終わりで始まり
私、【峰藤 雪】は神の国【クリストラ王国】の王家へと生まれた八人の姉妹の長女、昔はお母さんとお父さんと、私のかわいい妹達でおうちの書物を読み漁ったり、お父さんやお母さんと追いかけっこをしたり平和な暮らしをしていたんだけれど、ある夜、私達姉妹は真っ黒なローブに身を包んだ人たちに拐われてしまった。
今思えば生意気な子供だったのかもしれない、それがいけなかったのか今ではもうわからない。
あれから、三年が経った。
――…私達は連れてこられた小さな村でなんとか生き永らえていた、生きていれば必ずまた母に会えると信じて。
まず村について冷たい石の牢獄に入れられた、どうやらこの村は二つの派閥によって成り立ち、その二つの派閥がお互いを否定しあいながらもなんとか存続しているらしい、村の長と名乗る男が二人現れた。彼らは私達の牢屋の中に入り、静かに説明を始めた。
「同情こそすれど、これも仕事である、悪く思うんじゃない、お主たちはコルトトという村に連れて来られた、ここの存在は一部の者にしか知らされてはおらぬ。…古くからの決まりがあっての、村の事は女性には知らせぬ決まりなのじゃよ、たとえ王族であってもな…故に女王、お主らの母君が助けに来るなんてことは万に一つもありゃせん、それに父君の方は、もう既におらんしな、諦めることだ、ここでお主たちが未来に何をしでかすかどうかを調べてほしいという依頼が来ている、何故かは儂も知らん、未来視の秘術が使える神族にお前たちにだけ視える未来を見せる、早く開放されたければさっさと視えた未来を吐くんじゃの…」
その老人からは厳しいが他の村人とは違った光の通った鋭い眼光が伺える。その老人がそう説明をしたあと、下卑た笑いを浮かべる男が老人を押しのけて前に出た。
「きひひ、上位神族の、しかも王族の!子供なんざイジる機会ありゃしねぇからなァ、嬉しいぜェ、女王サマには感謝しねぇとなァ、きひひ、さぁてどいつからやろうかァ…」
「おい、ジギー、約束を違えるんじゃないぞ?ちゃんと未来視はせんとこの村がなくなることになる、わかっておるんじゃろうな?」
「おいおい、それはお前たちの仕事だろうがァ?俺にはなにも関係なんざ無いねェ、やりたきゃお前らがやるべきだぜェ…」
「ちっ…何故この国にこんなやつがいるのじゃ…まぁいい、ならばこちらの神族を一人、毎回付けさせてもらう、それで文句はなかろう、もしやらなければ貴様らもこんなこと二度とできなくなるぞ、それでいいのなら儂は構わんがな」
「ケッ…チクられたら俺もそれは困るからなァ、好きにしなァ…」
勝手に話が進んでいる、なぜ私達がこんな疑いをかけられたのか、なぜこんなことになってしまったのか、私にはわからない。ただひとつ、今私にできることはこの妹たちをどうにか生きながらえさせること、それだけに集中することだけだった。
きっと子供相手にはそんなにひどいことはしないはず、大丈夫、きっと大丈夫だからと自分を落ち着かせた。酷く妹達は怯えている。
「そうだなァ…まずは一番背の高いお前、決ーめたっ、きひひ、さぁさっさと来いよォ…」
物を選ぶかのように一人ずつ指を向けていく、それが雷で止まるとニンマリと笑い髪の毛を無造作に掴み引き摺っていく、当然子供と大人の力の差は埋めようがなく、なすすべがなかった。
「ぐあっ!離せっ!離せよっ!」
「雷っ!離しなさい!」
雷を掴む腕にしがみついたが、すぐにそれも剥がされて壁に投げつけられてしまった、鉄格子の外へ連れていく男に睨まれると足がすくんで動かなかった。なんとか自分を奮い立たせて手を伸ばせば老人に阻まれる。掴もうとしても届かなかった、情けなく声を掛けることしか私にはできなかった。
雷は暴れながらも引き摺られて、牢屋の外の部屋へと連れて行かれてしまった。
「ふぅ…どうしようもないのぅ…お主たち、何が行われるか、聞きたくなければ耳を塞いで置くことじゃ、あいつは子供だからといって容赦するような男ではない。」
そう言って牢屋の冷たい鉄格子の扉はがちゃりと音を立てて閉まった。
老人が一人の神族を部屋へ行くように促すと、そのまま部屋から立ち去った。それから数分後、奥の部屋からは雷の悲痛な叫び声が定期的に聞こえてくる様になった、それと共にあの男の楽しそうな笑い声も一緒になって耳に突き刺さってくる、私はそれに耳を塞ぐ事もできず、ただただ呆然と聞いていることしかできなかった。
何なの、どうしてこうなったの、私達が、何を、したの。
どれくらい経ったのかわからない。
時計も何もないこの牢屋の中で私達は端の方に固まって雷と男が入っていった扉をじっと見つめたまま動けないでいた。お姉ちゃんがついているからと、私は妹達を懸命に励ましたつもりだったけど、どれだけ支えになれたかもわからない、気休めくらいにはなっていてほしい、そう願う。男の笑い声しか聞こえなくなった頃、男は唐突に部屋から出てきた、足早に黒いモノを鷲掴みにして出てきたかと思うと、見せつけるかのごとく私達の前に投げてきた。
「雷ッ!!」
私はすぐにソレが雷だと気づいた、母から教わった拙いながらの治癒魔法を急ぎ雷の全身に浴びせた。
雷はかろうじて息はしていたが全身に酷い火傷、腕と脚には何かで締められたような傷を負っていた、何をされたらこんな惨いことになるのか、涙で雷の姿が滲んだが歯を食いしばりヤツを睨んだ。
「この子に何をしたっ!!この子が貴方達に何をしたっていうの!!!」
「そんな事はしらねェ、俺はお前らの事情なんてしらねぇのさ、ソイツの属性は雷だったァ……だから少しだけ、ほんのちょっとした雷実験をしただけだ、やはり上位神族は活きが良い、これだけやってもまだ生きている…素晴らしい!…きひ、きひひひひ!!」
下卑た笑いを浮かべ男はそう言うと妹達を一人ずつ指を向けて何をしようかと楽しそうに話していく。
「お前は小道具を使って、お前はどこまで血が抜けるか試してやる、そこのお前は腹を掻っ捌いて中身を診て……あぁああ…楽しみだァ…!じゃあまた来る…きひひひひ…」
男は恍惚の表情を浮かべながら牢屋から出ていった。
それから数ヶ月、あの男は数週間ごとに現れては私達姉妹を一人ずつ実験という名の拷問にかけていった。その中であいつらの未来視が遅いだの記録をするのが遅いせいで実験が進まないだのと散々文句を言っていた、こちらとしては何もされない期間が増えて願ったりかなったりだ。
雷、闇、影、雨の四人はすでに実験と称する拷問を受けている。雷は毎回耐えうる限りの落雷を受けさせられる、闇は背中にどれだけの刃物が刺さるのを耐えられるか、雨は上位神族はどれだけ血が抜けるのかと言われ血液を抜かれた、影に至っては手足を縛られて吊るされ、お腹を開かれてどこまで中身を出しても生きていられるのかという実験、どれもこれも悲惨で惨いものばかりだった。
影の身体を投げ渡してきたとき、ヤツは言い忘れていたかと自分のことを“ジギー”と名乗った。こちらとしてはどうでもいい情報だ。影はなんとか傷は治せたものの傷の後遺症とショックで笑顔しか表情が作れなくなってしまった、雨は血を抜かれたのが治癒の魔法で治せてよかったと思う、闇はまだ切り傷だったから良かった、それでもまだ良かったというだけの話だ。
私は姉として情けなく惨めで、毎回戻ってきた妹達の姿を見ていつも涙が溢れた、それを乱暴に拭う。何がお姉さんだから妹を守るだ、何もできていないじゃないか、私は無残な妹たちを守れない自分への怒りと、ジギーにいい様にされている悔しさに覚悟を決めた、次にジギーが来たときに自らが妹たちの代わりをすることを決意した。