part18 その後……
音が、聞こえる……。
ピ、ピ、ピ……と定期的に鳴っている電子的な音。
それと、鼻にツンとくる消毒液の匂い。
ゆっくり目を覚ますと、まず視界に入ってきたのは天井。蛍光灯はついていないが、辺りは明るかった。
首を横に傾ける。隣には電子パネルのようなものが置いてあり、電子音を定期的に鳴らしていた。
……しかし、そんなものはブレイブワールドには存在しない。どんな職人でも、機械は絶対に作れはしない。つまり、ここは……
ここは、現実世界。
俺は慌てて跳ね起きようと――――したが身体が言う事を訊かなかった。バタン、と身体が横たわる。全身に力が入らない。右腕がすーっ、と上がっていくが、すぐにバタン、と力をなくして落下する。
「―――――、か」
喉が掠れて声が出ない。声を出す事はまだ不可能の様だ。俺はなんとか首を動かし、辺りを見回す。近くには電子パネルとテレビつきの机、それに俺の左腕からなにやら細長いチューブが刺さっていた。点滴だ。
「びょ……、い……ん……?」
掠れた声を出す。点滴やその設備から、ここは病院であることが分かる。
そうだ――――。俺は、あのバーストブレイカーをクリアし、その報酬として、現実世界に帰還する事が出来たのだ。
「――――――、あ」
そこで俺は、ふと思い出す。あの可憐な少女の名を。
「あ――――、い――――り――――――」
アイリ。俺の最愛の仲間であり、ともに戦い、ともに笑いあった、とても大切な――――存在。
それとキリヤ。アイリを同じ、俺とともに戦った―――――あの、誇り高き騎士。
夢……だったのか? いや、違う。あれは幻とか、夢ではない。
カイトはあの時――――優勝おめでとう、カズマ君、と言ってきた。そして、キリヤは『俺たちが勝てば、バーストブレイカーに参加したプレイヤー全員を無事に解放して貰おうか』と言った。その俺たち、に俺は確実に入っているのだ。だったら、キリヤもアイリも、現実世界に還ってきているハズだ。
そう思った途端、いてもたってもいられなくなり、ベッドから起き上がる。が、やはり力が全身に入らない。
「―――――、く」
点滴の支柱を杖代わりにし、歩き出す。少し歩いただけで、もう息があがっていたが、こんな所でじっとしていられなかった。
早く、早く……と急かす声がする。俺自身が彼女たちを待ち望んでいる。あの二人を―――――もう一度、この目で見るまでは戦いは終わらない。
そのよろよろで今にも崩れそうな身体を点滴の支柱に身を任せながら、俺はそのか細く折れそうな足で最初の一歩を踏み出すのだった。