第92話 久々にやってくれました
街を東側から出てどんどんと進む『気まぐれ』。今回は目立つことも覚悟の上で移動手段も使って全速力だ。
ちなみにアークはオープンカー──リリーフカーのイメージだろうか──で、レイは騎馬だ。
そして以前戦ったエリアボスへと挑む祭壇辺りには他のプレイヤーもおり、マホ達がクワトロへ向かうのだと察して声援を送ってくる。
「あーしらも『気まぐれ』の人のイメージ付いたかなー?」
「明日汽車トマスの動画が上がったらより定着するんじゃないかしら。プレイヤーも見るでしょ」
マホと共にこの街にやってきた時はまだヘヴンリー達も『躍進』のイメージが強かった。
ここで出会ったスマイルもそう思っていたくらいだ。
それがここしばらくこの街を拠点に活動していたことで『気まぐれ』としての認知度も上がってきた。
何よりイベントで『気まぐれ』が一位、マホがMVPを獲得したことが大きい。
ただ全員が揃って目立つ行動をするのはこれが初めてだったので、ここでようやく前回のイベントのMVPが揃っていることに気付いた者がいたくらいだった。
そして祭壇を越え、更に進むと岩山が一つポツンと立っているのが見えてくる。
「アレが境界だよー」
「アレが……」
一気に近付いてその前で全員が降り立つ。
そこには地下に向かう階段のある洞窟への入り口があった。
「この中を抜けたらクワトロだよ。下りながら説明するわね」
「うん。行こう!」
そう言ってマホとスマイルを先頭に足を踏み入れた。
「ここはほぼ真っ直ぐな洞窟だが、謎解きの行き止まりや通路の選択がある。もちろんモンスターもいるぞ」
「謎解きはわかるんやけど、通路の選択ってなんや?」
階段を下りながらリョウヤがまず大雑把に特徴を伝えると、スマイルが浮かんだ疑問をぶつける。
「行き着く先は同じですが、どちらを通るかを選んだりする所があるんですよ」
「え? どういうこと?」
「マホ姉さん、分岐ではどちらかにモンスターが出るんです。例えば出る確率が高い広い道とそれが低い狭い道みたいに」
女子会を経てレイのマホへの話し方も少しだけ変化があった。
以前より僅かに優しい口調になっている。
ただテンションが上がった時は以前と同じだが。
「狭い方で出会ったら最悪ね。戦いにくいことこの上ないわ」
「まー、マホっちなら全部広い方でいいんじゃないかなー」
「せやな。モンスターなんて倒せば問題ないやろ」
「ふふ、むしろモンスターが出ない方を引きそうですが」
ハートの言葉に戦闘を想定していたスマイルもあり得る、と同意する。
「あと大抵謎解きの後はチェックポイントっス!」
「そうね。それとチェックポイントでログアウトする時は、どっちから来たのかちゃんと覚えておくのよ? 間違えて引き返しちゃうと大変なことになるわ」
「何か目印とか覚えておくといーよ」
「わかった!」
メンバーは基本的に行動は共にするが、判断は初見のマホとスマイルに任せるつもりだ。
それはこれまでやってきた方針と変わらない。
「アレは伝えないのか?」
「あはっ、アレを言ったら面白くないっしょ!」
リョウヤが確認すると、ヘヴンリーが茶目っ気たっぷりにそう返す。
「まだなんかあるんか?」
「ふふ、お楽しみ」
全ては明かされず階段を下り切る。
「うわー。思ってたより広ーい」
「せやなー。無限ダンジョンの地下50階くらいあるんちゃう?」
地下通路と聞いて狭い道を想像していたマホの期待は良い意味で裏切られる。
スマイルの方は広い道と狭い道の二択等がある時点でそれなりの広さを想定していたようだ。
「さて、ここからは流石に俺が前に出よう。後衛に前を歩かせるわけにはいかないからな」
「そだねー。ま、道の選択があったら二人に任せるよー」
「マホ姉さんの前はわたしが守ります!」
そう言いながら前衛の三人が前に出て歩き始める。
「うん。よろしくみんな!」
いつものフォーメーションになった『気まぐれ』は、前衛が足止めしつつティエラやアークが牽制し、なるべく戦闘のメインをマホとスマイルが務めるようにして進んでいく。
「うわっ、デカっ! なんやアレ。カエルか?」
前方に見えた巨大な生き物にスマイルが思わず叫ぶ。
洞窟の半分くらいの高さがあるソレはヒュージフロッグというモンスターだ。
「出たな。マホちゃん、魔法で先制攻撃してくれ!」
前方で盾を構えながらリョウヤが指示を飛ばす。
「私!? はいっ! 水だよね? 雷の魔槍よ 我が敵を貫け! ダークサンダージャベリン!」
突然の指示に慌てながらもなんとか敵の弱点を予想して魔法を放つ。
これまではこの程度の詠唱で倒せていたので、「先制攻撃」ということにも困惑しながらの魔法だった。
それでも弱点は当たっており、8000のダメージを与える。
「ウソやん! 全然減ってへんやんけ!」
そのダメージとヒュージフロッグのHPを見比べてスマイルはマホ以上に焦る。
キョロキョロと周りを見ると、前衛のリョウヤ達も近くにいるティエラ達もガチの臨戦態勢を取っている。
「ボスみたいに強いよ! スマぷーも魔法お願い!」
臨戦態勢は取っていてもワードを使った攻撃を繰り出す気配のないメンバーを見て、マホはスマイルに協力を仰ぐ。
よく見ると、ティエラやアークはヒュージフロッグが口を膨らませる動作をする時だけ牽制を入れていた。
「ウチらだけで倒せるよーにしてくれてるんやな! 深く突き刺されやぁ! ディープサンダーアロー!」
メンバーの意図を察したスマイルもウルトラレアも使って全開で魔法を放った。
「私ももう一発! 雷の魔槍よ 闇の根源たる我に応え敵を貫け! ダークサンダージャベリン・ジャッジメント!」
マホも負けじと全力の詠唱だ。
雷の矢と黒い雷光を纏った槍が突き刺さり、ヒュージフロッグを倒す。
そしてそれを嬉しそうに撮影しているハート。
「なに今のー?」
「いやまさか初っ端からアレ引くなんてさすがはマホっちというかなんというか」
「まぁ、倒せるから問題ないって予想通りではあるけどね」
「俺達でも相当苦労したんだけどな」
「なんなんや? アレは?」
なかなか答えを言ってくれないヘヴンリー達にスマイルが痺れを切らす。
「アレはこのダンジョンのボス……と言っても普通にPOPするんですけどね。出現率は相当低くて、ここを抜けるのに大体2回遭遇すると言われています」
要は低確率で現れる強敵、ということらしい。
「アレは魔法が弱点らしくて、物理は効かないわけではないんですけど時間がかかる相手で……さすがマホ姉さんとスマぷーです!」
今までならマホだけを称賛していたレイはここでも変化が見られる。
「ありがとレーちゃん。ティエりんにあー君もね!」
「どってことないっス!」
「ふふ、ちゃんと気付いてたんだ。マホもだいぶゲームに慣れてきたわね」
マホもこれまでの経験からティエラ達がヒュージフロッグの行動を阻害していることを理解できていた。
そのことを褒められて少し照れる。
「前衛もアレを全く動かさんかったなー。さすがや」
「まー順番に攻撃するだけだけどねー」
「ん? そうなんか? みんな滅多に会わん相手やのに詳しいやんか」
スマイルは情報が少なそうな相手を把握しているメンバーに何か違和感を感じる。
「実はアレのレアドロップがまた紋章なんだよねー。だからボスって言われるんだけど、向こうに着いてからもけっこー来ることになるんだよー」
そう言いつつもヘヴンリーは既にとある確信をしている。
本来なら一度クワトロへ着いてから入手するような紋章なのだが。
「というわけでマホかスマぷー、アレのドロップ確認してみて」
ティエラも同様だ。
「わかったー」
後衛で離れていたマホが駆け寄ってヒュージフロッグの死体に触れる。
「ふっ、やはりな」
そう言ったリョウヤの目の前にはドロップ品のロット画面が出ている。
ロット対象のドロップ品は「ミストの紋章」。カエルの絵が彫られた紋章だ。
「だよねー」
「マホだもの」
ヘヴンリーとティエラも納得の表情をしている。
「す、すげーっス……一発で出たの初めて見たっス……」
初めてマホの引きを目の当たりにしたアークは驚愕している。
「さすがマホ姉さんです!」
レイはいつも通りだ。
「ま、マホっちやもんなぁ。けど! 出たからにはロット勝負やでー!」
「無意味ですが僕も持っていないので参加しましょうかね」
「どーゆー意味や?」
ハートもロットに名乗りを上げるが、その理由を理解していても認めたくないスマイルは食い下がる。
「まぁ、そういうことですよ」
三人以外がロットから降り、最後にマホがロットに参加する。
「やった!」
手に入れたのはマホだ。
「わかっとった……わかっとったけど、なんなんやこの引きは!?」
「まぁまぁ、この引きがなければそもそもロットに参加すら出来なかったんですから」
「つまりマホにロットで勝ったことがあるあたしが一番引き強ってことね」
ガックリと項垂れるスマイルをハートが励ますが、そこにティエラが後ろからドヤ顔で追い討ちをかける。
「ああ、そういえばツインの山ダンジョンで……」
ハートはその時のことを思い出す。
「くっそぅ! 次や! 次はハーちゃんには負けへんからな!」
「ふふ、僕も負けませんよ」
楽しそうにスマイルからの挑戦を受けるハート。
ハートは気付いているが、スマイルはまだ自分の発言の異常さに気付いていない。
「次がすぐに来るって思ってるあたりスマぷーもマホっちに毒されてるよねー」
「確かにな」
後方でそのやり取りを眺めていたヘヴンリー達も楽しそうにしている。
「むしろそれならどうして今回だけで3つ揃うって発想にならないのか不思議だわ」
ヘヴンリー達の方に戻ってきたティエラは二人の会話が聞こえていたらしく、サラッととんでもない発言をする。
「あ、あのー、ティエラ姉さん? まさか本当に今回だけで揃ったりとか……しないっスよね?」
一人正常な感性を保っていたアークが恐る恐る尋ねるが、ティエラはニッコリと笑って首を振った。
お読みいただきありがとうございます。
実際のティエラの引きはそこまで強くありません。(過去のマラソン発言等)




