part14 異変
異変が起きたのは、俺たちが草原エリアを出発してすぐの事だった。異様にモンスターの数が増えていたのだ。それも一匹二匹ではない。数十匹……下手をすれば百に到達するほどだった。
「なんだよ……、こりゃ……」
キリヤは唖然としていた。獣使いがここまでするとは、俺やアイリ、キリヤでさえも想像していなかったからだ。これはこれで驚異だった。
「……あの獣使いを、甘く見ていたな」
キリヤは舌打ちをしながら、ぼそりと呟いた。その表情には怒りと呆れ、そして圧倒されたような驚きが込められていた。
きっと今のキリヤは、あの時倒していれば……と後悔しているだろう。カズマでさえも、何故早くあの怪物を倒して獣使いと対峙していなかったのだろうと後悔していた。しかし、起こってしまったことは仕方ない。今更後悔しても、この問題が解決するわけでもない。カズマは剣を構えると、
「……行こう。獣使いを早く倒すんだ」
と、キリヤとアイリに言い聞かせ、先を急いだ。
それを追いかけるかのように、キリヤとアイリがカズマの後ろをついて来る。それはきっと、自分たちもあの獣使いを倒すと決意したからだ。カズマはキリヤたちの方を一瞬振り返ると、にこっ、と笑みを零した。
早速、獣使いが呼びよせたモンスターと対峙する。レベル63の『リザードマン』だ。カズマはその速度を生かして、先制攻撃を仕掛ける。『リザードマン』はうめき声をあげながら、その身体を結晶のかけらにし、そのままぱりん! というクリアな音と共に消えていくのだった。
「強くなったな、カズマ」
キリヤが言う。カズマは笑みを零しながら、
「キリヤのおかげさ」
と、返すのだった。
しかし、それでもまだモンスターの数はかなり残っている。カズマたちは武器でモンスターを蹴散らしていく。獣使いが召喚したモンスターはどれもレベルが低く、ほとんど一撃で倒せるほどだった。
「……弱いとはいえ、こんなに数が多いと……なかなか疲れるな」
カズマの背中越しにキリヤが話しかける。カズマはキリヤの方を一度も振り返らずに、背中越しに言葉を交わした。
「……そうだな。でも、あと一息だ。頑張ろうぜ!」
二人は同時に剣を構え、敵モンスターに立ち向かった。
「はぁ……。これで……全部か……」
剣を鞘に仕舞い、その場にしゃがみこむキリヤ。すでに息は切れており、完全に疲れ切っていた。
「そう……だなぁ……」
カズマも同じように、ぜぇぜぇ、と息を切らしながらその場へ座り込んだ。アイリも同様だ。数十匹のモンスターと戦い、そして撃破したのだ、無理もない。
「しっかし……、あの獣使いのヤツ……こんなにも召喚スキルが使えるなんて……どんだけステータスにスキルゲージ振ってるんだか……」
ブレイブワールドでは、経験値と他に敵を倒した分だけステータスがアップするのだ。だから、敵をどんどん倒していけば、レベルを上げると同時にステータスを上げることも出来るのだ。きっと、あの獣使いはステータスを全て、スキルを使用する為に必要な〝MP〟に振っているのだろう。ここまでモンスターを召喚するのに必要なMPは底知れないほどだ。きっとレベル193のキリヤでさえも、ここまでのMPは持っていないハズだ。
「……くそ。俺のMPはせいぜい392だってのに、召喚スキル一回につき大体35は取られると考えて…………MP約3500ってどういうことだっての! MPにステ振り過ぎだろっての!」
……廃人キリヤさんも、獣使いのバケモノじみたMPにお怒りの様でした。
「……っと、ここでのんびりしている場合じゃないな。早くあの獣使いを倒さねぇとな……」
キリヤは立ち上がる。それに釣られ、俺とアイリも立ち上がった。そう。キリヤの言う通り、ここでのんびり休憩している場合ではない。俺たちが休んでいる間だって、あの獣使いはMPを回復して、またモンスターを大勢召喚しているのかもしれないのだ。それを阻止するために、俺たちは先を急いでいたのだ。目的は獣使いが召喚したモンスターを倒す事じゃない、獣使いを倒す事なのだ。
「……行こう、キリヤ、アイリ。早くあの獣使いを倒さなきゃ」
「そうだな。また大勢モンスター召喚されたら、大会どころじゃなくなるしな。……もうアイツのことは、一種の荒らしとでも思っておこう」
俺たちはあの獣使いを倒すため、先を急ぐ事にした。