第5話 家族でゲーム談義
「戻ったわね。どうだった? 初めてのゲームは?」
「結構かかったな。楽しめそうか?」
ログアウトしてバタバタとリビングに戻ると、両親に出迎えられる。
母親はちょうど夕飯を食卓に並べているところだったようだ。
マホが定位置の手前の椅子に座ると両親も向かい側に座って食べ始める。
「うん! あのね……」
マホは事細かにチュートリアルでのやり取りやシステムについて語る。
両親はマホのその記憶力に我が子ながら驚きつつも、楽しそうに聞いていた。
「おー、詠唱か。父さん達がやってるゲームはコマンドで選ぶだけだけど、わざわざチャットで詠唱句を打ち込む知り合いがいるなぁ」
「ああ彼ね。数少ないショートカット枠に挨拶以外のチャットワードを入れてるのは彼くらいじゃないかしら」
両親がやっているのは昔ながらのPCゲームで、会話は文字チャット、操作はコントローラーで、というもの。
マホのVISとは趣が異なるものではあったが、オンラインのMMOという括りでは共通点もある。
当然マホにはこの会話の半分も理解できていなかったが、両親が楽しそうに話しているのが嬉しかった。
だから一緒にゲームについて語れるようになったことは、マホにとっても両親にとっても楽しい時間を生んだ。
「ねぇ、どういう詠唱がいいと思う?」
マホはその感情そのままに嬉々として尋ねる。
「そうだなぁ。マホはどういうのがいいんだ?」
「昔見たクロマみたいなやつ!」
それはダークヒーローアニメの主人公の名前。
父親もマホと一緒に見た記憶を辿る。
「あーアレか。マホは『闇』と『火』をゲットしたんだったな。それで『闇』がウルトラレアと。なら『闇』は入れた方がいいよな……」
父親はマホから聞いた話と照らし合わせながら考える。
「まだチュートリアルだけなのよね。もしかしたらその起動ワードを重ねてもいいのかもしれないわよ」
「なるほど! さすが母さん! 闇の炎、とかだな」
話している内容がマホのゲームでも童心に返ったように楽しそうである。
「すごーい! 今度やる時試してみるね!」
自分では思い付かなかった発想にマホが絶賛すると、やや照れながら両親も嬉しそうに受け取る。
「そういうことなら………………とか、………………とかやってみて! またマホから話を聞くのを楽しみにしてるから」
「おいおい、あんまり言うとマホの楽しみを奪っちゃうんじゃないか?」
母親が若干舞い上がってしまっているのを父親が諌める。
ただ、どの意見もマホには到底辿り着けないものではあったが。
「ううん。あのゲームは確かに面白そうだけど、こうやっておとーさんとおかーさんとゲームの話してるのも楽しいよ!」
元々この親子の会話は多い方だと思われるが、ここまで盛り上がったのは初めてかもしれない。
マホも子供ながらにそれを感じ、またゲームをしてその話をしたいと思っていた。
「あのゲームより参考書を欲しがってたマホがねぇ……。でも、素直に嬉しいわ」
「そうだな。昼間も言ったけど、ゲームでもいい出会いはある。俺たちの知り合いなんてもう10年以上の付き合いだしな」
「そうなんだー」
「だけど、気を付けなさいね? 中には女の子っていうだけでナンパしてくるのもいるから」
これは母親の実体験。
どんなゲームでもなぜか目的の異なる層は一定数いてしまう。
「どうやって見分けるの?」
「それが結構難しいのよ。だからあまりマホには薦めてこなかったんだけど……。そうね、ゲームの中ではゲームの話だけ。今はそれで十分だと思うわ。ゲームを楽しむの」
「うん、わかった!」
今後、マホはその言葉に従ってプレイしていくことになる。
そして、この時点でこの話が出来ていたこと、両親がゲームに詳しかったことはマホにとって幸運だった。
「そうそう。大澤君のお母さんにお礼の電話をしておいたわ。大澤君も電話口に出たんだけど、いい子ね。マホには「券が無駄にならなくて良かった。ありがとう」ですって。とはいえ高価な物だし今度直接お礼をしに行きましょう」
「うん! 私も明日お礼を言わなきゃ」
「さ、フルダイブ型は見えない疲れが出やすいとも聞く。今日は早めにお風呂に入って寝なさい」
「はーい」
これは実際の検証では何も出ていない噂程度のもので、それを訴えていたのは熱中しすぎて寝不足になっただけというのが結論であった。
「そうね。ゲームをやった後はしっかり休むこと! 夜の9時以降は禁止、いいわね?」
「わかった!」
当然ながら両親ともそれを知ってはいたが、プレイの抑制になるかとその噂を利用することにしたのだった。
マホも疑うことなくそれに従って、平日は宿題を終えてから21時までと決め、今後はプレイするようになった。
その日の夜。とあるセンブレ専用掲示板にて。
219 豪声なリョウヤ
なぁ、今日遂に女の子を見かけたんだが。
220 名無しの言葉
>>219 嘘乙
221 俺の声を聞け
>>219 どうせネカマだろ?
222 豪声なリョウヤ
いやまあネカマは否定できないが、今日待ち合わせで始まりの街の噴水にいたんだよ。
そこでチュートリアルを終えたばかりっぽい女アバターが現れたんだ。
223 名無しの言葉
>>222 なんでそれがわかるの?
224 豪声なリョウヤ
>>223 来たと思ったらキョロキョロし出して、最初の指示男を向いて止まったからたぶん間違いない。
しかもその子、あの杖持ってたぞ。
225 俺の声を聞け
>>224 おお、ネカマでも有望じゃん!
で、なんで女の子って思ったんだ?
アバターが幼かった?
226 チュリさんは俺の嫁
>>224 久々の大型新人キタ?
227 豪声なリョウヤ
>>225 アバターは普通。だが、来て早々に「帰らなきゃ!」って言ってログアウトしていったんだ。夕方の6時半くらい。
>>226 だといいな。
闘技場の相手がずっと同じやつだし、何か盛り上がるキッカケにでもなってくれれば。
228 名無しの言葉
フォォオオオオ!!!
ktkr!!!
229 名無しの言葉
え? ガチ? ガチなの?
ガチって言ってよぉー!
230 俺の声を聞け
>>227 アンタがこのゲーム初のグレードAに上がってからまだ他に一人だっけ?
確かにそれはつまんないよな。
かくいう俺もこないだグレードB昇格クエスト失敗したんだけどさ……
231 豪声なリョウヤ
>>229 言ってやろう。ガチだ!
>>230 ワードガチャゲーではあるけどそれ以外は楽しいからいいんだ。コンセプト通りストレス解消になるしな。
ただもう少し張り合いが欲しいとも思う。
232 チュリさんは俺の嫁
よーし、なら俺はその新人が変なのに絡まれないように始まりの街を巡回することにするぜ!
233 豪声なリョウヤ
>>232 それなら俺はギルドにいるかな。
自分で言うのもなんだが、俺の前で変な絡み方するやつはいないだろう。
234 俺の声を聞け
俺も、と言いたいところだが、これからがインする時間の俺にはタイミングが合わないだろうな。
みんなの報告を待ってるよ。
235 チュリさんは俺の嫁
>>234 任せろ!
といっても見た目知らんが。
236 豪声なリョウヤ
>>234 俺も今日はたまたまかもしれんが……進展があればここに来る。
>>235 キャリアウーマン風の基本服に「初心者魔法使いの杖」装備だ。
毛皮のマントをしてないからおそらく装備表示はOFFなんだろう。
237 名無しの言葉
>>236 聞いた感じ初心者なのかと思ったが意外と使いこなしてんな
238 豪声なリョウヤ
>>237 たぶん初心者だ。
できれば長くプレイしてもらいたいな。
239 チュリさんは俺の嫁
>>238 だな。
やればやるほど楽しくなってくるゲームは久々なんだ。
運営が畳む前になんとか勢いあるとこ見せたいよな。
240 名無しの言葉
まだ始まって一年そこらでサービス終了はねー……と思いたいが、最近は新規があんまり来てないよな。
こないだもパッケージ版が投げ売りされてるの見て悲しくなった。
241 豪声なリョウヤ
>>240 逆に考えるんだ。そういうのを買ってあの子はやってきたんだと。
242 名無しの言葉
確かにな。投げ売り価格なら本体持ってりゃ子供でも買えるか。
ただ子供増えたとして、子供の前で叫ぶのはちょっとキツいもんがあるが。
243 豪声なリョウヤ
>>242 そういう可能性もあるってだけだ。増えることまでは期待してないよ。
それにそれがこのゲームの楽しみ方なんだ。何も間違ってないだろ?
244 名無しの言葉
それもそうだな!
ありがとな、元気でた。
よっしゃ、一狩り行ってきますかね。
245 豪声なリョウヤ
>>244 おう!
俺ももう少しやって来るか。
当然ながら、マホがこの掲示板の存在に気付くことはなかった。
両親も手探りでやるこの感覚は久しぶりで、娘と話し合うのが楽しく、むしろこういった物を調べることを避けていくことになり、気付いたときにはマホが完全に話題の中心となっていた。
お読みいただきありがとうございます。
最近のスレはもっと雑ですよね。
ただ、やや過疎気味のスレ(本スレくらいしか立たない、割り込むような書き込みも少ない)というところでこんな感じの人が集まるのかな、と。
あと、チュリさん呼びは古参プレイヤーには浸透しています。