表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブワールド  作者: とらまる
第一部 バーストブレイカー
8/19

part7 初戦


「……なぁ、キリヤ」

「なんだ?」

「……こんなにも、敵とエンカウントしない事ってあるのかよ」


そう。俺とキリヤはともに行動をしていたが、なかなか…と言うより、まったく敵とエンカウント、出会う事はなかった。まさに、俺たちだけ別次元に入れられたかのような感触だった。


「……俺も思った。こんなにもエンカウントしないゲーム大会があっただろうかって…。だけど、ここまでエンカウントしないゲームなんて、このゲーム以外どこにもなかったぜ。一体どれだけマップを広く作ってんだよ……」


キリヤは頭を掻きながら、しぶしぶ足を進めていた。かれこれバーストブレイカーが始まって、小一時間は経ったハズだ。それなのに、キリヤ以外のプレイヤーを見ていないのだ。

どうしてだろう…と、カズマとキリヤは不思議に思った。ただ単に、制作側がマップを大きく作り過ぎたのか。はたまた、俺たちだけ別の仮想世界に飛ばされたのか。真偽は未だ不明だ。


「……しかし、こんなに広いマップは初めてだぜ。12人って言う少人数なのに、こんなに広いマップじゃ他のプレイヤーと出会う確率は下がるハズだ」


キリヤは辺りを見回しながらそう呟いた。確かに、ここの広さはまるでダンジョンのどこかの階層を貸し切った様な広さだ。これでは人に逢うことすら、珍しいものだ。


「そうだな。もう少し歩いてみよう」


キリヤは、こくり、と頷く。俺たちはまるで砂漠を彷徨う旅人のような思いで、このフィールド内を歩く。俺の手には剣、キリヤの方にはショットガンがそれぞれ装備されている。人に逢わなくとも奇襲に逢う可能性は0ではない。なので、俺たちは最低限の装備だけは準備する事にしている。

歩いていると、小さなモンスターと出会う。はじまりの街で俺の銃撃戦の相手になった【ピギー】だった。


「おお、キリヤ。ピギーがいるぜ」

「ピギー?」


キリヤは首をかしげた。俺はそれを横目にピギーと戯れる。首元を撫でると、ピギーは可愛く「ぷー」と鳴いた。よほど、首元が気持ち良かったのだろう。俺に警戒心を持たずに接してくれるということは、このピギーは完全に人に慣れている事が分かった。

大抵のモンスターは、プレイヤーの姿を見ると、逃げるか襲って来るかどちらかだ。しかし、時に例外があり、人になついたりするモンスターもいる。このピギーはどうやら後者のようだ。

ピギーの首元を撫でながら、頭を撫でる。ピギーは俺の足にすり寄っていき、その愛くるしい身体をゆさゆさと揺らしながら鳴くのだった。……こんなに可愛いピギーならば、ゲーム内で飼ってもいいかなと思う。

プレイヤーはモンスターを飼う事だって出来るのだ。ダンジョンで人になついたモンスターに餌付けをしたり、こうやって接してやると、ペットとして飼う事が出来る。正直、俺はゲーム内のペットなんて可愛がることはないと思っていたが、このピギーだけはなんだか愛くるしく、俺の心を大きく揺さぶられるのだった。


「なぁ、キリヤ。このピギー、ペットとして飼わないか?」

「……待て、カズマ」


ピギーを愛でている俺を横目に、キリヤは手を顎の下につけ、なにかを考える様な仕草を見せた。……どうしたのだろうか?


「……なぁ。このバーストブレイカーって、参加者は12人だよな?」

「え…、あぁ。そうだね」


キリヤがいきなり変な事を言い始めた。いきなり問われたので、少々驚いてしまった。


「参加フィールドは不明。しかし邪魔ものは誰もいない」

「そうだね。運営のメッセージにも、そう書いてあったし」

「じゃあさ……」


キリヤが声のトーンを低くしながら言った。



「……このピギー、どこのペットだろう?」



「……え?」


俺は目を丸くした。キリヤがなにを言っているのかさっぱり分からなかったからだ。このピギーが、誰かに飼われている? そんなのあり得ない。


「そんなわけないだろ。だいたい、このバーストブレイカーにはペットの持ち込みは禁止だろ。それにここはダンジョンなんだぜ? モンスターの一体くらいいてもおかしくないだろ」

「それがおかしいから、疑問に抱いているんだよ。バーストブレイカーのメール、ちゃんと見てないだろ」

「ちゃんと見たぜ。確か、参加者の12人以外は、このバーストブレイカーに参戦してはいけないだろ?」


確かに、俺はバーストブレイカーのメールは見た。ルールも、他のVRMMOのイベントのルールとほとんど同じだった。


「それじゃなくて、注意事項だよ! そこにモンスターの出現はしないって書いてあっただろ!」


キリヤに言われて思いだしてみる……。あ、確かにそんなことも書いてあった気がする。カズマはそれを悟り、ピギーから離れた。


「……まさか、こいつは他のプレイヤーのペット……?」

「そうだろうな。きっと他の敵を偵察するための家畜だろう」


キリヤはそのままピギーに黒い剣を向ける。その行動だけで、カズマは理解した。今からキリヤは、この偵察用のピギーを殺すのだと。カズマは剣を向けるキリヤを横目に見た。完全に敵を見つめる目だった。


「……すまない。けど、さよならだ」


キリヤはそう小さく呟くと、その黒い剣を振り下ろした。


「……へぇ、そんなことするんだ。可哀そうに」


と、唐突に声を掛けられた。カズマは驚き振り返ると、そこには男が岩の上に座っていた。革ジャンに身を包んだ、キリヤとあまり変わらないくらいの年齢の男だ。そして彼の手に握られている得物、それはまさしく剣だ。

キリヤは剣を振り下ろすのを途中でやめ、その男に背中越しで話しかけた。


「……こいつはお前の差し金か」

「いいや。オレにそんなスキルはない。それに、わざわざ雑魚を偵察に行かせるほど臆病ではないんでね」


よっ、と男は岩から降りる。


「……それで、お前たちはそいつを殺すってワケ?」


と、男は俺たちに問いかけた。カズマは咄嗟に剣を鞘から引き抜き、構えていた。


「おやおや…。別にキミたちと戦うつもりなんかないさ。……今はね」


カズマの行動を見て、男は剣を鞘に仕舞い、両手を上に上げた。カズマは戦う意志を捨て、しぶしぶ剣を鞘に仕舞った。


「もう一度問うけど、キミたちはこのモンスターを殺す……んだよね?」

「……あぁ」


男の問いに、キリヤは小さく返事した。キリヤは続けざまにこう告げた。


「……こいつをやったのはお前かもしれないが、こういう偵察用のモンスターは倒しておく方がフェアだと思うからな。そうすりゃ、お前にもいいだろう」


キリヤは剣を降ろしながら、男の方を向いて話した。キリヤがあえて剣を鞘に仕舞わないのはきっと、まだこの男を信用していないからだろう。こいつがこのピギーを扱っていない保証もない為、キリヤはこの剣を仕舞う事が出来なかった。


「……ふっ。殺すなら、殺せばいい。それにこんな小細工はオレには出来ないからな」


と、男は俺たちにくるりと背を向け、何処かへ去っていく。


「あー、そういえば」


ふと、男は足を止めた。


「……キミ、キリヤ……だよね? あの都市伝説で有名な、ネットで騒がれている凄腕のゲーマーの……」


と、男は顔だけをこちらに向けながらそう尋ねて来た。


「……一体、それが誰なのかは俺も知らないが……。確かに、今回のブレイブワールド参加者の中じゃ、キリヤってユーザー名のヤツは俺しかいないからな。確かに、お前の言う通り、俺がキリヤだ」


キリヤは包み隠さずに、そう真実だけを告げた。すると、男は身体もこちらへ向けた。


「……それじゃ、オレが探していたキリヤって……アンタのことかもな。……ちょうどいい。この際だから、偽物だろうとも始末しておいてもいいかもな」


男は剣を鞘から引き抜く。それは勝負の合図。この男とキリヤが、この場所で戦うという合図なのだ。キリヤは「はぁ…」と、深いため息を吐き、黒い剣を右手に握りしめ、構えた。


「……めんどくせぇけど、お前みたいな邪魔者はとっとと消しておきたいからな。いいぜ、かかってきやがれ」


キリヤは剣越しに男を見つめながら挑発した。先にキリヤから出ないのはきっと、相手の出方を伺う為だろう。相手がどんな攻撃をしてくるかで、どんな戦闘スタイルかが大抵分かるのだ。だからこそ、何も分からない相手にかかって来いと言うのは、相手の出方を知る為の小手調べでもあるのだ。

男はキリヤの挑発に乗る様に剣を斜めに振り下ろした。キリヤはそれを予測していたかのように剣で受け止め、弾き返す。男は「ちっ…」と舌打ちをしながら、後退する。


「……へっ。流石は都市伝説のキリヤだぜ。……こんなにも楽しいゲームをしたのは初めてだ」


男はそう言いながら、額の汗を拭う仕草を見せる。しかし、この世界はあくまでゲームの世界。目の前の男には汗なんて流れているわけなかった。


「……御託なんか並べてないで、早くかかってこい」


キリヤは黒い剣を構えながら、そう挑発する。まだキリヤのHPは満タンなのに、キリヤは真剣な表情を崩さない。まるで、こいつが強敵であるかのような面構えだった。

カズマは思う。こいつはそれだけ強敵なのだと。あのキリヤでさえ、真剣なまなざしで剣を構えているのだと。いつもはあんなに軽いキリヤが、これまで真剣な眼差しで戦ったことがあるだろうか?


「は―――――――!」


男は剣を振るった。それをいなすようにキリヤはかわす。その隙を狙った、キリヤのスキル【ダッシュスパイク】。一瞬の隙を狙った高速攻撃だった。

ざしゅ。

キリヤの剣によって、男の胸元に斜め一線の傷を刻み込んだ。それと同時に、男のHPが黄色に変化する。快進撃だ。

キリヤは敵のHPが減ったことを確認すると、そのまま飛んで後退する。唐突のスキル使用で少し息が上がっていたが、それでも尚、キリヤのHPは変わらず満タン。これは勝負あったな。


「やったな、キリヤ!」


俺は思わず声をかけた。しかし、キリヤは未だに真剣な眼差しを変えようとはしない。


「……いいや、まだだ……」


キリヤは剣越しに相手の様子をうかがう。……HPを半分近くまで削ったのに、どすてそこまで真剣にやるのだろうか?


「――――――ふふふ」


男は剣に縋りつくように立つ。胸元の傷は癒えることはなく、赤いラインが一直線上に刻み込まれていた。男はよろよろと立ち上がると、キリヤのほうをまっすぐ見つめた。


「……流石は都市伝説。実力はオレの予想を遥かに上回るな」

「…………」


キリヤは応えない。ただ、その黒い剣を構えたまま、じっと男を見つめるだけだった。男はその光景を見つめながら、ふふ…と笑みを零す。その笑みは、まるで自信に満ち溢れるかのような笑みだった。

カズマにはわからなかった。キリヤはHPを黄色まで削りとったのに、未だ相手を警戒しているし、相手の男だって、HPを半分近くまで削られたのに、未だ余裕の表情を見せている。……この差は一体何なのだろうか? カズマにはまったく理解できなかった。


「……へへっ。やっぱり、お前だけはオレのことを知っているんだな、キリヤ」


男は不快な笑みをキリヤに見せた。キリヤはそれを見ながら、歯をぐっと噛みしめる。


「……あぁ。お前のことなんざ、すでにブレイブワールド開催前から知っていたぜ。しかし、ここで戦えるとは思ってなかったぜ、剣士X」

「剣士X!?」


カズマはその名前を訊いた途端、驚きを隠せなかった。剣士Xとは、ブレイブワールド内でも有名なプレイヤーの一人で、その剣使いは誰もが憧れ、戦いを挑んでは返り討ちを受けたと恐れられているのだ。そんなプレイヤーと、キリヤは今一対一で戦っているのだ。

しかし、カズマも剣士Xを生で見るのは初めてだった。情報はいろいろと訊いてはいたが、まさかこんなところで逢えるとは思ってなかった。


「……まさか、この人が剣士Xだったなんて……」


カズマは心の中で思った事を思わず口に出していた。その言葉は剣士Xに丸聞こえだったようだ。構えていた剣を地面に突き刺すと、誇らしげに胸を張った。


「ふはははは! そこの少年よ、このオレこそが剣士Xなのだ。どうだ? かっこいいだろう? 見よ、このオレのボディ! 戦闘スタイル! 必ず、目の前のブレイブワールド最強と噂されているキリヤを倒してみせようぞ!」


はっはっは、と高笑いする剣士Xを横目に、キリヤは「はぁ…」とため息を吐いた。


「……意外だな。剣士Xがこんなにもナルシストだったとは思ってなかったぜ」


キリヤは剣を構えて、そのまま振り下ろす。


「……戦い中は剣を握ったままにしておけと、言われなかったのか? 油断すると、やられるのはお前なんだぜ?」


――――ざしゅ。

剣士Xの胸から腰にかけて、キリヤの黒い剣が斜め一直線のラインを入れる。それはさっき、キリヤがつけた傷に交わる様に。まるで剣士XのボディにXの字を書くかのように刻まれるのだった。

それと同時に削られていく剣士XのHP。キリヤの斬撃二回だけで、もうHPが0になった。


「……あ、」


剣士XはHPが0になり、思わず感嘆の声をあげた。剣士Xの身体が一瞬にして、ガラスの破片に変化し、砕け散り、上空へ飛んでいく。

それをキリヤと俺は見つめながら、


「……意外と弱かったな」

「……そうだね」


と、残念そうに呟くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ