part16 VSカイト
「……送別式は終わったか?」
悲しみに包まれた空気を切り裂くように、男が問いかける。カズマはその場に座り込んだまま、微動だにしなかった。男は「はぁ…」とため息を吐くと、言葉を続けた。
「……追い打ちをかけるようで申し訳ないが、このゲームでHPをなくしたプレイヤー……つまり、脱落したプレイヤーは現実世界でも死ぬことになっている」
その言葉にカズマは、びくっ、と肩を揺らした。男はカズマのことなど気にせず、続けた。
「今このバーストブレイカーに参加しているプレイヤー全員は、最寄りの病院に搬送されている。脱落したプレイヤーは、その病院で殺されることになっている。……残念だが、さっきの女の子もそろそろ死ぬ運命に遭うだろう」
カズマは男の言葉を疑った。……アイリが現実世界でも死ぬ? 俺たちは今、病院にいて、ブレイブワールドで戦っている? 全くもって訳が分からなかった。
「……さて、冥土の土産としてこの事を話したのだが…………キミもここで死んでもらおう。……あの世でさっきの娘と仲良くな」
と、男は銃口を呆然と座り込んでいるカズマに向ける。カズマは銃口を向けられても、一向に動こうとはしなかった。
「……アスタラビスタ(また、逢いましょう)」
ばん――――――――!
カズマに向けられた銃口から、銀色の鉛弾が飛び出す。その鉛弾は一直線上にカズマの方へ近づいていき…………一瞬にして姿を消した。
「な――――――!?」
男は驚きを隠せなかった。放った弾丸が消えたからではない、何処からか誰かが放った鉛弾に命中するように発砲したからだ。一体、誰が……?
「……さっきの話は本当か?」
その時、男の背中から声が響いた。振り返ると、そこにはキリヤがハンドガンを構えて立っていた。そのハンドガンから紫煙が立ち込める。男はにやり、と不快な笑みを零す。
「あぁ。俺はこのゲームを主催したカイトだ」
「カイト……。あぁ、バーストブレイカーの当選メールを送りつけて来たヤツか」
キリヤは様々な大会に参加していたため、当選メールを送りつけて来たプレイヤーの名前を必ず見るクセがあった。そして、こいつが本大会、バーストブレイカーの当選メールを送り付けた張本人である事が分かった。
「だったら、その話は本当かも知れないな……。だが、貴様に命をそう易々と渡すわけにはいかないな。……まだ全員死んだわけではないんだろ?」
「…………」
カイトは答えなかった。その静寂は、まだ誰も殺していないという返答だからだ。キリヤはそれにいち早く気付き、カイトに交渉する。
「……だったら、俺たちとお前で戦って、俺たちが勝ったら、バーストブレイカーに参加したプレイヤー全員を無事に解放して貰おうか」
「……ふ、相当腕に自信があるようだな。いいだろう。だが、お前たちが負けたら、容赦なくバーストブレイカー参加者は皆殺しにする。それでいいか?」
カイトの返答に頷くキリヤ。プレッシャーとプレイヤー全員の命を背負ったなか、キリヤはこのゲームの主催者であるカイトとの戦いを開始した。
カズマは虚ろな意識のなか、ただその場に座り込んでいた。
腕のなかには誰もいないのに、まだアイリがいるかのように振る舞っていた。
「……アイリ…………」
キミの事を考えるだけで心がときめいた―――――。
キミの隣にいるだけで安心できた―――――。
キミと話すだけでとても楽しかった―――――。
キミとともに戦う事で強くなれる気がした―――――。
キミを守る事だけが自分のこの世界での生き甲斐だと思っていた―――――。
だけど、この今、そのキミは、ここにはいない―――――――。
それだけでカズマは不安で、恐怖で、臆病で、どうする事も出来なかった。
まるで暗闇のなかに閉じ込められたかのような恐怖心に包み込まれていた。
「あ……、いり……」
カズマはその名前を、ただ呟くだけだった…………。
「ちっ……!」
キリヤは黒い剣を杖代わりにして立ち尽くしていた。いくらキリヤの方が強くでも、ここまで苦戦を強いられるとは思っていなかったからだ。キリヤの攻撃はほとんど見切られており、どんなスキルも、どんな攻撃も全く通用しなかった。
「ふっ―――――!」
カイトの攻撃は独創的だった。片手に剣、片手にハンドガンと、変わった装備だが、それでもキリヤを苦しめた。接近し、剣を振るえば剣で受け止め、近くから発砲。距離を置けば発砲し、弾丸を弾く間に距離を詰めると言う、なかなか隙を突く事の出来ない戦い方だった。
キリヤも数々のプレイヤーと戦ってきたが、こんな装備でこんな戦い方をするプレイヤーを見た事はなかった。どんなに隙を突こうとしても、隙と言う隙がなく、キリヤのHPを少しずつではあったが削られていくのだった。
「……相当大口を叩くヤツだと思ったが…………まさかこんなにも弱いとはな。正直ガッカリだぜ……」
カイトは呆れた様子でキリヤを見下していた。しかし、まだキリヤは本気を出していなかった。その証拠に、キリヤの腕にはまだ黒い剣【ブレイヴ】しか装備されていない。
「ガッカリ……か。確かに、そりゃガッカリされるよな。俺もまだ手加減しているからな……」
キリヤの笑みにカイトは一瞬顔を歪めた。……ここまで追い込まれているのに、まだ手加減していた……だと?
「……だげど、お前のその戦い方でやっと身体が温まったぜ。いいぜ、俺も本気でお前を負かしにいく事にするか」
キリヤはアイテムストレージを開くと、特定のアイテムをモニターのフィギュアにドロップ。その瞬間、キリヤの背中にもう一つの重さが加わる。キリヤは空いている右手で、アイテムストレージから取り出した得物を掴み、正体を現す。
「……白い、……剣。ま、……まさか!?」
「あぁ。ご察しの通り、俺は二刀流を得意とするプレイヤー! 名前はキリヤ!」
カイトは驚きを隠せなかった。まさか、本当に都市伝説のキリヤが存在するとは思ってなかったからだ。バーストブレイカーへの応募メールには確かに、ユーザー名『キリヤ』と記載されていたが、まさか本物の都市伝説、キリヤだとは……。名前が同じだけだろうな……と軽い気持ちで当選メールを送ったが……まさか本物だとは思っていなかった。
「へへ……。驚いているな? みーんな大好き都市伝説『ブレイブワールドのキリヤ』ってのは俺の事なんだよ!」
ニヤリと笑みを浮かべるキリヤを見て、カイトは笑いをこらえきれなかった。……今まさにカイトは最強の都市伝説と戦っているなんて、思っていなかったからだ。その事実がカイトの闘争心を逆に燃やしたのだ。
「……はっはっはっは! いいぜ、都市伝説だろうが、この俺に勝てない相手なんざいないってことを証明してやるぜ!」
「それはこっちのセリフだな。都市伝説の俺は無敗だからな……。俺に勝てるプレイヤーなんていないってことを見せつけてやるぜ!」
互いにその剣をぶつけ合う。カイトは銃を、キリヤはもう一つの剣を、互いの方へ向け、ピタリと停止する。
「……ふ」
「……ふ」
互いにニヤリと笑みを浮かべる。それが合図。カイトは弾丸を放つ。しかし、その弾丸はキリヤの『弾丸大斬り』で一瞬のうちに消え去る。互いにもう一度距離を取る。
「……弾丸を剣で撃ち落とすなんてな。流石は都市伝説、やることが独創的だぜ」
「そっちこそ……。剣と銃の組み合わせなんて、一体どこの誰が思いつく装備だか」
一般的に、プレイヤーの装備は剣に盾や銃に盾などの攻撃用の得物と防御用の盾だ。防御と攻撃を兼ね備える為や初心者だからとほとんどのプレイヤーはそうしている。キリヤも最初の方はそうだった。後は、完全攻撃タイプの《二刀流》や、近距離遠距離と幅広く使える《二丁拳銃》、遠くから狙撃する為の《両手銃》にスピード重視の《短剣》などだ。
それに比べ、カイトの装備だけは完全オリジナル。誰が考えるだろうか、剣と銃なのだ。お互いに全く違う武器を使い、どんなシチュエーションでも攻撃を忘れない装備となっている。
「まぁな。これは俺流の装備でね、どんな時にも相手のHPを削れるようにってことなんだよ。防御に関しては、攻撃してれば相手から攻撃されることはないからな。まさに攻撃は最大の防御ってヤツさ」
自身満々にカイトは鼻を高くする。キリヤはふと笑みを零した。
「そうだな……。確かに、それぞれ違う武器、ましてや剣と銃だったら完全に抜け目なんてない……。だからなんだよ……」
キリヤは剣をカイトの方へ向ける。そして宣言した。
「俺はその装備に勝つ! この二本の剣で!」
カイトはその宣言にニヤリ、と不快な笑みを浮かべた。
「……へぇ。俺、そういうのキライじゃないぜ」
「へっ、そうかよ……ッ!」
地面を蹴りあげる。キリヤは完全にその蒼い騎士、カイトを倒す勢いだった。カイトも都市伝説、キリヤを倒す勢いで対峙する。蒼と黒。その二人の騎士は互いの騎士を倒すため、全力を尽くす。
キリヤは剣を斜めに振り上げる。カイトはそれを上から叩きつけるかのように剣で立ち向かう。きん――――! と鋭い音が二人の騎士の耳に響いた。
「……これが都市伝説の本気か? 笑わせてくれるぜ!」
「……ふっ、笑わせてくれるのは…………こっちのセリフだ―――ッ!!」
カイトの剣を押し返すと、もう片方の剣を振り下ろすキリヤ。カイトはそれをひらり、とかわし、銃口をキリヤに。
ぱん―――! という音と同時に、銀色の鉛弾が勢いよく発射される。キリヤは涼しげな顔でその弾丸を斬り裂きながら、カイトに接近。スキル『ダッシュスパイク』だ。一瞬のうちにカイトの懐に潜り込む。
「な―――!」
キリヤはニヤリ、と笑うと、すかさず剣を振り上げる。カイトの身体に斜め一線のダメージエフェクトを描かれる。それと同時にカイトのHPバーが半分に達するのだった。
「へっ、これでHP半分は貰ったぜ!」
さっきまで苦戦していたキリヤだが、これでやっと逆転の兆しが視えたと思い、ついつい笑みを零す。が、カイトのHPはまだ半分残っていた。まだ油断はできないな……とキリヤは心の中で思うのだった。
「ふん……。HPの半分なんて、そんなのくれてやる」
どうせ俺が勝つんだからな……とカイトは後でそう付け足した。キリヤは再び剣を構える。相手の残りHPをどう削るかが問題だ。敵にスキルを使った為、もう同じ手は通用しないし、相手もきっと戦い方を変えてくるハズだ。それを踏まえながら、キリヤは相手の出方を伺う。
カイトが動き出す。銃口をキリヤに向け、走りながら発砲する。キリヤは弾丸に気を取られ、両手に握りしめた双剣で弾丸を弾く。カイトはその隙を狙い、剣をあえて温存していたのだ。
「もらった―――――!」
カイトはキリヤの射程内に入りこむと発砲を止め、剣を斜めに振りかぶる。スキル『ドラゴンズラッシュ』。紅蓮の炎がまるで竜のようにうねりをあげながら、キリヤの胸元にダメージエフェクトを描く。
「――――――ふ」
が、キリヤはそんな土壇場でふと、笑った。カイトのスキルを受けたにも関わらず、キリヤのHPは一ミリたりとも減っていなかった。
「な―――! 何故、HPが減っていない!? 確実にスキルをまともに受けたハズだ!」
驚くカイトを見ながら、キリヤは「ふっふっふ……」と笑いだす。
「確かに、スキルはまともに食らったぜ……? こいつがな!」
キリヤは着ている黒いシャツを捲り上げる。そこにはなんと、さっき取り出した白い剣の鞘が収納されていたのだ。つまり、さっきのスキル攻撃はキリヤ本人ではなく、その鞘が受けたと言う事になるのだ。
「独創的な考えを持つのは、お前だけじゃないってことを……覚えておくんだな―――ッ!」
今度はキリヤが仕掛ける。その翼のような白と黒の剣で。
「は―――――あ――――――!」
双剣による剣舞。かつてのキリヤが行ったスキル『ダブルソードウィング』よりも強く、そして速い剣舞。カズマがシステムを超えるほどの速さならば、キリヤのこの剣舞はまさにシステムオーバーを超えるほどの速さだった。
「ぐ、――――――ぐ!」
カイトもその剣舞を止める事は出来なかった。ただただ剣で防御するか、最悪ダメージを最小限に抑えるしかなかった。
「……これで終わりだ。スキル『エクストリーム・ソード・ブースト』!!」
剣舞はより加速していく。それがキリヤの二刀流オリジナルスキル、『エクストリーム・ソード・ブースト』だ。カズマの『ダブルソードウィング』とは比べ物にならないほどの速さ。例えるなら、それはもう嵐。剣舞を超え、嵐と化したその攻撃はもう、誰にも止めることはできない。
「この連続24回攻撃を止める事が出来るかな――――――ッ!!」
双剣の嵐はまだ、治まらない。それどころか加速していく一方だった。カイトはその嵐を剣で弾く。が、それでもダメージは受けてしまう。カイトはその嵐が止むのをただただ待った。
やがて、連続24回攻撃は終盤を迎える。キリヤは最後の攻撃にすべてを賭けた。
「おおぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――ッッ!!!」
最後の、24回目の攻撃。それはカイトの胸元目掛けてだった。そのまま直撃すれば、その胸元を穿つであろうその一撃。キリヤはこれに全力を尽くした。
「―――――――ふ」
カイトはふと、笑った。次の瞬間、その穿つような一撃は弾かれたのだ。カイトの剣によって。
「く――――――!」
キリヤは顔を歪めた。……これで決着が着いたと思っていたが、その攻撃を簡単に弾かれてしまったからだ。
「やはり、ここまでだな都市伝説。正直、少しは楽しかったよ……」
カイトはそのまま銃口を向けた。キリヤではない、他の誰かにだ。一体誰に……?
はっ、とキリヤは銃口が向いている方向を振り返る。そこには、まだ呆然と座り込んでいるカズマがいたのだ。カイトはキリヤではなく、カズマを先に仕留めるつもりだったのだ。
「ふはははははははは! お前よりも先に、仲間のアイツを殺しておけばよかったんだ! まったく、仲間一人殺されただけでああなるとはな……」
ハンドガンをリロードし、そのまま引き金に指をかける。
「……グッバイ」
ばん―――っ! 音と同時に静寂が訪れた。
カズマは銃声を聞いて、やっと死ねると思った。
……これで、やっと、アイリに逢える……。
そう思っていた。
しかし、カズマは見た。目の前にいる人影を。
「え…………?」
そこには、カズマの代わりに弾丸を受けたキリヤの姿があった。
完全に弾丸はキリヤの腹を貫通し、HPを一ミリたりとも残してはいなかった。
「キ、リヤ……!」
「へへっ……。すまねぇな、カズマ…………、俺は……、ここで……リタイアだ……」
キリヤの全身を、眩い光が包み込む。
「あ……、あ」
カズマはそれを見つめながら、キリヤに手を伸ばす。が、今のキリヤに触れることはできなかった。
「……はは。そんな悲しい顔するなよ、こっちまで悲しくなっちまうだろ?」
キリヤはそれでも笑顔を消さなかった。それが逆に残酷で…………カズマの哀しさをより一層強くさせた。
「…………カズマ。……もうこの戦いには、お前しかいない。このデスゲームを救えるのは、お前しかいないんだよ……」
笑顔のまま、キリヤはカズマに言い聞かせた。
「……だからさ、…………あとは、……まかせたぜ」
その言葉とともに、キリヤは光の粒子となって、消えていくのだった…………。
「キ、……リヤ…………ッ!」
カズマは流した、悲しみの涙を。アイリを失い、そして…………ともに戦ってきた戦友まで失った。それがとても辛く、とても悲しく……、カズマの孤独心をより一層強くさせた。
その時、からん、とカズマの耳になにかが落ちる音が聞こえた。それは剣。キリヤが愛用していたあの黒い剣、【ブレイヴ】だった。【ブレイヴ】は英語で『勇気』。その剣が、カズマに戦う『勇気』を与えた。
「へっ……。なんだよ、都市伝説ってのは、こうもカンタンに消えるなんてな……。鼻で笑ってしまうぜ、ふへへへへ……」
不快な笑いをするなか、カズマはその【ブレイヴ】を右手に、立ち上がる。……もう、二人の犠牲は無駄にはしない。例え、俺が死のうとも……こいつ、カイトだけは倒すと心に誓った。
「……へぇ。ヘタレかと思っていたけど、まだ戦えるんだな」
す―――、と剣をカイトに向ける。
「……俺は、…………お前を倒す!」
と、涙ぐみながら強く、宣言した。
「へっ、ヘタレが粋がってんじゃねぇよ―――――!」
カイトが地面を蹴りだす。その手には銃と剣。その互いに違う武器で、カズマを確実に仕留めるだろう。カズマは黒剣【ブレイヴ】を握りしめたまま、カイトがこちらへ向かってくるのを待った。
「ふ―――――!」
カイトは剣を振るう。叩きつけるかのような力任せの剣。……もう躊躇わない。カズマはその剣でカイトの剣を一瞬にして弾き返す。
「―――――邪魔だッ!」
その剣には、かつてのカズマの強さなんかじゃない。最早、別人と疑いたいほどの強さだった。
「こ、……こいつ! どこからそんな力を―――――!?」
「は――――――!」
カズマのカウンター。カイトは弾かれた剣で防御は出来ず、回避するしかない。ステップを切って回避する。
カイトは目を丸くした。……それはカズマの動きが変わったからだ。…………こいつ、さっきまでこんなにも速く、精密な動きをするヤツだったっけ? 目を疑いたいほどの強さだった。
「……へ、それでも……俺がこいつを倒す事に変わりねぇか!」
カイトはもう一度剣を握りしめる。カイトの答えは一つ、たった一つのシンプルな答え。『カズマを倒す』ことだけだった。
「……来ないのか? こっちから行くぞ」
カズマはカイトに問う。が、カイトは動き一つ見せなかった。
今度はカズマが仕掛ける。が、別人と化したカズマのステータスは計り知れない。スキルを使用せずに、一瞬のうちにカイトの目の前まで接近してきたのだ。
「――――――はぁッ!」
黒剣を斜めに振り下ろす。ぶん―――――! と、風を切る音を響かせながら。カイトはその剣を自身の剣で受け止める。
きん――――! と火花が飛び散る。どちらも譲らない攻防戦。剣と剣がぶつかり合い、紅と蒼の騎士たちをもっと本気にさせた。
「――――もらったッ!」
カイトは手に持っていたハンドガンをカズマに向け、発砲。至近距離からの発砲だが、カズマは一瞬たりとも顔を歪めない。まるで、その攻撃を予知していたかのように……! 身体を捻らせて、その弾丸を回避し、カイトを剣越しに押し返す。
「――――――ち」
カイトは舌打ちをしながら、攻撃が通じらなった事を悔やんでるようだった。
「……危ないな。どうにか、あの銃を止める策を考えないと……」
カズマは自分にしか聞こえないように、そっと呟いた。その時、ふとカズマの目になにかが止まった。細く、そして白い……そう、レイピアだ。
「あれは……!」
それはアイリが愛用していたあの白いレイピアだった。何故そこにあるかのは分からないが、カズマはそれを掴もうと動いた。
カイトもその隙を見逃さない。動きを見せたカズマ目掛けて、引き金を引く。ばん――――と、音と同時に鉛弾がカズマ目掛けて飛んでいく。カズマはそれを耳で聞き、地面を転がって回避する。
「……ち」
カイトは舌打ちしながら、リロード。その隙に、カズマは白いレイピアを空いている左手に装備する。
「……へぇ、お前もあいつと同じ《二刀流》使い……だったのか」
カイトはカズマを見ながら、ニヤリ、と笑みを浮かべた。右手にキリヤの黒剣、左手にアイリの白いレイピア。それは完全なる《二刀流》。剣の形は違えど、それは完全に《二刀流》スタイルだった。
「あぁ……。俺も《二刀流》の使い手だ。……まぁ、キリヤには劣るがな」
両手に剣を構えたカズマに恐怖心はもうなかった。その剣を握りしめながら、フィールドを駆け抜ける。剣を翼とし、フィールドを駆け抜ける姿はまるで羽ばたくハヤブサのようだった。
「……面白い! その《二刀流》、俺が撃ち砕く!」
カイトはそのハヤブサに立ち向かう。手に握りしめた剣と銃で。
互いの距離が縮まったなか、カズマはその両手の剣を振るう。カイトはそれを紙一重で回避しつつ、隙を狙っては剣を振るった。きん、きん――――! と所狭しに火花を飛び散らせながら、剣と剣は互いにぶつかりあった。
「ほらほらほらァ―――――ッ! そんなものなのか、お前の《二刀流》はよォ――――――!」
カイトは隙を突き、カズマの身体を蝕んでいく。カズマは完全に押されつつ、剣を攻撃ではなく防御に使うしかなかった。
「くそぉぉぉぉ――――――ッ!」
カイトの剣とぶつかり合いながら、咆哮する。キリヤに後を任されたのに……、このまま負けるなんてあり得ない。カズマはカイトの剣を押し返し、その隙を狙ってその双剣を交互に振るう。
きん、きん――――! と音を立てながら、迸る双方の剣。その剣の速度はまさに速度を増す。
「……《二刀流》独自の剣舞か。……ふん、リズムさえ崩せば、こちらのもの!」
カズマの剣舞を、カイトはその剣で弾き返す。リズムさえ崩せば、剣舞は止まり、完全に隙を作らせてしまうだろう。しかし、カズマの剣舞は、どんなにリズムを崩そうとしても崩れなかった。
「――――く! 何故だ! 何故、リズムが崩れないんだ!」
カイトは剣をぶつけるが、一向にカズマの剣舞は止まらない。むしろ、加速していく一方だった。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――ッッッ!! 『ダブルソードウィング』!!」
キリヤとアイリの剣による、カズマのスキル『ダブルソードウィング』。これに全力を賭け、カズマは剣を振るった。が、カイトはすでにキリヤの『エクストリーム・ソード・ブースト』を受けていた為か、最小限にダメージを抑える事が出来た。
「……ふ、そんな――――ものかッ!」
剣で受け止められても、カズマは剣舞を止めない。それよりも、ギガミノタウロス戦よりも加速していた。キリヤの『エクストリーム・ソード・ブースト』にも匹敵するほどの速さだった。
「な―――に――――!?」
その速さにカイトは驚きを隠せなかった。キリヤのスキル並みに加速していくそのスキルを受けながら、カイトはダメージを最小限に抑える事が出来なかった。剣というより腕が、その剣舞の速度に追いつかなかったのだ。
「もっとだ……、もっと……速く!!」
その速度はさらに加速していく。まるで、攻撃を重ねていくほど速くなっていくようだった。今では完全にこちらのスキルの方が速くなっていた。もう翼ではない、まるで流星のようだ。剣が流星のように瞬く間に空間を、風を、なにもかも切り裂いて行く。
「ぐ―――――!」
カイトは最早、剣でダメージを抑える事が出来なくなっていた。剣で防御するより先に、剣舞をまともに受けてしまう。
カズマの剣舞は止まらない。キリヤの嵐を超え、カズマの剣舞はすでに嵐以上の強さと速さだった。もうここまでくれば、誰も止める事が出来ない。それよりも、止まるのかすら分からないほどだった。
「があぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!」
カイトはもう、カズマの剣舞をまともに受けていた。カイトの身体に無数のダメージエフェクトが描かれていき、HPバーを徐々に削っていくのだった。
最後の12回目の攻撃、カズマはその攻撃にすべてを賭けた。キリヤの様に……。キリヤとアイリの剣で、カイトの腹から胸元まで斜め一直線に斬り裂く。ざん――――! という音が辺りに響いたのだった……。
カイトの身体には無数のダメージエフェクトと、胸元から腹まで斜め一直線のライン。HPバーはすでに一ミリたりとも残っていなかった。
「……ふ。この勝負、お前たちの……勝ちだ…………」
カイトはそのまま黄金の輝きに包まれ、消えていくのだった。カズマは両手に握られた剣を見つめながら、心のなかで呟いた。
「……これで……いいよな? キリヤ……、アイリ……」
そう彼らに問いかけるかのように心の声を漏らすと、カズマはその場に倒れ込んでしまうのだった。
意識と視界が暗転し、その微かな意識のなかで、俺は無機質なシステム音声を訊いた―――――。
勝者、カズマ―――――勝者、カズマ―――――勝者、カズマ――――――――……