part4 翌日
※Warning※
いつもより短いです!
――――どん! どどん!
明け方、大砲でもぶっ放したような大きな音に驚き、カズマは目を覚ました。その威勢の良い音が、ゲーム内での効果音によるものだと気づくまでに、少し時間がかかった。
ここは、ダンジョン22階層のカズマの家。つい先日、ダンジョンで経験値を稼いだカズマは、モンスター討伐の際に経験値の他に貰えるお金があまりにも貯まっていたので、どう使うかに困っていたのだ。
そこでカズマは、モンスターの少ない22階層の小さな村に家を購入する事にしたのだ。22階層は、ブレイブワールドの世界で最も人口が少ないフロアだ。低層であるが故に敷地は広いが、その大部分は森林と湖で構成されており、主街区もごく小さな村と言っても良い規模だ。フィールドにモンスターは出現せず、迷宮区の難易度も低かったので、わずか一日で攻略させてしまい、プレイヤーの記憶にはほとんど残らない階層となっていた。
そこをカズマは目をつけ、「こんなのんびりとした田舎に住めたらなぁ…」と夢見ていた願いを叶えるために購入したのだ。
「うーっ……寒っ」
ベッドから出るなり、カズマは身を震わせた。ブレイブワールドに季節はないとはいえ、朝方は若干肌寒い。もう一度ベッドにもぐりたいという衝動を抑えながら、カーテンを開け放つ。
昨日、俺はゲーム内で一晩を過ごし、そのままゲーム内の家で睡眠をとった。なので、今現在もゲーム内だ。カズマは窓の景色を見ながら、う~んと背伸びをした。
とうとう今日となった『バーストブレイカー』。俺は外の景色を見ながら、改めて『バーストブレイカー』が開催されるのだなと、心の中でしみじみ思うのだった。
「……とうとうこの日がやってきたんだな」
しみじみ思いながら、カズマは大会の準備に取り掛かった。アイテムは十二分に準備されているし、装備の剣も服も万全だった。これ以上のベストパフォーマンスはない。
「会場は確か、広場のとこだったよな」
俺は運営からのメールを見ながら集合場所を確認していた。西の城壁に囲まれた街の中心の広場が集合場所だ。ダンジョン22階層の俺の家からだと、30分くらいはかかる。家の近くにワープポイントを設置していれば、1分もかからないうちに広場まで行けるのだ。
しかし、ワープポイントを作るにはそれ相当の金額と努力が必要なのだ。確か、ワープポイントは5千チリ必要だった。そして今現在カズマの所持金は23チリ。かなり遠い道のりだった。
「……仕方ない。歩いて行くしかないよな」
と、しぶしぶ思いながら寝間着からいつもの装備服に着替え、背中に【カリバー】を背負い、その他のアイテムをアイテムストレージに収納し、俺は家を出る。
「……行ってきます」
誰もいない自分の家だが、なんだか少し家を空けると考えるとなんだか言わずにはいられなかった。俺は自分がいなくなる喪失感を味わいながら鍵をかけた。仮想世界の家とはいえ、現実世界の家と同じように愛着が湧くものだ。お金を溜めて手に入れた、俺の一番落ち着く場所。だからこそ、俺はこの家に行ってきますと告げたのだ。
「……行こう」
俺は自宅に背を向け、22階層を歩き始めた。ダンジョン22階層は景色も良く、あまりモンスターの出現率が低いのが有名だ。だからこそ、俺はここに自分の家を手に入れようと考えていたのだ。そして、その念願の夢をこの前叶えたってわけだ。
しかし、俺はこれからバーストブレイカーに出る。ログアウトも、途中退場も許されないその大会だからこそ、俺はこの大会が終わるまでこの家にも、現実世界の家にも戻ってくる事がないのだ。だからしばしの別れ。
「……必ず勝って、あの家にトロフィーを置くんだ」
そう俺は心の奥で決意し、22階層を進みながらはじまりの街へ向かうのだった。