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カーリーの魔法

カーリーが誘拐された次の日の朝はいつも通りの朝だった。



朝一番に宿へ帰ってきた親バカイケメン主人クレスが戻ってきて誘拐事件の話を聞いた。と同時に気絶したらしい。そんなことは知ったことかと元気いっぱいなカーリーが慶太の部屋のドアを勢いよく開けて朝の挨拶をする。






「おはよう、慶太」


「おはよう、カーリーもう大丈夫?」


「うん、元気いっぱいだよ」


「昨日は災難だったね」


「あたしは大丈夫、それに昨日の慶太かっこよかったよ」


「そう?ありがとうね、でも、怖い思いしたよね」


「うん、でも慶太が来てくれたの、だから慶太のこと、慶太の……」


「あはは、ありがとう」






カーリーの言葉に布団から跳ね起きる聖騎士沙織






「おはよう、カーリーちゃん」


「盾のお姉ちゃん、おはよう」


「カーリーちゃんは昨日の事件で疲れているから今日はゆっくりとしていたほうがいいんじゃない?」


「大丈夫だよ、今日は慶太と一緒に森へデートするんだ」






カーリーの口から出るデートに反応する聖騎士沙織はわきに抱えていた枕に力が入る。








「いつも言うけど、森は危ないよ」






冗談だろうといつも通りに身支度をしていた慶太。







「ダメ、今日は絶対についていく。もう離れないから」






そういってしがみついてしまいうカーリーの成長中の胸の柔らかさが慶太の伝わり困ってしまう慶太。いつもと違うカーリーを見てどうしたものかと考える。いつもなら冗談を言ってそのまますぐに部屋を出るというパターンがいつものカーリーの行動パターンなのだが今日のカーリーはずっと慶太のそばから離れないのだ。








「遊びで行くような場所じゃないよあの森は」


「あたしも慶太と遊びでいるわけじゃないよ」


「クッ……」







カーリーの言葉に苛立つ聖騎士沙織。そして、付き合いの浅い聖騎士沙織もカーリーの本気度が見えてしまう。







「えっと、カーリーどうして、まだいるのかな?それもこっち側に……」


「ふふん」








カーリーは慶太の質問を鼻で笑って誤魔化す。これが意味することは慶太はしっかりと理解していた。逃がさないぞって意味だ。






「やっぱり連れてはいけないよ。危ないから」


「ダメ、今日という今日は連れて行ってもらう。どこでもついて行きたいの」







案の定、慶太についていくと言って聞かないカーリーに慶太は今日は別の森へと行くことにした。ナギから西側にある近くの森なのだが昨日、誘拐事件のあった廃村とは真逆方向となる。魔物の類や危険な場所もなく連れていくにはちょうどいい場所だろうと考えた慶太。







「あ、そうだ、あたいちょっと用事を思い出したから今日は行くのやめておくよ」


「おお、そうか、わかったよ」


「やった、慶太と二人っきりだ」


「いや、後から合流するよ」


「ええー」







聖騎士沙織は用事を済ませてからくるとのことだった。用事が何かを問うことはしない慶太。







「さぁ、出発進行!」


「はいはい」








元気いっぱいなカーリーに手を引かれて二人一緒にナギの街を出る。途中で何故か痛い視線を受けるが慶太は気にしないようにした。門番ヨータにはあまり遠くへ行くなと忠告を受ける。見えなくなるまでお見送りをしてくれる見張り番の人にカーリーは手を振り続けた。それに答えるべく見張り番の人も涙を流しながらカーリーに手を振り続けた。






ちなみにこの見張り番の人は娘派に属する人だというのは後から知った。彼のもう一方の手には「慶太」と書かれたわら人形があったとかなかったとか。








ナギから森までは1時間ほどで到着する。カーリーはかなりの急ぎ足で向かうが倒れてもらっても困るので慶太はあえてゆっくりと歩いた。そして慶太はカーリーと森に到着してすぐに取った木の実で遅めの朝食を済ませていた。






「これ、あたしの好きなピコの実」






ピコの実と言われる青リンゴに似た果物を慶太は受け取りそれをその場で頬張る。






シャリッ






それはまさしく見た目通り、リンゴだった。ただ、日本のスーパーで売られているほど糖度は高くなく酸味が少しばかり口に残る。






「カーリーはこれが好きなの?」


「うん、でもね、最近はネオピを食べたせいでそっちのほうがおいしくなっちゃった」


「確かに、ネオピのほうが甘いよね」


「あたしの体をこんなにしたのは慶太のせいだから責任取ってね」


「おいおい」


「アハハ」







本当にカーリーは慶太をからかうのが楽しいようだ。慶太もからかわているのは承知の上で対応しているので余裕がある。








程なく散策をしていると、飢えたオオカミと遭遇した。ナンバーウルフといって体に数字の模様がある。その数字は個体のレベルと同等の数字になるらしく一目で強いか弱いかを判断できる。慶太とカーリーの目の前に現れたのは30という模様があるのでレベル三十ほどなのだろう。


慶太はカーリーを守るためヘルメットを被ろうとするがカーリーはそれを拒否するかのごとく慶太の前に出て戦おうとするカーリー。






「おい、カーリー危ないよ」


「大丈夫」






カーリーはナンバーウルフに向かって両手をかざす。慶太は驚いた、カーリーは次の瞬間、魔法を唱えるのだ







「グラビティ」








するとナンバーウルフの動きは止まりその場から動けなくなった。だが、カーリーの凄いのはこれだけではなかった。







「インパクト!」







続く魔法によってなんと簡単にナンバーウルフを倒してしまうのだ。ナンバーウルフは身動きが取れなくなったところにかなり強い衝撃を脳天に浴びショック死することになった。慶太はカーリーの凄さに見とれてしまっていた。








「どうだ、慶太。あたしもなかなかやるでしょ?」







その言葉に我に返る慶太








「すごいよカーリー、こんな魔法が使えるなんて」


「えへへ、お母さんに教えてもらったんだ」


「へえ、アリーナさんは魔法が使えるんだね」


「うん」








慶太に褒められたカーリーはとても嬉しそうにしていた。しかし意外だったのがアリーナが魔法を使えることに驚く慶太だった。











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一方、宿に残った聖騎士沙織は料理長にお願いして厨房を借りていた。聖騎士沙織はお昼を作って慶太に届けるつもりだった。






「今に見てろ、男を落とすにはまず料理だ。あいつ、お弁当なんて持っていったら……」







慣れない手つきで料理をする聖騎士沙織。しかし、自信はあるみたいで妄想が止まらない。







「あたい……どうなっちゃうんだろう……」






聖騎士沙織が何を作っていると何故か宿の女将でもあるアリーナさんも厨房にやってきた。







「あら、どうされました?」





物腰柔らかなアリーナは厨房にいる聖騎士沙織をみて不思議そうにしていた。






「いやさ、たまには料理でも作ろうかと」






アリーナは表情には出していないが不思議そうな顔をしていた。








「奇遇ですわ、わたくしも料理を作ろうかと思って来ましたの」


「そっか、あたいは三人分作ったらそれで終わりだからすぐに済ませるよ」


「奇遇ですわ、わたくしも三人分作る予定でしたの」







お互いに料理の予定人数を確認すると静かにだが闘争心を燃やし始める







「「…………」」








この時、料理長は自分の受け持つ厨房が戦場と同様の雰囲気になっているのを肌で感じていた。そして、聖騎士沙織は料理を手にナギの街を後にするのだが、あとから料理が完成したアリーナも料理を手にナギの街を後にする。








この時、誰一人として慶太とカーリーが向かった森の近くの村で異変が起こっていることを知る余地はなかった

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