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ブレイブワールド  作者: とらまる
第一部 バーストブレイカー
9/19

part8 アイリとの遭遇

剣士Xを倒した俺とキリヤは、そのまま他の敵を倒す為にポイントを移動していた。すでにバーストブレイカーが開始して、2時間くらいは経過しただろう。


「……なぁ、キリヤ。どうして剣士Xとの戦いで二刀流を使わなかったんだ?」


俺は思わずキリヤに尋ねてみた。よくよく考えれば不思議だった。キリヤは剣士Xとの戦いで黒い剣しか使用していなかったのだ。対となっていたもう一本の剣を使わずに、黒い剣だけで戦っていたので不思議だった。

キリヤの基本戦闘スタイルは、遠距離からのショットガンと近距離からの二刀流のハズなのに、どうして二刀流ではなく、片手剣一本で戦ったのだろうか。カズマは不思議でたまらなかった。


「そんなの簡単だぜ」


と、キリヤはさも当然のようにこう言った。



「――――お前とのラストバトル以外の戦いなんて、本気を出さなくても勝てるって確証があるからだ」



カズマは絶句した。たかがカズマとの戦いのためだけに、その得意分野である二刀流を封じるとキリヤは言っているのと同じなのだ。カズマにとって、キリヤの二刀流封じはより一層不思議に思えた。


「そんな…。俺とのラストバトルのために取っておくなんて、意味が分からないぜ! 別に俺よりも強いヤツなんて、うじゃうじゃいるのにどうして俺との戦いなんだよ」

「そりゃ、お前が唯一俺に勝利したヤツだからだよ。そんなヤツに、ベストコンディションで戦わないわけがないだろ? だから、俺はお前とのラストバトルまで、この二刀流を封じる。……最初からそう決めていたんだ。元々は俺が剣一本でどれだけ勝利できるかってことで挑戦していたんだけど、お前に負けてからはお前とのバトルだけが唯一の楽しみになっているんだ。だからこそ、俺はこの二刀流を封じるって決めたんだ」

「……あ、」


カズマはキリヤの気持ちにようやく理解した。つまり、キリヤはカズマとの戦いを楽しみにしているからこそ、得意分野である二刀流を封じていると言うことなのだ。

そうか……。キリヤはそこまで、俺との戦いを楽しみにしていたのか……。カズマはキリヤの本心に気付き、気持ちを新たにした。俺だって、キリヤとの戦いは楽しみだ。だからこそ、俺もキリヤとの戦いのときまでは脱落してはいけない。たとえ、どんなことがあろうとも。


「キリヤ、俺……」

「見つけたよ、カズマくん」


と、カズマがキリヤに話しかけようとしたその時、不意に声を掛けられた。口調と声でカズマは直感的に相手を理解した。「はぁ…」とため息を吐くと、その声の方を振り向く。そこには、バーストブレイカー開始前にカズマと軽く話をしていたアイリの姿があった。


「……なんだよ、アイリ。まだしぶとく生き残ってたのかよ」


俺はガッカリしたかのようにアイリに話しかけた。実際はアイリがまだ残っていて内心安心したが、そんな態度を見せるとアイリがまたつけあがるので、本心を隠す様にガッカリとした態度で話しかけたのだ。


「……なによ。私が残っていたらなにか都合が悪い事でもあるわけ?」


俺の態度に対し、アイリは珍しく怒っていた。腰に手を当てながら、額に怒りマークでも作っているかのような剣幕で返してきた。


「いいや。強敵が一人減ってくれたら、こっちからしてみれば、後先楽になるなと思って」

「……それはこっちも同じ気持ちなんだけど」


アイリは意外にも本当に怒っているようだった。俺は軽い悪ふざけで言ったつもりなのに、アイリがここまで怒るとは想定していなかった。俺はそろそろ本音を言わないと確実にここでアイリと戦う事になると思い、本音を言う事にした。


「……とでも言うと思ったかよ、アイリ。ホントはお前がまだ残ってて安心してるぜ」

「……嘘だッ!」


アイリが鋭い目つきでそう返してきた。完全に俺の事を疑っているようだった。……これじゃ、俺が何を言っても許してはくれない様子だった。


「そんな嘘じゃないぜ。カズマは結構アイリのこと、心配してたぜ。さっきも、アイリが脱落してないといいけど…なぁんてぼそっと呟いていたぜ」


と、そこへキリヤのサポート。怒っているアイリをどうにかなだめさせたい俺の心象を読んだ上での助け舟だった。しかし、キリヤの発言は、俺からしてはとても恥ずかしかった。俺はキリヤに心の中で礼を言うと、そのまま照れくさそうに続けた。


「……ま、まぁ、アイリがそんな簡単にやられることはないと思っていたけど……一応な?」


そう頬を掻きながら、アイリから視線を逸らす。キリヤの助け舟はありがたかったが、やっぱり恥ずかしかった。アイリの顔すら見ることが出来ないほどだ。……もし、俺が異性と付き合う事になると、俺はずっとこんな感じになっているだろうな。

そしてとうの本人であるアイリは、と言うと………


「……………ッ」


完全に顔を真っ赤にして、言葉を失っていた。


「……まぁ、これで誤解は解けた事だし、これからどうする?」


キリヤが手をぱんぱんと叩き、俺たち二人に尋ねてくる。俺ははっ、と我に返ると考える。

……キリヤの言いたい事は、アイリと協力するのかしないのか、と言う事だ。確かに、アイリと協力すれば、もっと生存率はあがるし、なにより戦力にもなる。しかしそれにはデメリットもある。それがアイリとの最終決戦だ。

俺はキリヤから最終決戦を申し込まれているが、このまま行くとアイリとも最終決戦を行う羽目となる。流石に1VS1VS1は辛いので、どうにか1VS1に絞りたかった。このまま放っておけば、アイリは他のプレイヤーにやられるかもしれないのだ。


「う~ん……」


俺は顎に手を当てながら考えた。と、そこへアイリがひょこ、と俺の顔を覗きこんできたのだ。


「うわぁ…!」

「うわぁ…! じゃないよ。どうしてそこまで考え込むの? 一緒に他のプレイヤーを倒そうよ!」


アイリは自身の剣を構えながら、空気をぶんっ、ぶんっと切り裂いた。

アイリの言う通り、俺もアイリと協力して戦いたい。けれど、どうしても最後だけはキリヤと戦いたいという欲求がカズマの中にはあった。それをアイリに説明したら、なんと言われるか分からない。だからこそ、悩む必要があった。


「……カズマくん、キリヤさんとなにか約束してる?」

「…え?」


アイリは俺の瞳を見つめながら、そう尋ねて来た。そのアイリの蒼眼がまるで俺の考えを見透かしているようで、なんだか怖かった。


「……別に、私はカズマくんと1VS1で戦えればそれでいいよ? 最終決戦とか気にしないよ?」


アイリはまるで俺の悩んでいる事を見透かしたかのように、そう言ってきたのだ。俺は唖然とした表情でアイリを見ていた。

まさか、アイリが俺とキリヤの最終決戦を認めてくれたのに驚いた。アイリは普通、一度決めた戦いは、どんなことがあっても変更する事はない。しかし、それをアイリは自分の意志で変更してきたのだ。


「……本当にいいのか?」

「うん。だって、キリヤさんと話している時が一番楽しそうだもん。だったら私は、二人の関係を壊したりはしない。それが二人での一騎打ちとあらば、尚更だよ」


アイリはへらへらとしながら、俺の前を歩いていた。そのアイリの背中は俺に、キリヤとの一騎打ちに必ず勝てと言っているようだった。そこで俺は初めて気付く。これはアイリにとって、俺への気遣いなのだと。本当はアイリは俺と最後に一騎打ちをしたかった。けれど、キリヤの登場により、それは叶わない願いとなったのだ。だからアイリはあえて、キリヤとの一騎打ちを優先するように言ってくれたのだと、俺はアイリの本心を読みとった。


「……ありがとう、アイリ」


だから俺は、短くアイリに礼を言うのだった。


「……でっ、でも! 下手な戦いしたらダメだからね! それだけは約束してよね!」


アイリはなんだか照れくさそうに、自身の髪の毛を指で弄りながらそう返してきた。その光景を見ながら、俺は微笑んで「勿論さ」と約束するのだった。

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