美少女エミリー
慶太は光り輝く頭部の用意した馬車に揺られて五時間たった。
「あの、まだ付きませんか?」
「ああ」
無口な御者とは会話が無いに等しい状態で気まずい慶太
「ついた」
「やっと着いた、でここは?」
「ベケタの森」
慶太はベケタの森に到着
単語しか喋らない御者と一つの空間にいる息苦しさから開放されると思うとホッとする慶太
「降りろ」
「あ、はい」
そこは木々が生い茂っていて、綺麗な水が流れるところだった。
「す、すごい……」
「こい」
御者は馬車から降りて道から外れた草が生い茂る場所へと入っていく。木々や地面には苔がしっかりとついていて少しばかり歩きにくかった
しばらく歩くと激しい雨のような音がし始める。草木を押しのけて通っていくと大きな滝の見える場所へとたどり着いた。なんとも幻想的な雰囲気だった
「ここってもしかして屋久島ですか?」
「ヤクシマ?」
「いや、やっぱりいいです」
慶太は屋久島の白谷雲水狭に観光でいったときのことを思い出していた。
「ここ」
「え、ここ?」
「ああ」
「どうすればいいんだ?」
「待つ」
「待っていればいいのかな?」
「ああ」
単語で会話を済ませる御者は慶太を残して元来た道へと帰っていく。慶太はマイナスイオンがいっぱいの深い森の中に一人残される。これからどうすればいいのか全く分からない慶太は辺りを見回す
鮮やかな緑色の苔が周囲一面を覆っているので何処に座ろうかと考えていた。すると一か所だけ苔の生えていない場所があったのでそこへ腰掛ける慶太
「はぁ」
大きなため息をつく慶太は女子高校生達やメイドに笑いをもたらした髭眼鏡を見つめ再度、装備してみる。
「伝説がどうのこうのって言われても……な」
慶太はまた大きなため息をつく、だがその後すぐ背筋を伸ばして気合を入れる
「いや、それよりも日本に帰ってまた就職活動しなくては!」
自分に活を入れて気合をいれた慶太にパソコンのウィンドウのようなものが突如、目の前に現れる
「……へ?」
慶太はそのウィンドウ画面に触ろうしたが触れることは出来なかった。ウィンドウ画面にはゲームで見たことがあるようなマップが見える
「まさか」
慶太はあることに気が付き髭眼鏡を外す。それと同時にウィンドウ画面も消えるのだ
「なるほど、確かに伝説級かもしれないな」
どうやら慶太の髭眼鏡は地図を表示する機能が付いているようだ。そして、意識して表示する場所を動かすことが出来ることに気が付いた
「おお、これはすごい」
感心する慶太。
次にMMORPGのようなウィンドウ画面のメニューに似たものを操作することに成功する。そこにはステータスと言われるものがなく、あるのは「個人情報」と書かれていた。慶太は自分の個人情報を見る
名前 慶太
種族 ???
年齢 35
職業 遊び人
Lv1
JLv1
身長1.70
体重61000
能力言語理解
神器使用権限
トランスフォーム
これを見た慶太はやっぱり夢ではないかと頬をつねってみる。少し赤くなった頬の刺激を感じる慶太
「トランスフォームって……」
訳の分からない現実を叩きつけられる
慶太はまたMAPを見ると先ほどと変わらない場所に点がある
「なるほど、これが自分か」
ただ、マップに映る自分の点のすぐそばにもう一つ点があるのだ。丁度、慶太からは死角になる場所にその点はあった。
慶太はそっとその場所を覗いてみると中学生ぐらいの女の子が座り込んで怯えていた。
「えっと、どうしたの?」
「ハヒ」
座り込むと地面まで届く長い金髪の髪の毛を抱え込んで酷く怯えた様子の美少女
「大丈夫、怒ったり怖がらせたりはしないよ」
慶太はやさしく美少女に話しかける。美少女は恐る恐る振り向いて慶太の顔を見る。次第に怯えた表情はなくなり徐々に笑いを堪えるようになる
「ぶっ」
人の顔を見て笑いだす失礼な美少女、だが原因を作ったのは慶太本人だ。
髭眼鏡の効果は抜群のようだ
「少しは話ができるかな?」
「う、うん」
髭眼鏡のお陰で緊張が解れたのか慶太と話をする
「えっと、俺は慶太っていうんだ」
「私はエミリー」
エミリーは明るい笑顔でこちらに向いて立ち上がる
「えっと、エミリー」
「はい?」
「その、まえ……」
慶太は斜め上を向いてエミリーから視線を逸らす。エミリーの服は生地がとても薄いので湿気の多い場所ではスケスケになっていた。
「え、きゃ……見ました?」
「……ごめん」
「いえ、わたしのほうこそすみません」
「いやいや、俺のほうこそ……えっと、話を戻させてもらっていいかな?何でこんなところにいるのかな」
慶太は少しばかり気になった点がある。
こんな苔がびっしりと生える樹海のようなところにいるエミリーの服装が非常に上品なそれこそ、パーティの服の下着として着そうなものだ
そして、とても長い金髪も手入れがしっかりと出来ている。なんともこの場所に不釣り合いな格好なのだ。髭眼鏡を取ることなく警戒しながら話をする慶太。スケスケ少女エミリーも慶太に少しばかりの警戒をしてはいるがいきさつを話し始めてくれた。
「それが、いきなり眠りの魔法を掛けられて気が付けばここに」
「眠りの魔法?」
「はい、わたしがレジスト出来ないほどなので強い魔導士に掛けられたのだと思います」
「ファンタジーだな・・・・・・」
「ファンタジーって何がですか?」
「気にしないで続けて」
いきなり眠りの魔法とか言われて思考が停止する慶太。だが、改めてここは日本とは違う世界なのだと理解した
スケスケ少女エミリーと話していた慶太だが、マップに映る点が増えてくるのに気が付いた。何かが慶太のほうへ向かってきてた。点の動き方から統率の取れた動きで慶太は完全に包囲されていた
エミリーの話を急いで遮る慶太
「ちょっとまって!」
慌てて慶太はスケスケ少女エミリーの口を手でふさぐ。あまりに急なのでびっくりするスケスケ少女エミリー。ゆっくりと慶太の手を口から剥がす
「はい、どうされました?」
「うん、たぶんだけど」
「たぶんだけど?」
慶太は焦っていた。
「囲まれている」
「ええ、大丈夫なんですか?」
「わからない」
「そんな~」
スケスケ少女エミリーはまた怯えた表情で座り込む。統率の取れた点は少しずつ慶太達に近づく。
次の瞬間
ヒュッ
風を切る音が慶太の顔を横切った。慶太は恐る恐る振り向くと後ろの木に矢が刺さっていた。まだ、刺さったばかりなので矢がプルプルと震えていた。それを見た慶太は血の気が引いた
矢が飛んできた方向からは大柄な男と口の尖った小柄な男が現れる
「ちっ、外れちまったよ」
「親分は弓が下手ですね」
「うるせえ!ちょっと手元が狂っただけだ」
「それよりも今回はガキ二人を殺せばいいだけなんでしょ?」
「ああ、楽な仕事だよな」
「それであの報酬額なんですから更に美味しさ倍増ですよ」
「ちげえねえ、がはははは」
どうやら先ほど、慶太に弓矢を放った者とその子分のようなものが現れる。弓がおもちゃに見えるほど大柄の男は慶太に向かって鼻をほじりながら話しかける
「おい、今度は当ててやるからそこを動くなよ」
「……」
足がすくんで動けない慶太。鼻クソが指についた手で弓を構える大柄の男
そして、躊躇なく弓矢が弓から放たれる
慶太はまるでスローモーション撮影を見ているかの如く弓矢が迫ってくるのをただ見ているだけだった。慶太は自分の命がここまでかもしれないと目を閉じて死を覚悟した。
「……」
待てど暮らせど弓矢が慶太自身に当たらないことに不思議になった。目を開けた慶太は驚いた。まだ矢は慶太と大柄の男の中間ぐらいを飛んでいた。矢がはっきりと見えることに驚く慶太。どうやら慶太は意識が集中すると時間がゆっくりになるぐらい加速状態になれることを知った。
しかし
「ま、まさか!」
慶太は自分が凄い能力があることに気が付いたがその能力のせいで恐怖することになる。なんと、先ほどまで大柄の男の鼻くそは大柄の男の指についていたはずなのに、いつの間にか大柄の男の放った矢についていたのだ、しかも、その鼻くそは矢と同じく回転しながら飛んでくる。
「止めロー来るなー」
慶太は別の意味で恐怖に怯えて動けなくなった。
「ダメー」
矢が当たる寸前のところでスケスケ少女エミリーが慶太に体当たりをして飛んでくる鼻クソ付きの矢から慶太を守った。
「あ、ありがとう」
「怖い……」
勇敢に慶太を守ったスケスケ少女エミリー。だが、言葉通りスケスケ少女エミリーの体は震えていた。
「やっぱり下手ですね」
「ふん、もういい、野郎ども始末しな」
大柄の男が合図を出すと周りから一斉に山賊のような風貌をした男どもが現れた。慶太はマップに映る点と山賊たちの数が一致することでこれは山賊だったのかと理解する
絶体絶命だった。
スケスケ少女エミリーを庇うように前に出る慶太。守ってくれる慶太を見てスケスケ少女エミリーは震えを止めて何か覚悟をしたように握りこぶしを作る。
「おい、大丈夫か?」
「ブツブツ……」
何かブツブツ言っているスケスケ少女エミリー
「だ、大丈夫か?」
慶太はもしかして恐怖のあまり壊れてしまったのではないかと心配する
「伏せてください、ファイヤーストーム」
なんとスケスケ少女エミリーは魔法を唱えた。周りは炎に包まれる、物凄い威力だ。これでは山賊たちも無事では済まないだろうと思ったが
「おいおい、この程度を俺を殺すつもりか?」
「え、そんな……」
先ほどの大柄の男がまた鼻クソをほじりながらもう一方の腕を振るだけで辺り一面に広がったはずの炎が一瞬で消えてしまう
そして、また大柄の男の指には鼻クソが付いていた
「それじゃあ、今度は俺の炎を食らってみるか?」
そう言って鼻クソが付いた手から巨大な炎が立ち上がる
「ハハハ、Aランクの俺に殺されるんだ光栄に思いながらあの世へ行きな」
その炎の威力にスケスケ少女エミリーは膝をついて絶望する。慶太はスケスケ少女エミリーを抱きかかえて必死に守ろうとする
しかし、周りにいた山賊たちに異変が起きる
「グハ」
「グヘ」
「グニュオ」
「ギャー」
なんとも騒がしくなっている山賊たち
「おい、どうなってやがる、ちょっとみてこい」
「へ、へい」
大柄の男は鼻クソが付いた手の炎を消して子分に指示をだす。子分は慶太の横を通り他の山賊たちの近くによるのだが
「グギャァァァ」
子分の悲鳴が森に響く
慶太はマップを確認すると点が減っていることに気が付く。それと同時に少し大きな点がかなり素早く動いていることにも気が付いた。少し大きな点が慶太達の真後ろに来ると
「な、なんでこんなヤツがここに!」
鼻をほじりがとまってしまうほど大柄の男は絶望に打ちひしがれた顔をしていた。
「クソ、撤退だ」
驚きで鼻ほじりを失敗したせいで鼻が真っ赤の大柄の男は慶太達に背を向けて逃げ出した。マップに映る大きな点は、大柄の男の退路を塞ぐように立ち塞がる
そのとき、慶太が見た大きな点の正体は体長がアジアゾウのニ倍ぐらいはあるだろうか十メートルは超えていた。更に体には高電圧の電気を帯びているのかスパークが見える
「獣神ベヒーモス……」
スケスケ少女エミリーは呟いた
「獣神……」
慶太は初めて見る異世界の凄さに混乱していた。だが、大柄の男の大声によって現実に戻される慶太
「こんなところで死んでたまるかー!」
大柄の男は生き残るためにまだ鼻クソが付いた手で数メートルも立ち昇る炎を出す
「獣神を倒せば俺は英雄だァァァ」
鼻クソが付いた手の炎は獣神ベヒーモスへ向かってもの凄い勢いで放たれる
ドーン
獣神ベヒーモスに炎が当たるが大柄の男の顔は浮かない表情だ。それもそのはず、あれ程の炎を受けた獣神ベヒーモスは一切のダメージを受けていない。獣神ベヒーモスは前足を大柄の男に振り下ろす
あまりの素早に大柄の男は成すすべなく上半身の半分が吹き飛んだ
慶太達にはあまりにも衝撃的な映像だった
スプラッター映画のワンシーンが目の前で繰り広げられたのだ。完全に恐怖に取り込まれてしまう慶太達。だけど、すぐにスケスケ少女エミリーはその恐怖から抜け出して一歩前に出る
「に、にげてください」
「……」
目の前に立つ少女をみて慶太は自分のふがいなさに苛立ちを募らせる。慶太はキョロキョロと辺りを見回すと山賊たちの剣や槍が落ちていることに気が付いた。さらにウィンドウ画面を開いて能力のトランスフォームに目をやりこぶしを握る。
スケスケだが決して恥ずかしがったりしていないエミリーは前を隠さずに堂々と獣神ベヒーモスの前に立つ
獣神ベヒーモスが一歩前にでた瞬間
「うおぉぉぉ」
慶太は加速状態に入り、近くの剣を拾って獣神ベヒーモスに飛びかかる
「トランスゥゥゥフォォォォォーム!!!」
慶太は能力のトランスフォームを使用しながらの特攻攻撃だ。初めて使うトランスフォームに慶太は驚いた。髭眼鏡から出た物凄い濃いふわふわしたエネルギーのようなものが慶太の周りを包み込む
そして、一瞬にして慶太の体にそれらが密着する。なんと慶太の髭眼鏡の目じり部分が鋭く尖り服は赤と青の水玉模様のカラフルな服装になる
「なんじゃこりゃ」
慶太はあまりのダサイ格好に驚いて加速状態が消えてしまう。獣神ベヒーモスはダサイ慶太を前足で強く弾き返す。ダサイ慶太は前足の攻撃に吹き飛ばされてダメージを受ける。ウィンドウ画面には戦闘ログが流れていた
ダメージ5を受けました。神器経験値が10入りました
慶太は苔がびっしりと付着した木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいく。獣神ベヒーモスから百メートルほどのところでなんとか止まった慶太
「ぬぉ……」
「嫌ぁぁぁ」
少女の悲痛の叫び声が深い森にこだましていた
貴重な時間を使って読んでいただき
ありがとうございます