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ブレイブワールド  作者: とらまる
第一部 バーストブレイカー
18/19

part17 終焉


星が瞬く綺麗な夜空だった。

目を覚ますと、俺は不思議な場所にいた。

足元はガラス張りで、いつか壊れてしまうのではないか、と思ってしまうほどだった。その下には、黒い雲の連なりがゆったりと流れている。

……ここはどこなんだろう? 俺はさっきまでバーストブレイカーという大会で、激戦を繰り広げ、勝利したハズだ。ここが仮想世界なのか、あるいはまったく違う場所なのか、カズマは分からなかった。

自分の身体に目を通してみる。紅いコートに黒い短パン、そしてひざ下まであるブーツに、腰から垂れ下がっている紅いマントのようなもの。完全に、さっきまでカイトと戦っていた時の装備だ。

軽く指を振ってみると、やはりメニューウィンドウが開いた。やはり、まだここはブレイブワールドのなかなのだ。

だが、メニューウィンドウにはいつものアイテム欄などのメニューボタンが存在しておらず、代わりにモニターに【ゲームは終了しました。】と無機質な文字が浮かんでいた。

肩をすくめて、そのウィンドウを閉じた。それと同時に、背後から声をかけられる。


「カズマくん……」


訊き慣れたソプラノの声。その声が、俺の全身を貫く。

その声が幻じゃありませんように――――――。そう祈りながら、俺は振り返った。

真っ暗な世界を星が明るく照らすそこに、彼女と彼が立っていた。

二つに分けたその髪が風に揺れる。それで俺は、これが現実である事を理解した。


「アイリ……、キリヤ……」


俺の声はすでに掠れていた。二人の顔なんて、もう見れないんだとばかり思い込んでいたのに……もう一度、二人の顔を見れたのだ。


「カズマ……、よく……やってくれた」


キリヤは俺ににっこり、と微笑みながらそう優しく言ってくれた。それがあまりにも嬉しくて……、嬉しくて……。


「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ―――――――ッッ!」


ついに俺は、二人の前で泣きじゃくる。


「もう死んだと思ってた……! もう会えないと思ってた……! 俺が……、俺が殺してしまったから……! だから、俺は二人にどんな顔すればいいか……! 寂しかった……ッ! 一人で戦うのが怖かったんだ……ッ! ううううぅぅぅぅ…………」


俺は二人の前で本音を打ち明けた。けれど、二人は俺を責めなかった。むしろ、その逆。アイリは俺をぎゅっ、と抱きしめてくれた。


「……うん、カズマくんの辛さは分かるよ。……けど、私たちが死んだのはキミのせいじゃない。私たちが……、弱かったからだよ……」

「違う! 本当に弱いのは俺なんだ! 二人がいなきゃ、何も出来ないし……アイリが死んでからは、キリヤを助けようとしなかったッ! 俺は……、弱虫なんだ……ッ!」

「それは違うぜ、カズマ。お前は……俺がいなくなった後、しっかり俺の意志を受け継いでくれたじゃないか……。そして、一人であいつを……カイトを倒したじゃないか。だから、お前は弱虫じゃない。……勇敢な騎士なんだよ」


俺はアイリの腕のなかで泣いた。仲間の大事さを噛みしめながら。キリヤも、アイリも……誰も俺の事を責めたりはしなかった。ただ、俺を優しく……慰めてくれたんだ。それがなにより嬉しかった……。


「……ここは、どこなんだろうな」


ふと、この広い夜空を見つめながらキリヤが呟いた。


「……メニューウィンドウが開くって事は、まだブレイブワールドのなかってことだよね」

「そう……だな。じゃ、ここはブレイブワールドの何処なんだろう……?」


夜空の彼方を見まわしながら、俺たちは呟いた。……ここがどこなのか、誰も知らないようだった。


「ふ……。なかなかに絶景だな」


ふと、第三者の声がした。振り返るとそこには、見慣れた顔がそこにあった。

カイトだった。さっきのバーストブレイカーの主催者であり、さっきまで俺たちが死闘を繰り広げていた相手だ。そいつがここにいるのに、俺の心は至って冷静だった。


「ここは……、どこなんだ?」

「ふむ、ここは私が創り出したセカイだ。言うなれば、ブレイブワールドの空きスペースを借りて創った仮想世界とでも言っておこう」


カイトの声も静かだった。


「さて、優勝おめでとう、カズマ君」


カイトは俺を見つめながら、静かに拍手を送ってきた。確かに、最後の相手はカイトだけだったので、結果的に優勝は俺になったのだ。


「……カイト。キリヤやアイリ……、この戦いで死んだ連中はどうなるんだ? そのまま死ぬのか?」


俺は優勝という快い言葉を振り払い、カイトに尋ねてみる。カイトは俺を凝視しながら、静かに答えた。


「命は、そんなに軽々しく扱うものじゃない。参加した全プレイヤーはすでに意識を覚醒させ、無事に元の世界に戻っている」


俺たちはカイトの言葉に安心し、胸を撫で下ろした。が、俺は更に質問した。恐らくは、誰もが思ったであろうその問いを―――――ぶつけてみた。


「どうして――――こんなゲームを開催したんだ?」


カイトが苦笑したように見えた。しばしの沈黙が俺たちを包んだ。


「そう―――だな。どうしてか――――それは私にも分からない。ただ、人の命を軽々しく思って欲しくなかったからかもな……。現実でも仮想世界でもそう、命はそう軽々しく思って欲しくはないんだよ」


と、カイトは口にした。それが二人を殺した人間が言う事か―――と思ったが、黙っておく事にした。


「ゲームの世界なら、別に殺してもいいなんてみんな思いがちだが、それでも命に変わりはない。それを伝えたくて、このゲームを開催したのかも……な」


カイトはポケットに手を突っ込みながら、そう静かに、冷静に告げた。

確かに、誰もがゲームの世界の命を軽々しく思っていると思う。現実に支障が出ないから、なんて理由をこじつけてプレイヤー同士、互いに戦ったりしている。が、それでも命は命なんだ。そんなに軽々しく扱うものではない。それが例え、リセットが利くからだとしても。

それを伝えたくて、カイトはこのゲームを開催した――――のかもしれない。


「さて、私はそろそろ行くよ。キミたちの意識も、無事に目覚めるだろう……」


カイトは気がつくと、もうどこにも姿はなかった。いや、また別の仮想世界へと旅立ったのかもしれない……。俺はそれを静かに見送りながら、二人に顔を向けた。


「……お別れだな、キリヤ、アイリ」


俺たちはもう一度、互いの顔を見つめ合う。


「ブレイブワールドをまだ続けるんだったら、また俺たちは逢えるかもしれない。……けど、流石にこの状態じゃ、しばらくは会えないだろうな」


と、キリヤは冷静な表情で告げた。確かに、こんな問題が起きた後だ。運営側も今は完全にパニック状態だろう。数日の間は、ブレイブワールドで遊ぶことはおろか、ログインすら出来ないだろう。


「ねぇ……、しばしのお別れなんだから、二人の本当の名前、教えてよ。……また、何処かで会える気がするからさ」


アイリは笑いながら、そう尋ねて来た。それは別の世界、現実世界での俺のアバターの名前を訊いてきたのだ。俺は静かに、あの世界での名前を口にする。


「……裕太、風間裕太。十七歳」


その名を口にした途端、俺のもう一つのアバターが音を立てて動き出した気がした。眠っていた記憶が、だんだん鮮明になっていき、そこでようやく俺自身の本来の記憶が浮かんでくる。


「かざま……、ゆうた……」


一語一語噛みしめるように発音するアイリ。しかしちょっと複雑そうな表情だった。


「あ、あ―……。カズマくん、年上だったんだね……。私は相沢梨花。今年で十五歳なの」


あいざわ……りか。その六つの音を一語一語噛みしめるように何度も何度も、心のなかで復唱する。


「えぇー……。お二人さん、俺より年下なのかよ……」


キリヤは意外そうな表情を見せた。


「俺は松谷希罹也(まつたにきりや)。二十四だ。一応、妻がいる」

「妻……!?」「妻……!?」


俺とアイリは声を揃えて叫んでしまった。まさかキリヤが成人で、さらに妻までいるとは思ってなかったからだ。


「だぁーっ! いたら悪いかよ! ……結婚してもう四年になるけど」


意外と長かった!


「ま、まぁ……みんなこれからもブレイブワールドにいるみたいだから、また……いつか逢えるね」

「そ、そう……だな、ははは……」


わざとらしくキリヤが笑ってみせた。俺も釣られて苦笑だが、笑った。

その時、俺たち三人は眩い光に包まれた。それと同時に、なんだか息苦しくなってきたのだ。


「……それじゃ、……お別れ、だ……ね」


アイリが光に包まれながら、言葉を発した。途切れ途切れだけど、その言葉は俺たちに確実に伝わったのだ。


「あぁ……。また、……逢えたら……な」


キリヤも途切れ途切れの言葉を発した。


「カズマ……くん、」


ふと、アイリが俺の顔を見ながら、あの向日葵のような笑顔をもう一度見せてくれた。


「……あり、がとう……。いっしょに、たたかったり……、わらえて、うれしかった…………。わたし、……きみのこと、あい……してます……」


それはラブメッセージだった。アイリから俺宛ての、最後のメッセージ。俺はアイリの笑顔を見つめながら、返答した。

みんなとの別れももうすぐだった。すでに俺たちの姿は光の粒子となって消え去りかけていた。そのなかで、俺は――――アイリに微笑んだ。


「――――俺も、……アイリのこと、……大好きだぜ…………」


最後に残った意識のなかで、俺はそう返答した。

俺の姿、キリヤの姿、そして最愛のアイリの姿までも、なにもかもがすべて消え去っていく。

セカイを静寂と闇が包むのだった。

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