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ブレイブワールド  作者: とらまる
第一部 バーストブレイカー
13/19

part12 獣使い


街エリアから一旦離れる事にした俺たちは、もう一度草原エリアへ向かっていた。「街エリアには障害物が多すぎて、他のプレイヤーから不意打ちを幾ら受けてもおかしくない」とキリヤに言われ、俺たち一行はエリア移動を余儀なくされたのだ。

俺としては、ここまで来た意味はあったのか? と、疑問に思うほどだったが、キリヤの言う事なので、それに従う方が生存率は上がるだろうと思い、キリヤの言いなりに動くしかなかった。アイリに関しては、俺との戦いを楽しみにしているようで、俺たちについて来るのだった。


「……草原エリアに行ったとしても、なにするんだ?」


俺はキリヤに尋ねてみる。幾ら街エリアが危険なエリアだとしても、わざわざ草原エリアに向かわなくても、別のエリアならどこでもいいだろうと思ったのだ。キリヤは俺たちの前を進んでいたので、後ろを振り返る様に俺とアイリの方を向く。


「そりゃ、一番安全だからだよ。カズマが草原エリアにいた時は、他のプレイヤーはいなかったんだろ?」

「あ、あぁ……。そうだけど」

「だったら、他のプレイヤーにはあそこのエリアについては絶対に分からない。まさに未知のエリアだってことだ。そんなエリアに来るプレイヤーなんて、誰一人としていないハズだ。だから、あそこは俺たちにとって一番の安全地帯ってわけだ」


キリヤはべらべらと、自身の経験から考察する考えをそのまま俺たちの前で述べる。つまり、あそこは誰も知らないエリアだから、近づくプレイヤーなんていないハズ。その為、そのエリアを知っている俺たちにとってはかなり有利だ、と言う事だ。

確かに草原エリアについては、一番に到着していた俺が一番よく知っている。だからこそ、そこにいれば安全なのかもしれない。

草原エリアを目指して歩きながら、カズマはやっぱりキリヤは頼りになるな、とふと心の中で思うのだった。さっきの敵も、キリヤの狙撃がなければ負けていたかもしれない。キリヤはやはり強いのだと、カズマは心の中で思うのだった。

そんな時、がさごそと茂みが音を立てた。咄嗟に俺たち全員は構える。


「……まさか」

「……そのまさかかもな」


カズマとキリヤは二人にしか聞こえないような声で話す。……もしかしたら、ここが安全であると理解したうえでここに隠れていた他のプレイヤーかもしれない。プレイヤーであれば、確実に戦う事になるだろう。だからこそ、俺たちは剣を構えるのだった。

しかし、その予感は見事に外れてしまった。茂みから登場したのは、なんと【ピギー】だった。


「また……こいつか……」


キリヤは【ピギー】の姿を見るなり、剣を鞘に収め、呆れた表情を見せた。そう言えば、さっきも俺とキリヤは【ピギー】を見かけたのだ。きっとその時の【ピギー】なのだろう。

呆れたキリヤを横目で見つつ、俺とアイリはその小動物のような可愛さを持つ【ピギー】を撫でまわしていた。……やはり、愛玩動物って最高だ。


「お前らなぁ、いつまでもそいつを撫でまわしてるんじゃねぇよ。そもそもそいつは、他のプレイヤーの偵察用モンスターなんだぜ? そんなのと一緒にいたら、すぐそいつの飼い主にやられるだけだろ」

「えぇ~……。でも可愛いじゃん~~~」

「はぁ……」


キリヤはため息を吐きながら、鞘に仕舞った剣をもう一度抜き出す。そして、その剣を【ピギー】に向ける。カズマとアイリはそこで直感的に理解した。キリヤはこいつを確実に仕留めると。さっきは仕留め損ねたけど、今回は確実だ。キリヤの瞳がそれを物語っていた。


「……じゃ、今度こそさよならだ」


キリヤが剣を振り下ろす――――――


「……何をしているの?」


――――が、何者かの声でその剣はピタリと止められた。振り返るとそこには、俺やアイリよりも身長の高い女プレイヤーがそこにいた。見た目はキリヤと同じくらいの緑色の髪をしており、剣を腰の鞘に収めていた。彼女はキリヤが剣を向けている【ピギー】の方を見つめながら、もう一度尋ねて来た。


「……もう一度言うわ。何をしているの?」


その女性に、キリヤが問いを返す。


「……こいつは、お前の差し金か?」

「質問を質問で返すとは……貴方、日本語がなっていないわね」

「日本語なんてそんなもんは知らねぇよ。いいから俺の質問に答えろ」

「だったら、私の質問に答えなさい。先に質問したのはこっちよ」


キリヤの反論に、女性は正論で返してくる。言葉を失ったキリヤは観念し、「はぁ…」と深いため息を吐く。


「……何をしているかって、そりゃ偵察用のこいつを倒そうとしていただけだ。それ以外に何をしていた様に見える? モンスターと戯れているように見えたのか?」

「そうね…。貴方の連れは、その子と戯れているようにしか見えなかったけど、貴方だけは確実にその子を殺そうとしていたわね」


女性はキリヤに対して敵意の目を見せる。その目だけで、この【ピギー】はこの女性のものであると理解出来た。キリヤはそのまま、相手に敵意の目を返しながらこう言った。


「……そうか。それで、こいつ殺してもいいんだよな?」


剣を【ピギー】の目の前で振り下ろすキリヤ。今のキリヤは完全に敵と戦うことを決意したような表情に変わっていた。


「……その子を殺してみなさい。貴方もこのゲーム内で殺してあげるわ」

「……へっ、そうかよ」


女性の返答にキリヤは呆れた表情を見せつつ、剣を鞘に収めた。カズマとアイリはそれを見ながら、「ふぅ…」と安堵の息を漏らした。

しかし、キリヤは剣を鞘に収めたかと思わせながら、もう一つの白い剣で【ピギー】の胴体を真っ二つに斬ったのだ。ぱりん―――と、まるでガラスが割れるような音とともに【ピギー】は粉々に砕け、空へ昇天していく。


「……偵察用のモンスターなんて、俺にとっては邪魔でしかないんだよ。そんなに偵察がしたけりゃ、自分でやるんだな」


と、キリヤはその白い剣をぶんぶん―――と振り回して鞘に収める。その表情は淡々としており、まるで邪魔ものを排除したとでも言っている様な感じだった。


「……貴方、殺したわね……」


【ピギー】を殺され、キリヤと対峙していた女性は謎の呪文を唱え始めた。それはよくアニメや漫画で訊くような召喚魔法の呪文のような感じがした。


「……ちっ。こいつ、まだ召喚スキルが使えるってのかよ……!」


キリヤは下唇を噛みながら、もう片方の黒い剣まで鞘から引き抜いた。カズマも慌てて剣を構えた。女性の周りに黄金の魔法陣が描かれ、そこから大きな何かが召喚されていく――――。


「……召喚スキル、発動。いでよ、我がしもべ。『ギガミノタウロス』!!」


黄金の魔法陣から出て来たのはかなり大きな大型モンスターであった。カズマもそのモンスターの姿に見覚えはなく、ただその姿を見るだけで圧倒されるのだった。


「なっ……なんだこりゃぁぁぁぁぁ!!」


思わず叫んでしまう俺。こんな大きなモンスターを見たのは初めてだった。ダンジョンの奥のほうには、こんなのがうようよしていると訊いたが、まさかここまで大きいとは思っていなかった。きっと8メートルは軽くあるだろうその怪物は、手に握られている剣を振り下ろす。

ごぉぉぉ―――――ん! と耳をつんざく様な轟音が轟き、剣の暴風で俺たちの身体は宙に舞う。その時、俺とあいつの目が……確かに合った。俺はそこで理解した、こんなヤツに俺たちは勝てないと。


「…………が」


宙に舞った身体はそのまま重力場に逆らいながら、俺の身体を強く地面に叩きつける。俺の上に表示されているHPバーが二割がた減少する。


「……く」


地面にへたり込んだまま、あの怪物と対峙する。……大きい。そして強い。きっと俺なんてすぐにこいつにやられるであろう。俺は戦意を喪失し、そのまま目を閉じた。


「うおぉぉぉぉぉ―――――――ッ!!」


しかし、何者かが雄叫びをあげながら、その怪物の目の前へ突っ込んでいくのだ。それは黒き剣を左手に構えたあの黒き騎士、キリヤだった。剣を構え、敵陣へまっしぐら。


「やめろ、キリヤ―――――!」


俺が叫んでも、キリヤは走りを止めない。敵もキリヤの攻撃を待ってくれない。さっき轟音を轟かせた大剣をもう一度、地面に叩きつける。耳をつんざくような轟音が轟くが、キリヤはそれでも前へ―――――前へ突き進む。


「は――――!」


地面に叩きつけた大剣を伝って、敵の身体を昇っていくキリヤ。しかし、ギガミノタウロスは地面に突き刺さった大剣をもう一度振り上げる為に、その大きな太い腕を動かした。そのせいで、ギガミノタウロスの腕を突っ走っていたキリヤはバランスを崩し、地面に落下する。

地面と激突し、自身の黒い剣をあらぬ方向に落としてしまったキリヤ。その隙にギガミノタウロスが、大きな叫びとともに大剣をキリヤ目掛けて振り下ろす。今のキリヤは完全に丸腰状態だ、直撃すればHPはたちまち0となり、バーストブレイカーから脱落となるだろう。


「キリヤ―――――ッ!」


俺は気付けば、地面を蹴っていた。丸腰状態のキリヤに、ギガミノタウロスの大剣が激突する前に――――――! 俺は駆けながら抜刀すると、身も凍る恐怖を味わいながら、その大剣とキリヤの間に割り込み、怪物の攻撃軌道をわずかに逸らす。途方もない衝撃。腕がびりびり痺れた。

ぶつかり合う刀身から火花を散らして振り下ろされた大剣が、俺たちから少し離れた地面に落下し、轟音とともに深い孔を穿ったのだ。


「くそ、下がるぞ!」


怪物の大剣に恐怖しつつ、今がチャンスと思い、キリヤとともにその場から離れる。ギガミノタウロスはその隙に、自身の剣を拾い上げ、俺たち目掛けて振り下ろす。爆風とともに、俺とキリヤの身体が再び宙を舞う。

落下の衝撃を抑えようと、地面に剣を突き立てる。キリヤは剣を引き抜く暇もなかったので、そのまま地面と衝突した。キリヤのHPが半分を切っていた。


「…………く。大丈夫か、キリヤ」

「……あぁ」


キリヤは軽く返事すると、もう一つの白い剣を左手に装備する。これだけ恐怖しながらも、キリヤはなお戦おうと言うのだ。


「キリヤ! 無茶だ!」


俺が止めに入るが、キリヤは訊く耳を持たない。それどころか


「……俺がやらなくちゃ、誰があいつを倒すんだよ」


なんて強がったことを言って、ギガミノタウロスに向かって行くのだった。俺は下唇を強く噛むと、キリヤの後を追う様に駆けだす。

グォォォォォ――――! と大きな雄叫びをあげながら、大剣を振り下ろす。俺とキリヤは左右にステップを切って回避するが、それでもHPは少しだけ減少した。それでも屈せず、俺とキリヤはギガミノタウロスに剣を突き立てる。

だが、ギガミノタウロスのHPバーは一向に減る様子を見せなかった。まるで全くダメージを受けていないようだ。その代わり、ギガミノタウロスの攻撃を回避した俺とキリヤがダメージを受けるだけだった。

俺は悟った。このままではきっと持久戦となり、ギガミノタウロスのあの大剣による衝撃波でダメージを受け、全滅すると。最早残された方法は一つ。あの怪物に反撃する暇を与えない攻撃をすればいいのだ。しかし、キリヤは今現在二刀流を使用する事が出来ない状態だった。さらにキリヤのHPはすでに半分にまで達しており、このままあいつと対峙すればここでゲームオーバーになる確率が極めて高かった。

アイリに二刀流は使えないし、怪物から受けた非ダメが大きかった。つまり、今あの怪物を止める事が出来るのは……他ならぬ俺だけだった。俺は「ちっ……」と軽く舌打ちをすると、キリヤとアイリに指示した。


「……ッ! アイリ、キリヤっ! 頼む、十秒……いや、五秒でいい! 持ちこたえてくれ!」


俺は叫ぶと、敵の攻撃を剣で受け止めながら下がる。その代わりに、アイリとキリヤが前方へ上がって俺の代わりに戦ってくれる。

しかし、二人のHPもかなり下がっていた。キリヤに関してはあと一回限りしかスキルを使えそうにない状況だ。……そんな中、この状況を一体誰が切り抜けるのか…?


「……俺が、……やるしかねぇ!」


小さく呟くと、アイテムストレージを空いている右手で開く。ここから先は一つのミスでさえも許されない。早くなった鼓動を抑えつつ、所持アイテムの欄を開いてスクロール。目的の物を見つけては、実体化させる。装備設定欄にその選択したアイテムを、空白となっている右手フィギュアにドロップ。

すべての操作を終了させ、OKボタンを押す。それと同時に背中に新たな重みが加わったのを確認しながら、俺は顔を上げて叫んだ。


「いいぞ! もう大丈夫だ!」


キリヤはHPを少し削られながらもなんとか持ちこたえてくれていた。アイリもその白い剣を振るいながら、少しずつHPを削り取っていた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ――――――ッ!!」


キリヤが最後のスキル【ダッシュスパイク】を放つ。その一撃は、空中でギガミノタウロスの剣を衝突していた。大音響と共に少しの隙が生じたのを、俺は見逃さない!


「ムーヴ(交代)!」


叫ぶと、俺はキリヤと場所を交代し、敵の正面まで移動した。硬直から回復した大きな悪魔が俺と対峙し、その大きな剣を振りかぶる。

オレンジ色の一閃を描きながら振り下ろさせるその剣を、俺は右手に握った愛用の紅剣【カリバー】で受け止めると、背中に宿った物を左手で引き抜いて反撃する。左手に宿る蒼剣【クェイサー】が蒼い一閃を描きながら、ギガミノタウロスの胴に斜め一線の切れ込みを描いた。


「グォォォォ――――――!」


大きな悪魔は大きな叫び声を上げると、反撃してくる。叩きつけるような大剣の軌道。それを俺は紅と蒼の二つの剣、【カリバー】と【クェイサー】を交差してしっかりと受け止め、弾き返す。


「…………ダブルソード……ウィング!」


これが俺の新たなスキル、『ダブルソードウィング』。連続12回攻撃。俺のスキルが発動し、両手の剣が攻撃パターンのモーションに入る。右、左、右、左……。脅威の二つの剣が、風を斬り、空気さえも切り裂く勢いでギガミノタウロスの胴を切り裂いていく。それはまるで羽ばたく翼の様。速度を上げ、さらに加速しながらギガミノタウロスのHPをゴリゴリ削っていく。


「……もっと……速く!」


脅威のスキルはまだ終わらない。加速しながら、俺はもう一度同じスキルを発動させる。ダブルソードウィングの猛攻だ。連続12回攻撃が二度も発動するので、合計24回もの連続斬撃を味わうこととなるであろう。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――ッッッ!!!」


両手に掲げた剣を振るいながら叫ぶ。視界が真っ白になり、最早敵以外のモノが見えない。悪魔の剣が時々俺の身体を蝕んでいくのさえ、幻想のように感じた。全身をアドレナリンが巡り、全ての神経が熱を帯びながらスパークする。

……まだだ、もっと速く。システムの限界まで加速(アクセラレート)されている俺の神経には、普段の剣舞よりも尚速くなっている今の剣舞さえ物足りない。システムの限界を突破するかのような速度で攻撃を放ち続ける。


「…………がぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!」


雄叫びとともに放った最後の一撃、24撃目が、ギガミノタウロスの心臓を貫いた。


「ゴォォォォォォォォオオオオオオオオオ!!」


気が付くと、絶叫しているのは俺だけではなかった。天を振り仰いだ大きな悪魔が、口と鼻から盛大に噴気を洩らしながら俺と同じように絶叫していた。

そのままギガミノタウロスは、膨大な蒼いガラスの破片となって消え去った。空間中にキラキラとその破片が飛び散った。

終わっ……た……。

俺は両手の剣を背中の鞘に収めながら、安堵の息を漏らした。ふと俺のHPを確認すると、紅いラインが1ミリ程度の幅で残っていた。まさに絶命寸前だったのだ。それを他人事(ひとごと)のように眺めながら、俺は急な目まいに襲われ、声もなく地面に倒れ込んだ。

視界と意識が暗転したのだ。

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