試験管グレイハス
やっと始まるキャシーの冒険者ギルド口座を真剣に聞く慶太。どことなく、慶太は少年に戻ったような顔になっていた。
「あ、最初によく勘違いする人が多いんだけど、報酬は税金が引かれるからね、覚えておいて」
「ほう、そういうものなのか」
「ええ、税金を納めるからこそ身分の証明を出来るのよ」
「まあ、そこは理解できるよ」
「あら、意外と素直ね」
「俺はいつでも素直だぜ」
そんな慶太の一言がキャシーのいたずら心に火をつける。
「フフフ、なら素直にアリーナに手を出せばいいのに」
「ぶっ、お、おまえはバカを言うな、アリーナは結婚しているんだぞ」
「知ってるよ。でも、面白そうじゃん?」
「……」
「まあ、慶太がいつ素直になるのか見ものだわ、アハハ」
「説明を頼む」
「あ、もしかしてカーリーちゃんのほうだった?」
「おいおい……」
「冗談だよ、そんな怖い顔しないで」
「もう、頼むよ」
「うん、わかったよ慶太」
これ以上からかわれるのも癪なので睨みを効かせて説明を催促する
「えっと、あとは、そうそうポイントかな」
「うん、討伐失敗するとポイントが減るのそうしたらランクダウンになるのと減点ポイントが多いと報酬が減るのと失敗時の違約金が高くなるから注意してね」
「ふむ、最初はどれぐらいのポイントがもらえるんだ?」
「それは、これから行うテストで決まるよ」
「テスト?」
「ええ、ちょっと酒場で待っていてね、審査員を呼んでくるから」
「わかった」
キャシーはいそいそと準備を始める。カウンターの裏では書類を整理しているのだがキャシーの性格上、整理整頓が下手くそなのだろう書類の雪崩が起こりキャシーは巻き込まれる
ガラガラ、ガッシャーーン
「キャー」
これは時間が掛りそうだとしたの酒場でゆっくりとすることにした。
「あ、おわったか?」
「いや、まだ、テストがあるらしいよ」
「テスト?なんでそんなものがあるんだ?」
「さあ、ポイントを決めるものだって言ってたぞ」
「そうか、あたい達は勝手にポイントが与えられていたな」
「どのぐらいのポイントがもらえていたんだ?」
「ポイントがいくらあったのかは知らねえけど、最初からAランクだったよ」
「流石、盾の勇者ってことか……」
「いや、それを言ったらあんたも仮面の勇者じゃん」
「勇者なんてガラじゃないからいいや」
「あたいだってそうさ」
沙織と会話をしながら待っていると受付嬢のキャシーはなかなか来ない
どうしたのかと思っていたらそこへカーリーがやってきた
「あ、慶太だ。昼間っからお酒飲んでるの?」
「違うよ、冒険者ギルドのテストをこれから受けるんだ」
「へぇ、じゃああたし、応援するからここで一緒に待ってる」
「え、いいよ、お手伝いしている途中じゃないの?」
「もう終わったよ、酒場にお金を届けるだけだったから」
「そうか……」
カーリーは慶太の横にちょこんと座り静かに待っていた。あまりに慶太とカーリーの距離が近いので沙織も距離を詰める。慶太は周りの視線が異様なまでに殺気立っていることに気が付いていたが知らない振りをしていた。
「お待たせしまた」
やっとキャシーが上の階から男性と一緒に資料を持って降りてきた。ただ、キャシーの髪はボサボサになっていた
「待ちくたびれました」
「ごめんなさい、ちょっと資料が……」
「今度から整理しておけよ」
「すみません」
一緒に降りてきた男性に怒られるキャシーが小さくなる。
「俺はここのギルドの試験管グレイハスだ」
「あ、どうも」
キャシーと一緒に降りてきた男性はグレイハスという試験管だった。慶太はあまりみたことがない男性だった。
「これから実技を始めるが……」
試験管グレイハスは慶太に目を向けると美少女に囲まれる慶太を威圧的な眼差しで脅しにかかる。
「ったく、少しばかり厳しく行くぞ、ついてこい」
「あ、はい」
そして、慶太はグレイハスに連れ出されて酒場の裏にある中庭へと出る
「では試験は簡単だ。お前に素質があるかどうかを見てやる」
「お願いしまーす」
深々と頭を下げてお辞儀をしてみる慶太
「慶太、がんば」
「がんばりなよ」
「おう」
「……チッ」
周りの黄色い声援に試験管グレイハスはご機嫌斜めのようだ
「どうしました?」
「なんでもねえよ」
「慶太さん、ツケがあるのでしっかり稼げるランクでお願いします」
「それは、ちょっと」
「……」
キャシーからも声援が飛ぶので非常に面白くない試験管グレイハス
「準備はいいか?始めるぞ」
「はい、お願いします」
試験管グレイハスは剣を抜いて構える。慶太もボクシングジムの経験を活かして構える。
「ほう、素人としてはなかなかの構えだね」
「あ、ありがとうございます」
「でも、構えだけじゃ実戦は耐えられないよ」
試験管グレイハスは鋭く慶太に攻め込む
「やばい、よけな」
「ん?」
聖騎士沙織は試験管グレイハスは本気で慶太に攻撃していることに気が付いていた。神器を持っていない慶太は試験管グレイハスの攻撃をもろに受けると大ダメージを受けるのではないかと心配する。
「慶太、お前は前から気に入らなかったんだよ」
「え?」
試験管グレイハスの攻撃が思いっきり慶太の顔面にヒットする。ただ、試験管グレイハスは剣の刃の部分ではなく腹の部分を慶太の顔にぶつける
「どうだ、思い知ったか」
「うん、まあ」
「……」
試験管グレイハスは剣の側面で力いっぱい殴っていたのだが一切のダメージを感じていない慶太に驚く。試験管グレイハスは剣を慶太に当てたまま慶太に話しかける
「なあぁ」
「はい?」
「お前の顔に俺の剣は当たっているよな?」
「まあ、そういうことになりますね」
「痛くないの?」
「なんというか、剣が当たったという感じだけで」
「そ、そ、そうか…………」
何かまずいことをしたのだろうか?慶太は神器がなくとも避ける程の攻撃ではなかったのだとわかっていた。神器を付けていないのでログの確認はできないが、必要すらなかった
「では、ここまでとする」
「え、もう終わりですか?」
「ああ……終わりだ」
キャシーは試験管グレイハスにテストの結果を聞き出す。
「で、彼は何点ですか?」
「……」
「何点ですか?」
「あ、ああ……」
試験管グレイハスは元Aランクの冒険者だ。騎士団にスカウトされるほどの腕だが冒険者のほうが自由だと思い冒険者としてやっていた
だからこそ、腕には自信があった。だが、その自信が見事なまでに壊されたのだ
「慶太、大丈夫?」
「あんたはいっつも無茶するね」
美少女達が駆け寄り慶太の心配のする。試験管グレイハスはその光景を見ながら覇気のない声でキャシーの質問に答えた
「Fランク、ゼロ点だ」
「え?どうしてですか」
「ゼロ点だ、あいつは……」
「はぁ、結構強いと思ったんですがね」
「結構か……」
「え?」
キャシーは試験管グレイハスの言葉の意味があまり理解できていなかった。だが、仕事はしっかり取り組んでいた
慶太のギルドカードにランクを刻む
慶太は素直にFランクを受け取るが受付嬢のキャシーと外野が受け入れられないようだ
「えっと、Fランクってことでいいのかな?」
「は、はい、何でですかね?」
「さあ、俺に言われても……」
「ちょっと、何でこいつがFランクなんだよ、さっきの攻撃を受けてもピンピンしているような変態だぞ」
「……変態とは失礼な」
「私もなんで慶太がFランクなのか説明を受けてもよくわからないのよ、でもね、慶太ならすぐにランクアップすること信じているよ」
キャシーは慶太を励ます言葉を掛ける。慶太本人はというとあまり気にしていなかった
「が、頑張って下さいね」」
「そうですね、頑張ります!」」
「慶太、あたしよりもランク下なんだ」
「え?カーリーは冒険者なの?」
「うん、そうだよ」
「すごいね、ランクは?」
「Aランクだよ」
「俺が一番低いのね」
「慶太、頑張ろう」
「ありがとう、カーリー」
慶太は拳を握りヨシと自分に気合を入れる。そして、掲示板の前にキャシーと一緒に移動して掲示板の説明を受ける




