第59話 トライアングルのメインダンジョン攻略 その⑦ ボス戦編
ハートからの連絡を受けて、マホは落とし穴に飛び込んだ。
その先はただの四角く壁に囲まれた床と天井だけの何もない空間だった。
そしてハートともう一つの人影。
「うげ!」
声を出してしまうのは無理もない。
そこに待っていたボスは確かにミイラなのだが、想像していた包帯グルグル巻きではなく、人が干からびた姿のミイラだったからだ。
ギルドの受付のミイラは結構デフォルメされていて可愛らしさもあったというのに、このファラオという名前のミイラはかなりリアルなデザインで恐怖すら感じられた。
そして眼球などないにも関わらず、しっかりとマホを視認している。
「うわ、速っ!」
手には煌びやかな剣を軽々と持ち、その姿からは想像もできない素早い動きで左右にステップしながらマホに迫ってくる。
慌てて構えた杖で受け止めるが、数メートル後ろに弾かれた。
「ノックバックだっけ? ってもう次!?」
離れて一息吐く間もなくミイラが剣を振りかぶって迫る。
いきなりのノックバックで倒れはしなかったものの体勢が悪く、避けることもままならずまた杖で受ける羽目になった。
しかし今度はノックバックがあることもわかっている。しっかりと着地し杖を向ける。
「まずはやっぱり……ファイア!」
最初の一発はやはり様子見の火球。
着弾し燃え上がると900のダメージが表示されるが、ファラオは止まらない。
「ちょっ……速すぎ!」
硬直中の為回避は出来なかったが、ファラオの攻撃は変わらず振り下ろしだったので構えていた杖に当たる。
「ワンパターンだけど……これじゃ詠唱できないよ」
更にノックバックを受けたところで硬直が解け、今度は走って距離をとる。
「って、しつこい!」
離れたと思って振り返るが、ファラオはすぐそこまできていた。
「えーっと……闇に閉ざせ! アイスジェイル!」
少しでも詠唱する隙を作る為、キマイラに使ったものの縮小版とも言える魔法を使う。
あの時よりもかなり小さな氷だが、ファラオを閉じ込めるのには十分だった。
「今のうちに……! 闇の炎よ 魔の根源たる我に応え敵を焼き尽くせ! ダークフレイム・ジャッジメント!」
凍ったままのファラオを黒い炎が包む。
いつものように継続ダメージが入るかと思ったが、これが悪手だった。
炎によって氷が溶け、拘束のなくなったファラオは炎に焼かれながらも炎の渦からは脱出する。
「えっ? あっ、そっか!」
継続ダメージはあくまでもそこにいることが条件。
物理的に押し留める水や氷はともかく、炎では拘束力はなかった。
今まではあまり動かない相手や動きの止まる隙を突いたものだったが、ファラオは違った。
とはいえ通らなかったのは継続ダメージだけで、炎自体のダメージは入っている。
それだけで半分近く削られたファラオは更に加速する。
「わわっ!」
氷の拘束があった分辛うじてガードだけは間に合うが、マホの方も1/3程減っている。
マホの防御補正とガードがあってこれなのだ。
「ハーちゃんも時間かかるわけだよね」
マホはそう思うが、むしろ近接型でソロなら早い方だ。
まずファラオの素早さを捉えられないのだから。
ちなみにここの最速攻略記録は『躍進』のリーダー、武蔵率いるパーティだ。
武蔵が例のカウンター技で攻撃と動きを同時に封じて一方的に攻撃するハメ技がこの相手には最も効果的だった。
「今のじゃ倒せないかな。それなら──!」
同じ攻撃では削り切れないと判断したマホは、まずは同じように氷漬けにして動きを止める。
「よし。闇を裂く光よ 魔の根源たる我に応え結集し降り注げ! ホーリーライトニングレイン・ジャッジメント!」
マホの杖から光の玉が浮かび上がると、そこから無数の光線がファラオへ向かう。
それがファラオに当たると、パァンと氷が弾けてファラオが倒れる。
「やった!」
「無事終わったみたいですね?」
ガッツポーズを見せるマホにハートが声を掛ける。
「なんとかね。あー速くて目が回るかと思ったよー」
ペタンと座り込んだマホにハートが手を伸ばして、その手を掴んで立ち上がる。
「さ、まずはドロップの回収を」
「そうだね」
ハートに促されてファラオの死体を調べると、「ファラオの腕」を入手する。
「腕って……なんかやだなぁ」
「まぁ、素材というのはそういうものです」
そう言い合っていると、目の前に銀箱の宝箱が出現する。
「そうだった! 何が出るかな……」
それを見たマホはすぐに気持ちを切り替えて宝箱を開ける。
いつものスーパーレアの演出で『貫』と表示される。
これはハートが所有しているワードであり、今回もしパーティを組んでいれば入手できていなかった。
「貫くっていう字だね。これって──」
マホがハートに手に入れたワードについて聞こうとした時、
「入り口に戻るー? ばびゅっと飛ばしてあげるよー!」
相変わらず空気の読めないダンジョンマスターが割り込んできた。
「もうっ! のー! 戻らないよ!」
マホはシリーズ装備の入手条件を満たしているからには貰おうと決めていた。
「ありゃりゃーいい勘してるねー」
このセリフは変わらないようだ。
「おめでとー! 君はこのダンジョンの秘められた装備の開放条件、宝箱を二つ以上開けてレアを入手をしないことをクリアしてるよ!」
実はこの「二つ以上」というのがドラゴンゾンビ戦での『光』入手のヒントにもなっていたが、そもそもシリーズ装備の入手者が少なく、活かされることはなかった。
ここのシリーズ装備は繰り返し挑戦することが可能なのだが、「落とし穴からボス部屋へ入る」ことと「戦闘中ボス部屋から戻る手段が見つからない」という二点から、条件を満たしているプレイヤーでもダンジョンマスターの声で戻ることを選択してしまう者がいる程だった。
そしてマホの装備が忍者シリーズに切り替わる。
「ふふふ、今だけ特別に装備表示OFFでも君にだけ見えるようになってるよ。ダンジョンを出たら設定通りになるからね」
ここのセリフも変わらない。そして装備の説明に入ったが、以前にハートから聞いていたもの同じだ。
「わーい。ハーちゃんとお揃い!」
マホはダンジョンマスターの説明は半分聞き流して、装備がハートと同じになったことを喜ぶ。
「ふふ。そうですね。今度スマぷーさんと一緒に忍者プレイをするのも楽しいかもしれません」
「あそっか! スマぷーも持ってるんだったね。みんなも取れるといいのに」
ハートの言葉でスマイルも忍者シリーズを入手していたことを思い出す。
更に同じ装備で揃えて遊ぶということにテンションが上がる。
「どうでしょう。今回マホさんが見つけた方法を使えばワンチャンありそうですが」
既プレイの他のメンバーはボス戦後の報酬は銅箱になってしまうが、道中の宝箱はシルバーにすることができる。
「あれってボスの報酬には使えないのかな?」
「!!」
マホの更なる発想にハートも絶句する。
「二つ以上ってことはドラゴンゾンビの方とボスの報酬でもいいんだよね?」
「マホさんのその発想はどこから来るんですか?」
マホのあまりの柔軟な発想に、攻略法を見てその通りに動いてきたハートは衝撃を受けていた。
しかも今の案はこのゲームのプレイヤーではほぼあり得ない、宝箱を取らないというものだ。
「えっと……なんとなく?」
マホの方はただ思い付いたことを言っているだけで、そうなったらいいな、くらいにしか思っていない。
「なるほど……」
「でも、ハーちゃんもここでシリーズ装備のことに気付いたんでしょ?」
普通ならここにまだ何かあるとは思えない。
「僕は本当に偶然ですよ。ここだけじゃなく、ダンジョンに最初に入った時は残ってボス部屋を撮影してから戻っていましたから」
ハートはどのダンジョンでも同じように残ることを選択していたが、ここではたまたま条件を満たしただけだったらしい。
「そうなんだ。私もそうだったけど、運が良かったんだね」
「そういうことです。というかリョウヤさんもシリーズ装備は運と直感が大事だと言っていましたし、まさにその通りでしたね」
マホに関してはここでは直感だけで入手したと言える。
「ところで……ここからどうやって戻るの?」
「ああそれはですね、ボスを倒すと中央に落とし穴が出るんですよ。あのノックバックのせいで端の方で戦闘が終わることが多くて割と気付きにくいんですけど」
今も壁寄りの場所だ。
確かにここからではそれらしいものは見えない。
「それって入り口に戻されるやつ?」
「ええ。それで帰れというのも変な話ですけど」
「ふふっ。確かに」
二人は部屋の中央へ移動し、普通の罠として設置されているものと同じ床の前に立つ。
「では、お疲れ様でした。なんとか18時前に終わりましたね」
「わっ、時間のこと忘れてた。そこも気を遣ってくれてたんだね。ありがとう」
それくらいマホはダンジョン攻略に夢中になっていた。
「いえいえ。さ、戻りましょう」
落とし穴に飛び込み入り口に戻る。
「それじゃあまた夜に! クランハウスでね!」
「ええ。僕も動画を編集してきますよ」
そう言って二人とも一旦ログアウトしていった。
お読みいただきありがとうございます。
というわけでダンジョン攻略は以上です。
次回から何話か日常に戻ります。
よければここまでの評価だけでも下の★をポチッとお願いします。




