キャシーの文字の正体
慶太達は掲示板の前でキャシーの説明を受けるていた。しかし、誰が見ても慶太は目を輝かせてキャシーの説明を受けていた。本当に少年に戻ったような表情で聞ている慶太。そんな慶太を見て女性たちは少しばかり顔が朗らかになっていた。
「ここの掲示板に載っているクエストすればいいんだよね」
「ええ、そうよ」
「やっぱ、さっきのランクで受けれるクエストに違いがある?」
「ええ、良く知っているわね」
「なるほど」
「グイグイくるね、慶太」
「ごめんな、ただ、まだ聞きたいんだけど」
「ええ、いいわよ何でも聞いて、もちろん恋人は募集中よ」
「わかった。……え?」
「いやん、恥ずかしい」
「おい、何聞いてんだよ、あんた……」
慶太は質問もしていない意外なことを答えてくれるキャシーに驚き、聖騎士沙織は不機嫌になる。
「いや、待って俺は聞いていない」
「慶太……あたしも恋人いないよ」
「カーリーまで!」
「あらあら、カーリーちゃんも慶太狙いかな」
「え……?」
キャシーは意地悪な笑みを浮かべているが、キャシーの言葉にカーリーは顔を真っ赤にしていた。
掲示板の依頼書の中には絵が入ったものも沢山あった。絵といっても色々な絵があり落書きや宝の地図、お手伝いするときのメモといろんな絵があるがひと際、繊細なタッチで描かれたものがあった。
それを一目見て慶太はそれが誰だが分かってしまう。
「エミリー……」
慶太の声は震えていた。
「へえ、良く知っているのね、この人はこの国の第三王女のエミリー姫よ、それにこの人は王国一の美貌を持っているのよ」
キャシーはなぜか自慢気に慶太に話し始める。
「どうして、エミリーが?」
「ん?エミリー姫は三か月前から行方が分からないのよ」
「そ、そうなんだ」
「どうしたの慶太、顔色が悪いわよ」
「なんでもない」
「そう?でも」
急にキャシーは低いトーンで話し始める
「このクエストを受けるのはお勧めしない、だってあと一週間で期限切れになるの、多くの冒険者がこの依頼を無理なクエストだと言って手を付けないの、それがどういう意味か分かるよね」
それを聞いた慶太は生唾を飲み込む。唾をのむ音がとても大きく消える。慶太は神妙な顔つきでキャシーに問いかける。
「どういう意味なんだ?」
「難易度が高いというのも一つだけどね、このクエストを受けた人は不幸な事故に見舞われるの」
「不幸な事故?」
「ええ、このクエストを受けるとエミリー姫を探している最中に高ランクでも事故死する人がとても多いの、だからA以上の高ランクの冒険者でもあまり手を出さないのよ、それに報奨金は一国の姫でありながらそこまで高くないからやりたがらないのも一つかな」
キャシーはギルド職員として冒険者を過度に怖がらせることは良くないことだと知っている。ただ、このクエストだけは本当に命にかかわることを知っているキャシー。慶太には特に受けてもらいたくなかった。
「わかった、俺がこのクエストを受けるよ」
「賢明な判断よ、こんな曰く付きのクエストを受けるなんて……え?今なんて?」
「俺がこのクエストを受ける」
「……私の長ったらしい話をしっかりと聞いてた?」
「ああ、もちろんだ」
慶太の顔は覚悟を決めた男の顔をしていた。
「死ぬわよ」
「死ななねえよ」
「あきれたわ」
キャシーはため息交じりで慶太の決断に呆れる
「そういわないで、頼むよ」
「これはダメ、あなたを殺すようなクエストを受理したなんていったら……」
そこへ割って入ってくるのは沙織だった。
「なら、あたいが受けるよ、それなら大丈夫だよね」
沙織は慶太とキャシーの話に割って入る。手を口に当て少し考えるキャシー。
「ええ、それなら、いいわ」
「よっしゃ、んじゃ、手続きを済ませていきますか」
慶太はやる気に満ち溢れていた。
「今からか?」
「ああ、今からだ、不満か?」
「いや、そんなことはない……」
「突き合わせて済まないな」
やる気満々の慶太を後目にカーリーはバツが悪そうな顔をして慶太とは別に帰ることにする
「あたしは家に帰るね、じゃあね……バイバイ慶太」
この時のカーリーは少しばかり焦っているようにも見えたが、特に気にならない慶太。そして、慶太と沙織の二人はギルドを出て街の出入り口へと一直線に向かう。
門には門番であるヨータがあくびをしながら立っていた。業務上、ずっと門の前で立っているので退屈なようだ。
「これも身分証になるんだよな」
慶太は自慢気にギルドカードを門番ヨータに見せつける。それを近眼の人が近くよって物を見るようにヨータは覗き込んで慶太のギルドカードを見るとひとり納得していた。
「ああ、もちろんだぜ、それにしてもこのギルドカードを発行したのはキャシーだろ」
「良く分かったな」
「ああ、こんな汚い字を書くのはあそこのギルドではキャシーぐらいだからな」
「な、なるほど」
ヨータの言葉に慶太の自動翻訳が機能しなかった理由がわかったのだった。
「まあ、気を付けていって来いよ」
「おう、明後日には帰ってくると思うからアリーナさん達をよろしく頼むぜ」
「お前に言われてなくても大丈夫だよ」
笑顔の門番ヨータに見送られて慶太と沙織は歩きだす。
「んにしても、どうする?こころ辺りとかあるのか?」
門を出てすぐに沙織は慶太に質問する。
「ああ、実は居場所……知っているんだ」
「な、なんだと」
沙織は驚いて大きな声とリアクションを取ってしまう。
「シー、声が大きい、まだ、見張り番の人に見える」
「連れて行ってもらっていいか?」
まだ、沙織は慶太の言葉が信じられないが、あてがないので藁にも縋る思いだ。
「もちろんだが、見張り番の人が見えなくなったら一気に行くからな、いいな?」
「う、うん、わかった……よろしく頼む」
「決まりだな」
慶太と沙織はゆっくりと街道を南に向かって歩く。そして、見張り番の人の視界から消え、周りに人がいないことを確認したらすぐに慶太は神器を装着して沙織を抱きかかえて走り出す。
「しっかりと捕まっていろよ」
「うん……」
以前の恐怖体験を思い出してた沙織は拾ってきた猫のようにおとなしかった。到着したのはナギから少しばかり離れた荒野にやってきた。
急に慶太は荒野のど真ん中で止まりあたりを見まわした。
「おい、出て来いよ」
「だね、いい度胸しているよ、あたいらについてくるなんて」
慶太は一見、誰もいないところへと話しかける。沙織も誰もいない場所へと慶太にお姫様抱っこされたまま話しかける
「やはり、神器を持っているんだね」
突如、何もない場所から若くて活きのいい声で慶太達の前に姿を現す一人の男性がいた。
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