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第4話 チュートリアル エクストラ 実戦編

「じゃー、まずは大事なことから! 上の時計の下に緑のバーがあるのわかる?」


「え? う、うん」


 チュートリアルの担当が代わってしまったことに戸惑うマホ。

 マホはこういう元気なノリは苦手というわけではないが、最近は避けていたこともあって慣れないような反応になってしまった。


 それでも言葉に従って視線だけ上を向けると、さっき時計を見た時にはなかった緑のバーが表示されていた。


「それがあなたの体力。HPバーっていうの。満タンに近いときは緑で減ってくると黄色になって、無くなりかけると赤く点滅するようになるからね! 無くなったら戦闘不能! ホームポイントに戻っちゃうから気を付けてね!」


 この手のゲームでは珍しくパワーや魔力といったステータスが存在せず、このゲームで唯一といってもいい個人のステータスがこのHPで、アイテムや装備によって増減する。


「ホームポイント?」


「今はチュートリアルだから戦闘不能になってもそこからやり直せるから安心してね! じゃあ、階段を降りてみよー!」


 このAIは質問には答えてくれないらしい。

 マホは更に戸惑いながらも階段を降りる。


「あれ? 明るい……」


 照明の類は何もないのだが、はっきりと洞窟のようになっている内部の様子が見える。

 これは他の場所でも同じで、ストレスを感じない為の開発スタッフの配慮だった。


 それに何より普段は眼鏡を掛けている自分が裸眼で遠くまで見えることに感動していた。

 これは直接映像が流れ込むフルダイブならではと言える。


 そして少し進むと、そのまま直進する道と右への道に分かれていた。


「さぁ分かれ道だよー! どっちに進む?!」


「えっと……なんとなく……右?」


「いいねー! ダンジョンには本筋と脇道があって、最初に来た道に沿って進むのが本筋でー、こっちみたいに逸れてるのが脇道なの」


 「こっち」と言った時に右の道が点滅する。


「わかりやすい……」 


「脇道には罠もあるけど、お宝があることもあるからね。積極的に寄って行ってね!」


「お宝!」


 マホの瞳が輝く。


「でも、今はチュートリアルだから何もないの。ここもゲームの中のどこかにあるからね。その時は探索してみてね!」


「なーんだ……」


 今は見れないと知ってガックリと肩を落とす。

 しかし、いずれ訪れることができるとわかって持ち直す。


「じゃーそのまま真っ直ぐ進んでみよー!」


「おー!」


 ダンジョンマスターのテンションに慣れてきたのか釣られたのか、元気よく拳を突き上げた。


 そしてもう少し進むと、広い空間に出る。

 そこにはスライム状のモンスターが一匹。


「ほんとーは通路にも出るんだけど、今はここで練習してみよー! 今度は相手も動くからね!」


 スライムはぺちゃんぺちゃんと左右にステップを踏んでいるかのように跳ねている。


「よーし、魔法で……」


 と、左手を構えると、スライムの頭上に「!」マークが出る。


「今のがあなたを攻撃するようになったって合図だよ!」


 すぐにダンジョンマスターがその説明を入れる。

 所謂アクティブ化の合図なのだが、そこは砕けて説明してくれるらしい。


「わわっ。敵を焼き尽くせ! ファイア!」


 初めて自分に向かってきたモンスターに焦りつつも、教わった通りに魔法を放つ。

 スライムに50のダメージが入るが、倒し切れず硬直中に体当たりを受けた。

 マホのHPバーが僅かに削れる。


「よーく見て。モンスターにもHPバーがあるでしょ? その減り具合と与えたダメージで相手の最大HPを予想するの!」


「ホントだ。えっと、半分以上減ってるから……もういっかい! 敵を焼き尽くせ! ファイア!」


 冷静にバーを確認して二発目の「ファイア」を発動し、スライムを倒す。

 そしてスライムを調べるとウィンドウが表示される。


「50G? さっきより少ない……」


「あはは、前のやつは特別! でも、もっとたくさんくれるモンスターもいるからねー」


 チュートリアル限定で報酬が多めに貰えるということは他ゲームでもよくあることだが、それを知らないマホはやや不満顔だ。


「わかった!」


 気を取り直して先に進む。道中には分かれ道がいくつかあり、同じように道が点滅して知らせてくれる。


 しかし一箇所だけ点滅しない分かれ道があり、マホは一旦足を止めて考えた後、そちらに歩き出した。


「あはっ、気付いちゃった? 嬉しいなぁ。プレゼントあげるっ!」


 ダンジョンマスターがそう言うと、行き止まりの地面に一本の杖が現れる。


「プレゼント? もらっていいの?」


 地面に刺さった杖を引き抜くと、視界の右下に「マホは初心者魔法使いの杖を手に入れた」と表示された。

 そして手に入れた杖が消える。


「あれ? あっ、そうか装備しなきゃ」


 一瞬疑問に思ったようだが、すぐに答えに辿り着いた。

 メニューから装備を表示すると、「初心者魔法使いの杖 攻撃5 魔法攻撃10」と書いてあった。

 そのまま装備するを選択すると、腰の剣が消えて背中に杖が現れる。

 それを手に取ってまじまじと見つめた。


「そういえば武器は表示消えないんだね。それに……どういう材質なんだろう」


 コンコンと叩いてみたりするが、さっぱりわからない。

 石のような金属のような、それでいて白くて綺麗。先端の丸くなった部分の真ん中には赤い宝石みたいなものが嵌め込まれている……というか浮いている。


「それには魔法の威力を上げる補正が付いてるからねー。なかなか最初にしては貴重だよー」


 チュートリアルをちゃんとこなしてここに気付けば必ず貰えるものではあるのだが。


「そうなんだ。ありがとう」


 もちろんマホはそんなことには気付かない。


「さー次はいよいよダンジョンボスだよー」


 先に進むと大きな扉があり、ダンジョンマスターはボス戦だと告げる。


「ダンジョンボス?」


「ここに入ったら自分かモンスターかどっちか倒されるまで出られないからねー! 覚悟はいい!?」


 相変わらずダンジョンマスターは特定の答えしか返してくれない。

 マホは思わず「さっきの人がよかったなぁ」と心の中でつぶやいてしまう。


「はぁ。やるしかないんだよね」


 諦めて扉を開ける。そのまま中に入ると扉が勝手に閉まり、出られないと聞いていても振り返ってしまう。


「今回のボスはキングスライムだよー! がんばってー!」


 実際にゲーム内で訪れた時は違うモンスターがいる、というヒントでもあったのだが、マホにはそれを理解する余裕はなかった。


 マホがキングスライムと相対すると、すぐに頭上に「!」マークが表示され、ボヨンボヨンと迫ってくる。


「避けなきゃ!」


 魔法を撃つ暇がないと判断して横に躱すと、キングスライムは壁まで進んでぶつかって止まる。


「そうそう、魔法補正のある武器は左手に持って翳すと掌の時と同じように魔法を発動できるよー」


「それは先に言ってよー」


 既に始まった戦闘中に説明されることに不満を覚えながらも杖を右手から左手に持ち替える。

 そしてそれをキングスライムに向けて翳す。


「敵を焼き尽くせ! ファイア!」


 杖の先の宝石の部分に魔法陣が現れて、炎が飛び出す。

 しかし、これまでのように相手の全体が燃え上がるような演出にはならず、一部が燃えて30のダメージが出ただけで終わった。

 頭上のHPバーも僅かに削れただけだ。


 そしてまたキングスライムの体当たり。ダメージが少なかった分硬直が短く、辛うじて躱す。


「ノーマルの『火』じゃキングスライムを『焼き尽くす』のは難しいかなー。詠唱を変えてみたら?」


 そう。ワード毎に補正値等プレイヤーにわからない要素が決まっており、それを試行錯誤で良い詠唱やワードの組み合わせを見つけることがこのゲームの目的でもある。

 これはそういった要素のチュートリアル。


 実は体当たりを受けても大したダメージはなく、躱せば攻撃のチャンスとなる挙動も、戦闘中に説明してくるのも、落ち着いてやれば攻略できるというヒントでもあった。


「ど、どういうのがいいの?」


「一つヒント。別に発動ワードは「ファイア」じゃなくてもいいんだよ?」


 これはマホの質問に答えたわけではなく固定のセリフだったのだが、答えてもらったように聞こえたことがマホに心の余裕を生んだ。


「よーし……燃やすのがダメなら……」


 かつて見たダークヒーローの魔法を思い出す。

 その魔法使いは炎を矢のように使っていた。


「敵を貫け! ファイアアロー!」


 杖の宝石に魔法陣が現れ、先程とは違う、細い炎の矢が飛び出した。


 その矢はキングスライムを貫通し、そこに100のダメージが表示された。

 HPバーも半分近く減っている。


「正解! スライムは斬撃や貫通攻撃に弱いんだよ。覚えておいてね!」


 つまりは最初のロングソードで戦うのがベストだったというわけだ。

 あの脇道に気付かなければそのまま戦うことになったわけなので、仕方のない設定ではあるのだが。

 しかし、その場合は先程のヒントを聞けないという、これまた開発スタッフの第三の罠であった。

 脇道に気付き、素直に装備したマホだから聞けたのだ。


 そしてここでロングソードに替えるという手もあるのだが、マホにも意地があった。


「絶対魔法で倒してやる!」


 その意地がある閃きを生んだ。


「ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイアー!」


 硬直時間が短いことを利用したファイアの連打。所謂グミ撃ちだ。


「あ、あんまり効いてない?」


 当然ながら硬直時間が短いということはダメージも少ないということでもある。


「でも、さっきのファイアアローのダメージ分くらいしか残ってないね!」


 少ないながらも積み重ねればそれなりのダメージになる。

 キングスライムの残りHPはかなり減った。マホの言う通り、ファイアアロー一発分程度。


「これで終わりっ! 敵を貫け! ファイアアロー!」


 炎の矢がキングスライムを貫くと、穴の空いた水袋が潰れるように倒れた。

 それを調べ、マホは「スライムの核」を入手した。


「おめでとー! ダンジョンボスを倒したらご褒美だよー!」


 キングスライムが消えると、そこに白い宝箱が現れる。


「おー! 宝箱だぁ!」


「宝箱にはランクがあって、ホワイト、ブロンズ、シルバー、ゴールド、レインボーの順に出てくるワードのレアリティの下限が上がるんだよ!」


「ということは……?」


「この宝箱はホワイト。ノーマルからレジェンドレアまで出るよー」


 つまりは全レアリティから手に入る可能性があるということで、ランク的には最下位だ。


「じゃあ、あんまり期待できないんだね」


 そう言いながら宝箱を開ける。


 中身がパァッと輝く演出が起こり、『闇』の文字が表示された。

 そして右下の方に「マホはワード『闇』を手に入れた」と出てくる。


「どれどれ……」


 メニューを表示させ、ワードの項目を選ぶ。

 すると、「闇 ウルトラレア 起動 補正」と書かれている。


「すごーい! ウルトラレアだよー! しかも起動と補正両方に使える便利ワードなんてすごいね!」


 これは中身ごとに変わるこのタイミング用のリアクションだった。

 しかし、大喜びされてマホも嬉しくなる。

 ただ実際、ウルトラレア自体所有数が少ない貴重なものだったのだが、いきなり手に入れてしまったマホにはそこまでの価値はわからない。


「この『闇』をどう使うか考えなくちゃ!」


 マホの頭の中はそれだけだった。


「それじゃ、チュートリアルはこれで終わりだよー! またどこかのダンジョンで待ってるよ!」



 ダンジョンマスターがそう言うと、視界が真っ白になり、次第に色が染まっていく。


 そして気が付くと、マホはどこかの街の噴水のある広場に立っていた。

 ガヤガヤと人の声も聞こえる。


 キョロキョロと周りを見渡すと、なにやらピカピカと点滅している男の人が立っているのがわかった。


「あの人のところへ行けってことかな? はっ!」


 ふと時計を見ると、18時半。


「いけない! 帰らなきゃ!」


 ゲームを止めるときはログアウト。

 両親に教わっていたことを思い出し、メニューからログアウトを選択する。


 こうして予定通りチュートリアルのみでマホのゲーム初体験は終わった。

お読みいただきありがとうございます。


本文では罠と書いていますが、どちらかというと仕掛けに気付いてくれたお礼的なイベントという意味合いが強いです。


ゲームを一から進めさせるのは初めてなので今後はペースが落ちると思います。

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