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ウサギの肉

慶太は町の見張り番からギリギリ見えない場所へきて元ヤンキー沙織をおろしてヘルメットを取る。へルメット男の中身が異世界にきて初めて見た顔見知りの男だと知り驚いた元ヤンキー沙織








「あんた!」


「ん?」







元ヤンキー沙織は慶太に指をして驚いた表情をする








「なんだよ、生きていたのかよ」


「あ、そうか、気が付いてなかったのか」


「当り前だろ、あんた確か、髭眼鏡の勇者だよな?」


「失礼な、仮面の勇者だって言ってもあの髭眼鏡のほうが印象は強いかな?」


「当り前だろ」









慶太の問いに元ヤンキー沙織はとても正直な感想を述べる。慶太は素直な元ヤンキー沙織にトホホと力が抜ける。






「死んだもんと思ってたよ」


「やっぱり俺は死んだことになってた?」


「ああ、あのハゲ宰相が殺したような雰囲気を出してからさ」







慶太自身、薄々だが気が付いてた。山賊の登場が偶然にしてはあまりにもタイミングが良すぎるからだ。しかし、今の慶太にとっては背中に背負っているウサギの鮮度のほうが重要だ。






「まあ、歩きながらしゃべらないか、ウサギの鮮度が落ちちゃう」


「そのウサギさ、そんなに美味しいの?」


「食べたことないのか?」


「うん、こっちに来てから野菜と干し肉で生活していたから」


「そっか、それじゃ、料理長にお願いして作ってもらわないとな」


「……マジか」








慶太は街の近くの小屋あった荷車に一角ウサギを乗せてロープで縛りナギへと移動する。元ヤンキー沙織はやはり足を痛めているので足をひこずりながら歩こうとする






「乗りなよ」






慶太は荷車が一杯なので元ヤンキー沙織をおんぶして移動しようとする。だが、町中をおんぶで移動するのは恥ずかしい元ヤンキー沙織







「こんなの大丈夫に決まってんだろ」


「強がるなって」


「おい、やめろー」






慶太は強引に元ヤンキー沙織を背中に乗せて移動を始める。今の慶太にはウサギの肉を少しでも早く食うのが最優先事項になっていた。






「……」






恥ずかしそうにする元ヤンキー沙織は少しずつ慶太の背中の温かみを心地よく感じ次第に大人しくなった。






そして、慶太は門番ヨータに出会うとかなり恥ずかしく降ろしてくれとひとしきり暴れるだろうと予想していたのだが、疲れたのだろう背中で眠ってしまっていた元ヤンキー沙織。おかげで、簡単に第一関門突破することができたのだ。






そのまま歩いてオリーブ亭の入口へとたどり着く





すると、カーリーが明るい笑顔で手を振って出迎えてくれたのだが、なぜか慶太に近づくにつれて暗い表情へと変わっていく






「おかえり……慶太……」


「ただいま、カーリー、どうしたんだい?」


「なんでもない」







暗い表情に低いトーンでいつものカーリーとはまるで別人のようだった。






「あ、ごめん、寝てたわ」


「気にするな。ここだよ、着いたよ」


「デカイ宿だな」


「だろ」






元ヤンキー沙織は宿を見上げて驚いていた。






いつの間にか、カーリーと入れ替わりにアリーナさんも出迎えてくれた、仕事中なのだろうか一輪挿しの花瓶を手に持っていた。アリーナさんはいつもと変わらない感じで慶太に声を掛けてくれた







「慶太さん、おかえりなさい」


「あ、ただいまです、アリーナさん、ウサギを取ってきたのでみんなで一緒に食べましょう」


「あらあら、いつもありがとうございます」


「君も一緒に食べるよね」







慶太は背中にいる元ヤンキー沙織のほうに顔を向けて声を掛ける。







ピシッ







何の音だろうと慶太は当たりを見回す







「あら、この花瓶ヒビが入ってしまいましたわ」


「大丈夫ですかアリーナさん」


「ええ、私にも 気を使っていただいてありがとうございます」







何故かアリーナさんが持っていた花瓶にひびが入る。慶太はもう一度、元ヤンキー沙織に目を向けると少しばかり青ざめていた。







「どうしたの?大丈夫か?」


「あ、ああ、あたいのことは気にするな、ハハハ」







慶太は食堂へと向かい料理長に一角ウサギの調理を依頼する。料理長は目を輝かせて外に置いてある荷車へ一角ウサギを取りに行った。ウキウキしながら肉持って厨房へ入る料理長、元ヤンキー沙織の分を含む人数分を調理してもらうようにお願いしたら快く承諾してくれた。







料理は部屋へ運んでもらえることになったので部屋向かうのだが途中で親バカイケメン主人クレスに元ヤンキー沙織も泊めてもらえるように相談に行った。









何故か親バカイケメン主人クレスはかなりの上機嫌で出迎えてくれた。






「慶太くん、彼女をこの宿に泊めるのかい?」




慶太はこの親バカイケメン主人クレスの喋り方が非常に怖かった。嬉しさを必死でこらえながら冷静に話をしようとしているのだが、嬉しさが勝ってしまい、態度と声に現れてしまっている。







「ええ、足を怪我してまして、それにウサギの肉を食べてみたいというので一晩いいですかね?」


「もちろんだよ!あ、でも他に空き部屋はないんだ、一緒の部屋でよければだけどね」






この親バカイケメン主人クレスのバカな提案はすぐに断るつもりだったのだ






「あたいは構わんよ」


「……え?」







慶太は当の本人がいい反応に困った。ただ、背中にいる元ヤンキー沙織は本当にいつも通りの態度だった。








「おーけーおーけー、なら話は早い。それでは慶太君にはい・つ・も!お世話になっているから、どうぞしっぽりアンドごゆっっっくり~」







終始ご機嫌な様子の親バカイケメン主人クレス。






だが、今となってはクレスのことなどどうでもいい、別の問題が起こったことは事実だ。男女で同じ部屋に一晩だ。間違いが起こってしまっては大変だ。






これは慶太にとって一大事だ。が、元ヤンキー沙織は平気な顔して承諾していた。慶太は元ヤンキー沙織の仕草を見て男として見られてないのだろうと少しばかり自信喪失する















その後、しばらくすると料理長が直々に持ってきてくれた一角ウサギのサイコロステーキの匂いに目を輝かせる元ヤンキー沙織。今日の疲れを感じさせないほど元気よく元ヤンキー沙織は慶太の泊まる部屋で一角ウサギのサイコロステーキを頬張っていた。それもそのはず、一角ウサギの良い部位は霜降りで甘みがある肉質、日本でランク付けすれば間違いなくA5だろう。そして、新鮮であればかなりの高値が付くほどだ。








元ヤンキー沙織は本当においしそうに食べていた。一緒に食べている慶太も彼女の食べっぷりを見て嬉しくなる







「うめー、なんだよ、これ」


「だろ!最高だろ」


「最高だよ、こっちきて食った中でいちばんうめーよ」








同じ部屋で気まずい空気になるどころか一角ウサギのサイコロステーキで大盛り上がりの慶太と元ヤンキー沙織。食事を終えてすぐに気まずい雰囲気にならないように慶太は年長者としてテキパキと寝床の用意をする。






着替えなどのプライベート空間を確保するために部屋をカーテンで二つに仕切る








「それじゃあ、君がベットのあるこっち側、俺はこのソファのあるこの場所、異論は認めない」


「……わかった」


「それじゃあもう寝るかい?足のケガを早く直さないとな」


「いや、それは大丈夫。飯食ってマナが回復したから」


「マナ?」


「ああ、見てな……ヒール」







元ヤンキー沙織はヒールの魔法を唱えた。緑色の淡い光が元ヤンキー沙織の足首を包み込む







「すごい、それって回復魔法?」


「ああ、結構便利なんだぜ」


「魔法が使えるなんて、本当に凄いなぁ、尊敬するよ」







元ヤンキー沙織は回復魔法が使えることにかなり驚く慶太。回復魔法も大盾も使いこなす職業をすぐに連想する慶太







「もしかして、職業って」


「ああ、聖騎士さ」







慶太の中で沙織は只者ではないことをしっかりと認識する出来事だった。







「なあ、聞きたいことがあるんだけどいいか?」







聖騎士沙織は真剣な表情で慶太に質問を投げかける。








「どうやってあんなに強くなったんだ?」


「んー直球だね」


「頼むよ、あたいだけレベルが低くてどうしようもないんだ」








慶太は自分も低レベルなので同じぐらいなのだろうか聞いてみることにした。







「今、神器のレベル、ジョブレベルはいくつなんだ?」







慶太はこの質問に後悔する、なぜなら自分のレベルの低さを痛感するからだ。







「あたいはまだジョブレベル101なんだ」


「ぶっ……高!」





まさかの桁違いとは思っていなかった慶太。そんな慶太をみて不安そうになる聖騎士沙織






「え?どういうこと?あんたはいくつなの?」


「えっとね……笑うなよ」


「うん、笑わない」


「絶対だぞ」


「あたいは笑わないって」


「に、二十……」


「……え?」


「だから、まだジョブレベル二十なの」







慶太は思い切って自分のレベルを聖騎士沙織に教える。







「ちょっと、本当?個人情報見せてよ」


「え?他人の個人情報って見れるの?」


「うん、あたいはちょっと恥ずかしいけど」


「まあ、別に……」


「それじゃあ、見せてもらう」






聖騎士沙織は慶太に近づいた。それは慶太が恥ずかしいと思うぐらい近づいた。息づかいが聞こえるのだ。慶太の心臓は高速で脈を打つ。






次に聖騎士沙織の手は慶太の頬に手を添える。







「目を閉じろ」


「……へ?」


「いいから、恥ずかしいだろ」


「……わかった」







慶太は目を閉じて聖騎士沙織の唇を待つ。聖騎士沙織の顔と慶太の顔が息が掛るほど近づいた






そして……邪魔が入る







「慶太!あたしもウサギのサイコロステーキを食べた、い……な」


「カーリー!?」








カーリーはサイコロステーキを慶太と一緒に食べようと部屋を訪れたのだが、カーリーは賢い子なので自身が邪魔だと察してしまい不貞腐れる







「えっと、慶太……お皿、自分で洗ってね……チッ」








舌打ちをしながら慶太の部屋を後にするカーリー








「「……」」








慶太と聖騎士沙織の二人は自分たちのやろうとしている行為にお互い顔を合わせることが出来なくなった。しばらくの沈黙ののちに聖騎士沙織の言葉で我に返る慶太。






「おい、やっぱ、見せてもらう」


「……わかった」





どうやら覚悟を決めた二人。しかし、慶太は勘違いしていた。






「言っておくけど、やましいことはないぞ、おでことおでこを合わせるだけだからな」


「なんだ、そうだったのか」


「慶太……もしかして」


「大丈夫、オーケー、さあやってくれ」








慶太は自分の期待していたことと違い残念な半分、少しばかりホッとしていた。聖騎士沙織のおでこが慶太のおでこと触れるとウィンドウ画面が新たに現れる。














名前 柳原 沙織

種族 人間

年齢 16  

職業 クルセイダー


Lv111

JLv101


身長1.71

体重58100


能力言語理解 

神器使用権限

シールドLv10

光魔法Lv5

回復魔法Lv7













どうやら本当におでことおでこで情報交換が可能なようだ。これは誰でも当てはまるのだろうか考えていると顔を真っ赤にした聖騎士沙織が問い詰めてくる。







「おい、あたいの個人情報は絶対にしゃべるなよ」


「わかってるよ」






他人のレベルを公表するつもりなどさらさらない慶太。だが、内緒にしてほしいのはレベルではなく……







「最近、少しばかり……」


「……そっちか」


「そっちって言うな、あたい、気にしているんだからな」








少々涙目で怒る聖騎士沙織。ムスッとした顔は歳の差のせいか慶太には可愛くみえ微笑ましかった。








「何笑ってんだよ」


「いや、別に」


「にしても、あんた、サバ読みやがったな」


「う……」


「二十って言ってたのに十九だったよ」


「まあ、君に比べたらそんなに変わらないだろ」


「そんなことない、この二十ってジョブレベルは重要なんだ」









慶太は聖騎士沙織から何やら意味深な情報を得ることになる。









「というと?」


「まあ、お楽しみかな」


「なんだよそれ」


「あのさ、このレベルの1ってどういうこと?」







聖騎士沙織は本体のレベルが1のままということが不思議で仕方ないのだが、当の本人も不思議で仕方ないので








「分からないけど、なかなか上がらないんだよ」







と、言うしかなかった。








「なんだよそれ、これじゃあ、あたいのほうが数字が上なのにあんたのほうが強いって納得できない!」


「そう言われてもな……」


「ミステリーだな」


「ああ、ミステリーなんだろうな」







頭を使うことを放棄する似た者同士。ミステリーという便利な言葉で片付ける二人だった。








「でも、あんたの年齢にも驚いたよ」


「そうか、この姿しか知らないとそう感じるよな」


「ああ、あたいはてっきり同じ年だと思っていたからさ」


「中身はおっさんだよ、すまんな」








今までだましているような気分になっていた慶太はカミングアウト出来て少しばかりだがスッキリしていた。








「あたいは気にしないよ、それよりも強さの秘密を教えてくれ」


「そういわれてもなー」


「頼む、何でもするから、何でも!」


「な、何でも……」








ごくりと生唾を飲み込む慶太。元女子高校生が上目づかいで何でもすると迫ってきている状況に興奮しない訳がない。






「……お願いだよ」







聖騎士沙織は言葉づかいは悪いが見た目はかなりの上玉だ。グイグイと迫られると慶太も弱かった。我慢が出来なくなりそうな慶太。








そして……邪魔が入る










コンコン








先ほどのカーリーが出入り口を開けて以来開放されていたドアを軽く手で叩くアリーナさん









「慶太さん、よろしいでしょうか?」


「は、はい!」







あまりにも驚いてしまい慶太は何故か正座をする。









「娘のカーリーが見当たらないのですがご存知ありませんか?」


「いえ、先ほど、ここへは来ましたがその後、何処へ行ったかは分かりません」


「そうですか、あ、すみません、お邪魔したようで、フフフ」


「い、いえ」


「では、失礼しますね」










優雅で物静かなアリーナさんは優しくドアを閉めて階段を降りていくが、すぐに









ドンガラカッシャーン










そして、宿の従業員たちが騒ぎ出す。








「奥様、落ち着いてください!奥様……奥様!!!」








慶太はその様子を耳にして腕を組み考える。








「アリーナさんはよほどカーリーが心配なんだろうな、カーリーも親に心配かけないように早く帰ってきてれないかなあ」









アリーナさんのご乱心はカーリーの事だと思っている慶太。だた、クルセイダー沙織は少しばかり青ざめていた。









しばらくすると落ち着いたアリーナさん。そして、その夜は静かな夜だった。慶太は聖騎士沙織がぐっすりと眠るのを確認すると自分も眠りにつくことが出来た。

ご苦労様です。

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