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神の姉妹の領域《テリトリー》  作者: 上川ねや
序章 血塗れの月夜
6/25

終わりで始まりⅤ

 ガシガシと乱暴に頭を撫でられる、その顔を見ると一瞬悔しそうな顔をしていたのがわかった。謝る必要なんかないのに、この人は命令に従ってこの村の村長という役割を全うしていただけなのに。


 甘いと言われても構わない、約束を守ってくれていたのもあるけど、私はこの人を許すと決めた。


 そんな中、私は気になっていたもう一つのことを彼に聞いてみることにした。


「そういえば、あの未来視係のちょっと太ってる男の人、あれはどっちの派閥だったの?」


「…あぁ、あのデブか…あいつのやり方は気に入らねぇことばっかりだったな。あいつはなぁ、ジジィが言ってたんだが“神都アイテール”から派遣されてきた未来視ができる一族で…お貴族様、なんだってよ。確か…派閥はマルドスとかいう同じデブった野郎のところだったはずだ、あの未来視の野郎と同じくキナ臭い男だったのを覚えている…。」


「…マルドスね……あの男の人…やたらと私に滅ぼすのがどうのとか、お前らがとか。国がどうのって話を聞いてきてたけど…なんだったのかしら…。」


 深く考え込みながら歩いていると、ジギーに背中を軽く小突かれる、どうやら村の出入り口にようやく到着したようだ、そこには疲れた表情のベンスが近くにあった石に腰掛けていた、周りには何人かの神族が血を流して倒れている。


「よぉジジィ、なんとか生き残ったみたいだな…」


「むっ…?ジギーか、それはこっちのセリフじゃ…しかし…本当に助けてくるとはのう…」


「当たり前だ、俺は約束は守る男だぜェ?それはてめぇが一番よくわかってるんじゃねぇか?」


 ベンスは苦虫を噛んだような顔をして舌を打つ。


「ところでこれからどうするんじゃ?行く宛もない、この村はもう駄目じゃ、こいつらをやっつけたあと、村を見回ってみたんじゃが……他の奴らはもう…関係のない奴らまで手にかけおって…あの馬鹿息子めが…」


 ベンスは悔しそうな顔をして俯いている、なにせ自分の拾の息子がこの惨状を引き起こしたのだから。

 誰しも身内には甘いのかも知れないが、なにも寝入ってるところに忍び込み恫喝し、歯向かうもの、同調しないもの、別派閥のもの、なにもかも関係なしに手に掛けていったのだ、中には仲の良いものもいたはずだ、悔やんでも悔やみきれないかと思う。


「ちっ…自業自得だな、てめぇが手綱を握るって言ったから俺は替わってやったんだぜ、甘い甘いとは思っていたがここまで身内に甘いとは思わなかったぜ、その甘さをこいつらにも少しは分けてやれなかったのかよ…」


 ジギーはそう言って地面に唾を吐いた、ジギーはいつも思っていた、自分らの身内には何があってもある程度のことは目を瞑るのに対し、連れられてきた子供達が劣悪な環境にいても毛布の一つも持ってこない、あまつさえ朝と夜にしか出ない食事でさえも与え忘れることもあったくらいだ、それを見ていたジギーは過激派の村長であったこともあり、声を大にして批判することもできず、手も出せなかったため今まで何も言わず我慢をしてきていたが、ここに来て取り返しのつかない事態になってしまったためここぞとばかりに苛つきを隠しもせずにベンスを攻め立てた。


 ジギーはそれほど頭に来ていたのだ。

 それこそ見かねたジギーが時々バレないように食事を持っていったり、寝静まったあと毛布を増やしていたり、少しずつ彼女らが少しでも気が晴れるように尽力していたのであった、それも相まってこれほどベンスに辛く当たっているのである。


 何も言わないベンスにジギーはもう一度舌を打つと、村の外へと歩きだした。


 雪達姉妹と数名の子どもたちは不安そうな足取りで、ジギーを追いかける、不安そうな顔を見た雪が全員を代表して口を開いた。


「これから…どうするの?私なんかより幼い子もいるわ、それに妹達だって、そんなに無理はさせられない…。」


「…わかっている、そんなことはわかってるんだ、そう心配すんな、これから”海岸都市コルセア”に向かう、そこで準備をして”神都アイテール”を目指そうと思っている、少し厳しい道程になるかも知れないが、そんなに難しいことじゃない、位置さえわかっていればお前らだけでも行けると思うぜ。」


 そう言うとジギーは不安そうな顔をしている子供達を順々になでつけていく、最初は警戒していた妹達も今ではすっかり安心しきっている、この人はちゃんと自分たちのことを見ていてくれているということがわかったような気がしたのだ。


 そんな状況に緊張の糸が緩んだのか、雨と曇はうとうととし始める、雪は困った顔をして曇を、雷はさも当然かと言うように雨をおぶった。


「あはは、困った妹ね…」


「はっ、全くだ…」


 雪と雷は微笑み、闇と陽は寝てしまった二人の頬をつっついている、その様子を無表情ながらも羨ましさがにじみ出ている氷と影、その様子を見てさっきまでの緊張感を取り戻してほしいと思うジギーだった。


 そんな時間も束の間、先程まで穏やかだった空間が不躾な殺意により一気に張り詰める。


「おーっと、そこのお子さん方、どちらに行くおつもりで?この村は村長の息子であるこの私に話を通していただかないと…御出になることは叶いませんよ…?」


「ちっ…レスター……上手く撒いたつもりだったが…そう簡単には行かせちゃくれねぇか…というかな、いつから村を出るのにお前の許可がいるようになったんだ?あぁ?」


 ギロリとレスターという男を睨みつけながらジギーは後ろを振り返る、ベンスは頭を抱えながら立ち上がることができないでいる。


「……この馬鹿息子めが…何が貴様をそうさせたんじゃ…」


「父上…!あなたは間違っている!この村は解き放たれなければならない…!お告げがあったのだ…!八の凶星により国が終焉を迎える…と!」


 そう言ってレスターは仰々しく予言の説明を始めた。国が数年後に終わりを迎えること、八個の凶星という不穏なお告げに今現在この国にその凶星に準ずる物は雪達姉妹しかいないこと、今現在女王は行方不明でマルドスが王座につき、マルドスこそが国の王にふさわしいということ、嬉々として、そして狂ったように笑いながら、さも楽しそうに語った。


 ベンスはゆらりと立ち上がる、その瞳には怒りの感情が見えている。


「…レスター、そこまで馬鹿だったとはな、あの古狸にまんまと騙されおって…ここで止めておかなければいずれはまた大きなことをしでかしそうじゃ…息子よ、国の未来のために今ここで死んでいけ。」


「きひひっ、ジジィ、やっと覚悟を決めたようだな、あのマルドスの野郎がトップにいる国なんてキナ臭くてしょうがねぇ、こいつらを逃がすためにも俺もてめぇに付き合ってやるぜぇ!」


 ベンスは短刀の柄の先端に魔石がついたものを逆手に持ち、ジギーはショートソードの真ん中に魔石を埋め込まれたものを構え、レスターと対峙した。


「愚かな村長共め、その子供を殺すことこそが国を救う架け橋になるというのに…老い先短い年配者に引導を渡してくれるわ!」


 レスターはそう叫ぶと先端に刃のついた錫杖を取り出し、地面に石突を強く突き立てる。


「おい、雪、お前たちは俺達が()()()()の相手をしている間に全速力で逃げるんだ、いいか?”海岸都市コルセア”はここから東にずっと行ったところだ、お前らの足じゃどう頑張っても三日はかかるだろうがそこでギルドを尋ねるんだ、俺の名前を出せばきっとわかってくれるだろう…お前らはここからなんとしても逃げ切って、強く生きるんだ…絶対に生き残って姫さんを探せ、捕まるんじゃないぞ、わかったな…!」


 ジギーは雪にだけわかるように風の魔法に声を乗せて耳に届ける、雪はピクリと反応すると目を潤ませてジギーを見つめる。

 ジギーはその顔を一瞥すると一瞬だけ困ったような笑顔を見せ、敵に向き直る。


「わかったらさっさと行け!モタモタするんじゃねぇ!早く行かねぇと俺がお前らをぶっ殺すぞ!!」


「っ!!…みんな行くわよ!走って!!」


 ジギーが叫ぶと同時に雪はみんなの殿(しんがり)となり走り出すように促す。


「逃がすはずがないだろぅっ!!!!」


 その瞬間壊れた家屋の影から数人が飛び出すが、それは風の魔法で撃ち落とされた。


「行かせるはずがないじゃろう、か?」


 喉の奥でクツクツと笑うベンスとジギーは二人で村の出口に仁王立ちをする。


「「此処から先は俺ら(儂ら)を倒してから行くんだ(じゃ)な!!」」


「このクッソッジジィイイイイ!!!!」


 レスターは憤怒と苦悶の表情を浮かべ炎魔法の詠唱をすると、何もなかった空中から大きな炎の塊が降ってくる。

 ジギーとベンスを取り囲む、レスターと七人の神族たちの戦いは始まりを告げた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 雪達は走った、夢中で言われた方向へと走り続けた。


 十分ほど走った頃、もう追ってきている気配もなくあたりは静寂に包まれ、世界は闇に覆われている、あるのは月明かりのみ、雪が急に止まった事により雷が不思議そうに振り返る。


「はぁ…はぁ…どうしたんだよ雪、早く行かないと…!」


「私は…戻る…。」


「…何を言っているんだ雪、あんなところに戻ったところで私達じゃ足手まといにしかならないのはわかっているはずだろう…?」


 息を整えながら闇は言い聞かせるようにそう話す。


「でも…八人もいたのよ!?いくらあの二人だって多勢に無勢だわ!私くらい戻ったって…囮か何かにでもなれれば…一人くらい戻ったってお母さんのバチはあたらないでしょ…」


「馬鹿野郎!ジギーがせっかく逃してくれた意味がなくなるだろうが!自分が何言ってんのかわかってのか!?」


「そうよ雪、落ち着いて考えて、あなた一人が戻ったところで何も変わらないわ。」


「それになぁ、どうすんだよ?この大所帯、雪がいなかったら誰が面倒見るんだよ、私はヤだぞ、めんどくさいし」


 雪は雷、氷、陽からもそんなことを言われてしまい、俯いてしまう。その様子を影だけは無表情から一転、糸目の笑顔で黙ってじっと見つめていた。

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