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ブレイブワールド  作者: とらまる
第一部 バーストブレイカー
2/19

part1 二人の出会い


「……ふっ、はっ!」

奇妙な声とともに、銃口から紫煙が立ちこめる。しかし、銃口から吹っ飛んだ弾丸は狙った方向に行かず、明後日の方向へと飛んで行った。

「あちゃー……。やっぱり、俺は剣のほうが向いているのかなぁ……」

そう呟きながら、頭を掻いた。流石にVRMMO初心者とはいえ、手軽に銃くらいは使えるだろうと思っていたが……ここまで難しいとは思ってなかった。

隣でくすくすと笑いながら、俺の銃の扱いを見ていたヤツが一人。

「……あのなぁ、キリヤ。俺はこのゲームから戻ってきてまだ3日なんだぜ? そう簡単に銃を使えるわけないだろって…」

「ははは…、まぁそうだよな。そんなに何日もログインしてなけりゃ、そりゃ下手になっているのは当たり前だな」

そう、隣のヤツ、キリヤは告げた。

紅い髪の毛のこの剣使いの少年とは、ついさっき知り合ったばかりだ。仮に本名を名乗ったとしても呼び捨てに出来ないけど、彼の名前はキリヤ、そして俺の名前、カズマはこのゲームに参加するにあたって命名したユーザーネームなので、律儀に「さん」や「くん」をつけても逆におかしくなるものだ。

「ちゅうか、あいつ動くから照準が合わねぇんだよな……」

「そりゃ、動くだろ。練習用のカカシじゃないんだ。モンスターだって生きてるんだからさ」

「んなこと言われてもなぁ……。ちょっと休憩するか……」

と、のんきに俺は草むらの上に寝そべった。

「おい、カズマ。まだ訓練中だぞ。このモンスター、どうするんだよ」

キリヤが腰に手を当てながら、こちらを見下ろしていた。……正直、訓練なんていつでも出来るのでもうどうでも良かった。

「キリヤ、処理しといてくれー」

「お前が呼んだモンスターだろ。お前が責任もって処理しろよ」

反論を正論で返された。俺は仕方なく立ち上がり、背中に収納していた剣を鞘から引き抜く。

「はいはい。んじゃま、訓練に付き合ってくれてありがとな――ッ!」

剣をぶん、と振り下ろすと、訓練に付き合ってくれてたモンスター【ピギー】は、ガラスのように砕け散り、朱色の破片となって消えていくのだった。

「……剣使えるんだったら、わざわざ銃の扱い方の訓練なんてしなくても良かったんじゃ…」

キリヤの発言に、俺はちっち、と指を振った。

「確かに、剣を使えるんだったら俺はわざわざ銃を使わなくてもいいだろって思うだろ?でも、今の俺はそれじゃいけねぇんだよ」

と、俺は空間をなぞる様に指を動かした。ゲーム内で『メインメニュー』を開く時のアクションだ。たちまちポップな効果音とともに長方形の画面が登場し、数個のボタンが登場する。

俺はその中から『オプション』を選択し、メール欄を開く。ここには、いろんなユーザーから直接メッセージが来たり、運営からお知らせなどが来たりするのだ。

俺のメール欄は通知でいっぱいだったが、キリヤに見せたいものだけを見つけてタップする。

「これこれ。これが来たからにゃ、銃の使い方もマスターしねぇとな」

と、画面をキリヤに見せる。

「何々…。『ご当選おめでとうございます。貴方はブレイブワールド主催のバトルロワイアルイベント【バーストブレイカー】の参加権を取得しました』?」

そう。このブレイブワールドは、VRMMOとしてはまだまだ知名度は低い方。そこで、運営があるクエストを主催し、知名度をあげようと試みているのだ。

それがこの『バーストブレイカー』なのだ。当選者12人によるバトルロワイアル。クリアするまでログアウト出来ない、まさに勝つか負けるかのゲームなのだ。

「へぇ~…。お前も当選してたのか」

「まぁな。俺がその選ばれた12人とは思ってなかったぜぇ~~。へっへっへ」

ニヤニヤと笑みを浮かべながらキリヤに自慢する。このクエストには、ブレイブワールドのユーザー10万人が参加希望を出していたのだ。その中の12人の中の俺は、まさに選ばれた者。どんなユーザーからも羨ましがられるだろう。

「……でも、勝てなきゃ意味無いからな? 下手して、最初の脱落者にでもなったら恥さらし者だからな?」

「だからだよぉ。それだから俺は今、銃の使い方をレクチャーしてるんだろ…」

バーストブレイカーでは、味方などいない完全なるバトルロワイアル。そのため、まだこのゲームに復帰して3日の俺では優勝することはおろか、どんなプレイヤーに勝つことも出来ないだろう。

そのために、今ここで銃の使い方を学んで訓練しているのだ。……でも、案外銃の扱い方が難しくて辞めようかと考えていた。

「……お前、ホントはやる気ないだけだろ」

「ぎく……」

キリヤは呆れた顔をして「はぁ……」とため息を吐いた。そりゃ、バーストブレイカー開催は明後日なのだ。そんな早くに新しい武器を使えるかと訊かれたら、NOと答える事しか出来ないだろう。

だから、もう自身が一番使ってきたこの剣、【カリバー】で戦うしかないだろう。

「……お前なぁ、軽い気持ちで応募するからいけないんだろうが」

「軽い気持ちじゃないぜ。俺は本気でこの戦いに勝つつもりで参加したんだ。けれど……、参加者があまりにも強すぎるだけだから……」

俺は運営からのメールを見た。そこには数々の名の知れたプレイヤーの名前が乗っていた。勿論、全員ネットで有名なユーザーたちだ。その中に、無名の俺の名前『カズマ』がぽつり。

最後までメールを読む気力もなく、俺は途中でそのメールを読むのを諦めたほどだ。

「……それが軽い気持ちなんだろうが」

「でもよ、キリヤはちゃんとそういう強いヤツらが来るって予測して参加応募したんだよな」

さっきキリヤは「お前も当選していた」と言ったし、ブレイブワールドのユーザー全員が応募していた。キリヤも一応参加者でもあるのだ。だから、今ここでいろいろ話をしているけど、当日は確実に敵同士になるのだ。

「当たり前だ。だから、当選発表があるまでずっとダンジョンに潜りっぱなしだった」

キリヤはさも当然の様に言った。その言葉から察するに、キリヤはかなりのブレイブワールド中毒者なのだ。だからこそ、腕に自信があり、バーストブレイカーに参加応募したのだろう。そして、念願の当選となったわけだ、きっと。

「流石だな……。だったら、レベルもかなり高いだろう?」

ダンジョンに潜りっぱなしだったのなら、きっとレベルは高いハズだ。ちなみに俺のレベルは73。これは平均プレイヤーより少し高めのレベルだとネットでは言われている。ここまでレベルをあげるのには一週間近くかかるらしいが、俺は過去にもこういうMMOはプレイ済みだったので容易にレベルを上げる事が出来たのだ。

「俺…? 俺のレベルは193だけど?」

そう言って、キリヤは自身のステータスを見せてくる。そこには確かにレベル193と表示されていた。

「193!? 中毒者超えてるじゃないか!!」

俺は驚きを隠せなかった。確か、ネットの実況者でも最高レベルは150が限度だった。しかし、それを上回る様にキリヤのレベルは193だったのだ。これは俺の予測だが、きっとブレイブワールドの中で一番レベルが高いのはキリヤに違いないだろう。

「そんなに驚く事はないだろ。これくらいが普通だ」

「普通じゃないぜ……。ネットでも150代しか見た事ないんだからよ……」

「レベル150代なんて、まだまだヒヨっ子だ。200代超えてからが、本当のゲームの楽しさがようやく分かってくる頃だ」

さも当然のように語るキリヤ。その言葉に俺は、ただ驚くしかなかった。……ここまで重症の中毒者を見た事がなかったからだ。

俺は話を変えようと、「こほん」と咳払いをした。

「それじゃ、レベル193のキリヤさん。もう少しだけ、俺の訓練に付き合ってくれよ」

「勿論だ、と言いたいが……そろそろログアウトして飯食わないとな……」

「げっ、もうそんな時間かよ」

キリヤに言われ、俺はメインメニューを開く。時計はすでに7時前を指していた。そろそろ俺もログアウトしないと、親に何と言われるか……。

「それじゃ、また明日ここで落ち合わないか? バーストブレイカー開催は明後日なんだし、最後の仕上げと行こうじゃねぇか」

キリヤに言われ、俺は考える。明日はどこか外へ行こうと考えていたが、銃の使い方もまだまだだった。それに、別に外へ行かなくてもいい用事だし…。

「そうだな。じゃ、また明日ここで会おうぜ」

「おう。じゃ、先に落ちるぜ」

そう言って、キリヤはメインメニューからログアウトボタンを押し、ログアウトした。キリヤの姿は一瞬にてガラスの破片のようなモノに変換され、空の彼方へ飛んでいくのだった。

それを俺は見送りながら、ぐるりと周りの景色を見た。12月とはいえ、まだ陽は明るい。ブレイブワールドに季節などはないからだ。

北の方角には、薄暗い森。西の方角には、白い城壁に包まれた街。東の方角には、広大な海。そして、西の方角にはオレンジ色に輝く優しげな夕日。それがこの世界、『ブレイブワールド』の世界だ。

広大な大地が広がる『ブレイブワールド』の、ごく初歩的なダンジョン『はじまりの広場』に俺は立っていた。周囲には俺の他にここで訓練をしているユーザーもいるハズなのだが、広すぎて誰もいないように見えた。

俺は近くにあった岩に座り込むと、空を見上げた。すでに暗くなってきており、ここにも少し強めのモンスターが現れるハズだ。

「……本当に、これがゲームの世界なんだな……」

ふと呟く。別に魂がゲーム世界に入っている訳ではない。俺の視覚や聴覚が、AIレンズとヘッドホンが見せたり聞かせたりしている情報を伝えているだけなのだ。ここまでリアルなゲームは、俺も生まれて初めてなのだ。

『AIレンズ』

それが、この、VRMMORPG(仮想大規模オンラインロールプレイングゲーム)――――『ブレイブワールド』をプレイするにあたって必要なモノの一つだ。

その構造は至って簡単なモノだ。前世紀の据え置き型マシンとはまったくの別物だ。

平面のモニターと、手に馴染むように作られたコントローラーを必要とした旧ハードに対して、AIレンズは複雑な構造ではない、至って普通のコンタクトレンズなのだ。

そのコンタクトレンズには無数の電子信号を送る回路が小さく巡らされており、それを変換させてユーザーの脳そのものと接続する。ユーザーは己の視覚だけでなく、脳の触覚や味覚、嗅覚を加えた部分すべてにAIレンズはアクセスできる。

しかし、AIレンズにも盲点はあった。それは聴覚だった。AIレンズが接続できるのは脳のみ。聴覚は己の耳で聞いたモノしか受け付けない。そのため、AIレンズとは別にイヤホンやヘッドホンが必要なのだ。しかし、それを見据えていたかのように、ブレイブワールドは専用のヘッドセットを用意していたのだ。

そのおかげもあり、AIレンズは爆発的にヒットしたのだ。AIレンズはゲームだけではなく、日常生活にもかなりの重要性が生まれたのだ。テレビやモニターなどの代わりとなり、学校や会社にもAIレンズはすぐに取り入れられ、今では全人類のほとんどがAIレンズを使用しながら生きている。

そして、ブレイブワールドが誕生し、人類はとうとう『仮想世界』へ精神を送る事が出来るようになったのだ。開発したゲームメーカーはそのことをこのように表現した。

完全憑依(フルワープ)】と。

まさしく完全な、現実世界との隔離だった。

何故なら、ユーザーは、仮想の五感情報を与えられるだけでなく、脳から自分の身体に送られる命令さえも遮断できるのだから。

それは、仮想空間で動く為に必要な事なのだ。もし現実の身体への命令が生きていれば、仮想世界にいるユーザーに『走る』という意志を発生させた時、生身の身体もそれと同時に走り出すからだ。

AIレンズが肉体への命令を殺してくれるからこそ、俺はこの仮想世界を自由に動く事も出来るし、剣や銃を使う事が出来るのだ。

「……やっぱり、ブレイブワールドの世界は綺麗だな」

と、見惚れていけはいけない。俺もメインメニューを開き、ログアウトすることにした。

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