してない方もよければ下の☆をポチッとお願いします。

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