第90話 リョウヤの盆休み
マホ達が対面を果たした2日後、また別の都内某所の飲み屋街にて。
二人のスーツを着たサラリーマン風の男がその中の店の一軒から出てくる。
「いやー、良夜と飲むの久々だったから楽しかったぜ。ゲームもいいが、たまには飲み行こう」
「悪いな。ゲームの方が飲むよりストレス解消できるんだよ」
「ったく相変わらずだな。盆休みくらいゆっくり休めよ?」
「そうだな。そのつもりだ」
二人は明日から盆休みに入るようだ。
「お、珍しい。そんじゃ俺はこっちだから。じゃな。また休み明けにな」
「ああ。お前のことだからミニキャンプでもやるんだろうが、ケガすんなよ?」
「わかってるって」
ゲームとアウトドア。対極の趣味を持つ二人だが、ウマは合うらしい。
「さて、終電はまだあるな。危ない危ない」
良夜と呼ばれた男は時計を確認すると、緩めたネクタイを更に緩めながら駅へと向かう。
「ふぅ……。普段飲まない酒を飲んだせいかまだ眠気もないし……どうしたもんか。センブレは盆休みだしな、前にやっていたO2でも起動するか」
帰宅した良夜はシャワーを浴びると付けっ放しのパソコンの前に座り、オベリスクオンラインのアイコンをクリックする。
「さすがに自動入力消えてるか。プレイヤーネームは「リョウヤ」と。パスワードは……久々でも体が覚えてるもんだな」
この良夜こそマホ達のよく知る「リョウヤ」だった。
タタタッと手早くキーボードを走らせログインすると、ゲーム画面が始まる。
このゲームは今ではレトロゲー扱いになるコントローラー操作とキーボードでのチャットを行うゲームだ。
画面には同志チャットに「リョウヤがログインしました」と表示されている。
同志というのはセンブレでいうクランに近く、5、6人の少人数で、同一エリアにいれば自動的にパーティとして扱われるグループだ。
「マジか。てっきりキックされてると思ってたんだが」
センブレのゲーム名こそ出していないが、別のゲームに移行することを伝えていた為、良夜はまだ自分が同志に所属していることに驚く。
『リョウヤじゃねぇか! 久々だなおい!』
良夜が何かをする前にゴーズというプレイヤーからチャットが飛んでくる。
「始めたゲームがメンテ入ったんで。お久しぶりです」
これまたキーボードを素早く打ち返事をする。
このゲームでの良夜はかなり年少な部類に入り、言葉遣いも丁寧だ。
『リリー達が戻ったと思ったらお前もか! フルメンバー揃う日も近いんじゃねーか?』
「リリーさん達が? あの二人復帰されてたんですね。あっちに集中しててすれ違ってたみたいです」
リリー達というのがマホの両親。二人はマホが生まれてから一度離れ、この一年の間に月一という限定的なものだが復帰している。
それよりも前にセンブレに移ったリョウヤはそれを知ることもなかった。
『娘ちゃんが気を利かせてくれたみたいよ。いい子だよねー、ゲームに理解があるなんて』
『その子も何かゲームを始めたらしいわよ。なんて言ったっけ?』
今度は女性らしい口調のミカとリンというプレイヤーからのチャットが続けて並ぶ。
「それって、もしかしてセンブレですか? センチメンタルブレイク」
良夜の方にも心当たりがあった。
以前マホが両親もゲームをすると言っていたこと。その時は「もしかしたら」程度で、二人が復帰しているとは思いもしなかったのだが、ここにきて予感が確信に変わる。
『あー! それそれ! めちゃくちゃハマってるって喜んでたよー』
『何? もしかしてリョウヤが移ったのってそのゲームなの?』
またもミカとリンのチャットが連続する。
「はい。もしかしたら娘さんと一緒にやってるかもですね」
『はっはー、そんな偶然あるか? 二人は前の土曜に来た時、今週も来るって言ってたから聞いてみろよ』
マホの両親は第二土曜にいつも通り参加した際、今月はもう一度プレイできそうだと言い残していた。
というのもマホ達が帰省から戻ってもセンブレはまだプレイできない為、マホからその提案をされたのだ。
「いつ来ますかね? 俺は今週一杯は来れますよ」
『いつもと同じなら土曜日ね。そして12時ごろ』
「わかりました。必ず来ますよ」
良夜も二人とまた話したいと思っていたし、マホのことの確認よりも再会が楽しみだった。
『よーし、リョウヤが来たならアレ行こーぜ!』
『いいねー。盾いないと無理だもんね』
「ちょ、久々でアレですか? 動けるかな……」
『ダイジョーブ! 体が覚えてるって!』
ベテランメンバーの無茶振りを受けながらも久しぶりのO2を堪能した良夜。
そして土曜日。
「12時10分前か。ふぅー。さて行くか」
良夜は期待による緊張を大きな息で吹き飛ばしてO2にログインする。
『来たわね。まだ二人は来てないけどそろそろ来ると思うわ』
リンが出迎えのチャットを送ってくる。
良夜もなんとなくそうだろうと思っていた。マホがやってくるのは大抵一番最後か時間ギリギリだ。
それならその両親の行動パターンも同じだろう、と。
「はい。なんか緊張しますね」
待つとなると飛ばしたはずの緊張も戻ってくる。
『なーに言ってんだ。いつも通りでいいんだよ。二人もなーんも変わってねぇよ』
『そうそう。あのノリに緊張なんてするだけ無駄ね(笑』
今度はゴーズとミカがその緊張を笑い飛ばす。
そんな会話をしているとマホの両親、リリーとヤズがログインしてきた。
「お久しぶりです、リリーさん、ヤズさん!」
リョウヤは真っ先に挨拶を打ち込んだ。
『あら、リョウヤじゃない! 久しぶりね』
『おー、お前も来たのか。さてはメンテ休みだな?』
マホの父・ヤズは既にO2のリョウヤ=センブレのリョウヤではないか聞いていたので、いきなり核心に迫る。
「はは、図星です。他にやることがなくて」
『ということはやっぱり娘の言ってたリョウヤは貴方ね?』
「間違いなさそうですね。俺もその話を聞いた時は驚きました」
『世間は狭いなー。こないだもヘヴンリーちゃんとティエラちゃんに会ったところだ』
「は!?」
さすがにその情報はリョウヤも予想外だった。
『いい仲間に恵まれて感謝してるわ。娘はゲーム初心者だからよろしく頼むわね』
「いえ、それにしては最初からとんでもなかったですけどね」
『はっはっは、ビギナーズラックってやつか? さすがリリーとヤズの娘さんだ』
『あー納得』
『二人の子らしいわ』
『ふふ、自慢の娘よ』
メンバーの言葉にもこの反応だ。
『ま、トップを獲ったってのは聞いてる。さすが俺達の娘だよなぁ』
ヤズも姿は見えなくとも胸を張っているのがありありと目に浮かぶ。
「俺も負けてばかりではいられませんよ」
無限ダンジョンイベントでマホがMVPを獲ったことは、リョウヤにとっても喜ばしいことではあったが、同時に消えていた炎を灯す出来事でもあった。
クランとしては一位に終わったがMVPを逃し、その前のイベントではMVPこそ獲れたが参加した街は惨敗だった。
『躍進』を抜けた時にはそれでいいと思えていたはずが、やはり「悔しい」と感じてしまう。
これはゲーマーとしての性なのかもしれない。
『何を考えているかわからないけど、リョウヤならいいライバルになるんじゃないかしら』
『うちの娘も簡単には負けんぞ? なんたって俺達の娘なんだからな!』
この両親、親バカもいいところでノリにノッている。
が、深いところでリョウヤの考えを見抜いてもいた。
「二人には敵いませんね。でも、娘さんには負けませんよ」
リョウヤもこの二人にアテられてテンションが上がっていた。
『はいはーい! よくわかんない宣戦布告はそこまでにして遊ぼーよ』
三人で盛り上がっていたところにミカがたまりかねて割り込んだ。
『久々の全員集合だし、SP行かない?』
『いいな。ボスラッシュなんていつ以来だ?』
『私達が一度引退する前じゃないかしら?』
『あの頃はリョウヤも学生だったよなー』
『あーそうだったそうだった。あの初々しいリョウヤはどこへ……』
「勘弁して下さいよ。何年経ったと思ってるんですか」
『言わせてくれよ。俺らもみんな揃うのは嬉しいんだ』
『そーそー。誰かさんが別のゲームにうつつを抜かしちゃうから……』
「はは……すいません」
『リョウヤ級の盾なんてそうそういないんだよ?』
『ま、それを言ったらトップクラスのアーチャーとヒーラーが抜けるのも痛いんだがな?』
『それは言わないお約束よ?』
『トップクラスのマジシャンが何を言う』
どうやら最初にマホが詠唱の参考にしていた両親の言った魔法使いとはゴーズのことらしい。
『ま、確かに大抵の敵なら攻撃受ける前にラッシュで倒せるんだけどねー』
『やっぱり連携が必要な戦闘もやりたいじゃない?』
「わかりました。第二土曜ですよね? 可能な限り都合をつけるようにしますよ」
ずっと放置してしまっていたにも関わらずこれだけの歓迎をされてはリョウヤも胸を打たれた。
以降、マホの両親と同じタイミングでリョウヤもセンブレを休み、O2へ参加することになる。
もちろんセンブレでイベント等がなければ、という注釈が付くが。
そして……それが『気まぐれ』にとって影響があったのはさほど長くない期間だった。
お読みいただきありがとうございます。
リアルのようでリアルじゃないリアル回でした。
今回の新規登場人物はほぼ今回だけの出演です。
あと前話のマホとヘヴンリー達の出会いの描写を少しだけ修正しました。




