第86話 無限ダンジョンイベント終了と変化の予兆
イベント最終日22時ごろ、地下120階のボスを倒したヘヴンリーとティエラがクランハウスへ戻ってきた。
「おかえり! ティエりんが戻って来なかったからビックリしたよ!」
ティエラの予想とは異なり、ハイテンションのマホが迎える。
「耐えられたんだな」
「ギリギリね。少しだけ早く終われたでしょ?」
リョウヤはティエラが装備を切り替えたことに気付いていたらしい。
「そうですね。もうここから階層を進むのは無理ですし、僕らのイベントはここまで、ということになりますか。それとも誰か周回行きますか?」
ハートが確認するように全員と顔を見合わせると、それぞれ否定する。
とくにヘヴンリーはブンブンと首を振っている。
「明日は月曜だしねー。もう十分楽しんだよ」
「ええ、あたしも満足。カケラはそれぞれ10ずつくらいかしら。ほとんど偏りはなかったわね」
ヘヴンリーにティエラも同意する。
そして戦果を報告し合うが、夕方組も深夜組も入手したカケラに大きな差はないようだ。
「あとはランキング報酬で何位のが貰えるかだな。それと交換にいくつ必要になるのか……それは明日に結果と同時に公開だったな」
「また6時だよね。じゃあ、またここでみんな集まって発表を見る?」
リョウヤから結果発表の話が出ると、マホが前回同様に全員でその時を迎えようと提案する。
「すみません、その時間は僕は無理ですねぇ」
「自分もっス」
「ウチもや。深夜組は別で見させてもらうわー。ありがとなマホっち」
やはり平日に全員が集まるのは難しいようだ。
「まーでもMVPはもうわかってるよねー」
「そうだな」
「間違いないわね」
「えっ? 誰?」
ヘヴンリー達はもう確信を持ってそう言うが、マホには思い当たらない。
「この無自覚がマホっちのええとこやんなぁ」
「ええっ!? 私!?」
そこまで言われてようやく自分のことだと気が付いたマホが自分を指差しながら困惑する。
「そうですよ! マホ姉さん!」
「あれだけ強烈な魔法で殲滅しているのを見ていたらマホさん以外がMVPを獲るなんてあり得ないとわかりますよ」
「そ、そうかな? スマぷーも一緒だったよ?」
終盤は特に範囲魔法でまとめて攻撃していて、トータルの与ダメージもかなり稼いでいる。
マホはその表示ダメージの数の多さに自分かスマイルのものか把握しきれていなかったが、側から見ているメンバー、特に後方から全体を見ていたハートには誰が一番ダメージを与えていたか一目瞭然だった。
「ふふっ、まー明日になればわかるよー。あーしも楽しみにしとくね」
「前回でも結構知られたと思うけど、またマホが有名になるわね」
「も、もー! だからってそんな変わんないでしょ?」
そもそもマホにゲーム内で有名になったという自覚や実感はない。
「まぁ、俺達は何も変わらないな」
「そう、そこなんですが」
唐突にハートが割り込む。ハートにしては珍しい態度だ。
「ん? どーしたんやハーちゃん」
そんなハートにスマイルも少し困惑している。
「“僕ら以外“が変わりそうな話があるんですよ。ただ『気まぐれ』も関係ある話なので、全員揃っている今してもいいですかね?」
「よくわからんが、どうせ次の週末まで集まらないだろうからな。マホちゃんが大丈夫なら聞こうか」
「うん。まだ大丈夫」
リョウヤがマホに確認を入れると、その返事を聞いてハートも話し始める。
「まず皆さんは“クローバー“の「汽車トマス」ってご存知ですか?」
「クローバー?」
前提の時点でマホは首を傾げている。
「四葉ってサイトで動画を投稿してる人のことよ。四葉だから“クローバー“って呼ばれるの」
「で、「汽車トマス」はその投稿者の一人だねー。変な電車の被り物してゲームを紹介してるんだよ」
ティエラに続いてヘヴンリーが“クローバー“と「汽車トマス」について説明する。
「ちなみにその方、ゲーム雑誌記者らしくてそれに掛けて「汽車」らしいです。そして雑誌に紹介できなかったマイナーなゲームを動画内で紹介しているんですよ」
「ってことはもしかしてセンブレやるんか!?」
更にハートが詳しく補足すると、スマイルは話の核に気付く。
「それがどうわたし達に関係するんでしょう?」
「ハートの動画を使うってこと、だろ?」
『気まぐれ』に加入して日が浅いレイには思い辿り着かなかった答えにリョウヤは至る。
「はい。正にその通りです。既にプレイはされたようですが、初心者のプレイよりもハイレベルなプレイの動画を使いたいと計画されたところで僕の動画を見られたようで」
「なるほどねー。けっこー番組登録者多いからちょっと恥ずいけど……あーしはいいよ。そーゆーことでしょ?」
ハートの動画を使うということはほぼ『気まぐれ』が映っているものになる。
「ええ。皆さんの了承を得てからでなければと、まだ返事は保留にさせて頂いてます」
「あたしもいいよ。確かに恥ずかしいけど、リアルとはだいぶ違う見た目だしね。それって許可を出したらいつ頃公開されるのかな?」
「予定は8月中旬と伺っています。なんでもこの先1ヶ月は何を投稿するか決めてあるとかで」
「なるほど。俺も構わないぞ。それがきっかけで人が増えるかもしれないなら大歓迎だからな」
リョウヤは目立つことに抵抗はないらしい。
でなければ攻略組の更にその上位に入るなんてなかなかできることではない。
「わ、わたしも映るんでしょうか?」
「もちろん。というか今回のイベントの動画を使って頂こうと思っていますので、レーちゃんさんもあー君さんも映ることになります」
「だから戦わんかったんか! 先に言ってもよかったんちゃうか?」
スマイルは色々と察したようだ。
「いえいえ、僕より有名な方が投稿するとわかったら皆さん緊張してしまうでしょう? 僕が撮りたかったのは普段の皆さんの姿ですから」
「え、えっと……あたしは大丈夫です。恥ずかしいですけど……マホ姉さんのカッコいいところが有名になるかもしれないんですよね!?」
「レーちゃん!? そう言われると恥ずかしくなっちゃうから……でも、私もいいよ、ハーちゃん。もうハーちゃんに何度も撮ってもらってるしね」
少なくともマホは撮影者がハートであることに信頼を寄せていた。
ハートならば公開して大丈夫かの判断はしっかりしてくれる。それはこれまで見せてもらった動画でもわかっていた。
「うん。ウチもええで。ハーちゃんが余計なデータ渡すとは思えんしなー」
スマイルもそこはマホと同じだ。
そして最後にアーク。
「じ、自分、浮いてないっスか?」
「浮いてる? どこが?」
一人野球のユニフォームに身を包むアークはその見た目を気にするが、ヘヴンリーがあっけらかんと否定した。
「姐さん……」
「だって、このゲームにはこーゆーのもあるんだよーって一番アピールできるじゃん!」
「そ、そうっスね! 自分もオッケーっス」
これで全員が賛同した。
「わかりました。では、厳選して編集したものを来週あたりに皆さんに見てもらってから送ることにします」
「うん。公開はともかく、ハーちゃんの動画は楽しみ!」
マホもすっかりハートの動画にハマっている。
自分で動画サイトを見ることにはまだ二の足を踏んでいるが、編集したものをハートが見せてくれるのは今では楽しみの一つだ。
「ええ。僕も撮ったものを見るのが楽しみなんです」
ハートはハートで早く作業に入りたい欲求に駆られていた。
「はは。ならそろそろ解散しようか。ヘヴンリーじゃないが、明日は月曜だからな」
「じゃー来れる人は18時にここねー!」
「意地でも間に合わせるわ」
「わたしも絶対来ます!」
ティエラもレイも発表というよりMVPがマホかどうか──いや、マホがゲーム内全体のトップに立つ瞬間を共に迎えたいと目に炎を灯していた。
「せや、せっかくやしマホっち、軽く締めの挨拶や」
「いいねー。よろしくぅ」
「え、えっと……。オホン。みんなで一緒にやって本当に楽しかったよ! みんな、イベントお疲れ様でした!」
「「お疲れ様!」」
いきなりの振りで簡単な挨拶だったが、マホが締めてそれぞれログアウトしていった。
お読みいただきありがとうございます。
結果の発表から少し日付が飛ぶ予定です。
凡ミス修正完了しました。
74〜79話の計6話に雷フロア追加とそれに伴う変更をしてあります。
特に前後の進行に支障はないはずです。
大きく変更したのは地下10階くらいですが、変なところがあればご報告頂けると幸いです。




