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ブレイブワールド  作者: とらまる
第一部 バーストブレイカー
12/19

part11 VSアサシン


ぱん! と銃声が背後から聞こえたのを確認すると、カズマは走るスピードを変えた。キリヤはすでに敵と接触し、銃撃戦となっているのを銃声だけで確認したからだ。その為、自分も急いで相手をこの剣で倒さねばならないと思い、速度をあげたのだ。


「ちょっと、カズマくん……。待ってよぉ……」


と、よろよろしながら背後からアイリが追いかけてくる。カズマの速度についていけず、ぜぇぜぇと息を切らしながらなんとかカズマについて行こうと努力していた。


「……すまん。アイリのこと、すっかり忘れていた」

「も、もぅ…。女の子が一緒について来ていることを忘れるなんて、カズマくんって最低な男の子だよ……」


息を切らしながら、アイリは腹から声を出して言った。それだけ戯言が言えるのならば、心配する必要はなかったとカズマは内心思ったが、これは思いやりが大切なんだと思い、あえて口にはしなかった。


「そうだな。じゃ、アイリはここで待機していてくれ。どうせ、俺についてこれないんだろ? だったらここで、俺があいつをやっつけてくるまで待っててくれないか?」

「嫌だよ……。カズマくんだけ戦わせるわけにはいかないよ……」


カズマの言う事を訊かないアイリ。アイリの蒼眼は、俺とともに戦いたいと言う決意だけを表している様に見えた。カズマは「仕方ないな……」と、ため息を吐いた。


「んじゃ、なるべくスピード落とすからちゃんと俺についてこいよ?」

「うんっ」


アイリはまるで向日葵のような満面の笑みを見せた。カズマは再び剣を構え、走り出す。今度はアイリのペースを考えながら。……キリヤには申し訳ないが、もう少しだけ粘ってもらう事にしようと心の中で呟くのだった。

キリヤも上空で狙撃銃を駆使して戦っているのだ。カズマも早く敵と対峙しなくてはと思い、フィールド内を駆け抜ける。アイリもカズマについていくようにフィールド内を駆けていた。


「……キリヤ」


銃撃の音を訊いて、カズマはついその名前を呟いてしまった。例え作戦だとしても、カズマはキリヤのことが心配だった。しかし、この作戦ではキリヤの狙撃が重要なカギとなる、だからこそ、キリヤには悪いが、そのまま狙撃を続けてもらうしかなかった。


「……大丈夫だよ、カズマくん」


心配そうな表情だったカズマを慰めるのは、カズマとともにフィールド内を駆けていたアイリだった。


「…きっとキリヤさんなら大丈夫だよ。絶対に負けたりなんかしない、私の勘がそう告げているんだもん。だから、今はキリヤさんを信じようよ、カズマくん」


アイリはまるで小さな子どもをあやす様に、カズマに言いかけてきたのだ。カズマはアイリの言葉を信じるかのように、さっきまで心配そうだった表情をぱっ、といつもの明るい表情に変えた。


「……そうだよな。あんなに強いキリヤが、こんなところで負けるわけないよな」


そう、キリヤは強い。それは互いに戦ったカズマなら分かること。キリヤの強さは、どんなブレイブワールドプレイヤーにも負けることのない強さを誇る。だから、カズマはキリヤを信じる。……絶対に無傷で俺たちの前に姿を現すと。

そのためにも、俺たちが戦っている敵と遭遇し、なんとしてでもこの剣で勝利を収めなくてはならない。カズマはこの戦いに必ず勝利すると心の中で決意する。


「カズマくん、もう目の前だよ!」


アイリはとあるビルを指差しながら、そう応えた。それはカズマたちを狙撃してきた相手が潜んでいるビルだった。時折、大きな銃声が上のほうから聞こえていた。


「へへっ……。これじゃ、ここにいるってことが丸聞こえだぜ。……いくぞ、アイリ」

「うんっ」


カズマはアイリとともに、ビルの中へと吸い込まれていくのだった。エントランスに入ると、カズマはすぐさま上へと昇る階段を見つける。アイリに合図し、そのまま二人で階段を駆けあがっていく。それと同時にもう一度、ばん! と大きな銃声がビル内に轟いた。相手はその音だけでどの階にいるのかをカズマに知られたとは思うまい。


「……20階あたりか!」


カズマは階段を一段飛ばして進む。少しでもキリヤに負担をかけたくないと思い、急いで相手と対峙する為に駆けあがった。アイリも負けじとカズマを追いかけるように階段を昇る。しかしカズマの思惑通り、アイリの息はあがっていた。

アイリに申し訳ないと思いつつ、カズマは階段を昇る速度を決して緩めたりしなかった。やがて、カズマ自身も階段を昇るのが辛いと思いかけたその時、ビルの20階へ到着する。それと同時にまた銃声。しかも今度は、かなりの大音量。カズマの言うとおり、敵はここで狙撃していたようだ。


「よし、ここだな……」


カズマとアイリは20階の扉の目の前に立っていた。それぞれの右手には剣が装備されており、いつでも戦える状態だった。


「……行くぞ、アイリ」


カズマの声にこくり、と首を縦に振って頷くアイリ。カズマはハンドサインでカウントする。

3…、2…、1………


「GO!」


カズマは自身の合図とともに、20階の扉を蹴っ飛ばす。扉は音を立てて、部屋の中へ吹っ飛んでいった。


「なに――――!?」


部屋の中には、一人の男が床にうつ伏せの状態で寝そべっていた。そしてその男の前には、キリヤと同じような形の狙撃銃――――スナイパーライフルが設置されていた。これで向こう側のキリヤと狙撃対決をしていたようだ。

男はカズマたちの気配に気付き、うつ伏せの状態のまま、口をあんぐりと開けてこちらを見つめていた。……どうやら、カズマたちがここに来る事が予想外だったみたいだ。


「……お前が、俺たちを狙撃していたんだな?」


カズマはいつになく強気で男に尋ねた。すると、男は立ち上がり、こちらを睨みつけながらこう返してきた。


「……そうだが、それがどうしたんだ?」


カズマの問いに、さも当然の様に応える男。やはり、こいつが俺たちの今の標的であることに間違いはなかった。


「……じゃ、ここでお前を倒しても構わないんだな?」


カズマは剣を握りしめ、前に出す。先に攻撃してきたのはこいつなんだ、俺たちが攻撃しても別に問題はない。と言うよりも、攻撃してはいけないなんてバーストブレイカーのルールには存在しなかった。


「……ふ」


男はただ小さく笑みを零した。その瞬間、カズマの頬をなにかが掠った。ぶん―――と小さい音をカズマの耳に届き、相手の恐怖心をその耳に刻み込むようだった。

カズマの頬を掠った何かは、そのまま敵の右手に握られていた。それは黒く、全長30センチにも満たない物体。その先には、銀色の刃のようなものが……。その物体の正体は、紛れもないナイフだった。小さなコンバットナイフを、あいつはその手に握っていたのだ。


「……カズマくん、大丈夫!?」


心配そうにアイリが駆け寄ってくる。幸いにも、頬を掠っただけだったので大事には至らなかった。せいぜい、HPバーが数センチ縮んだだけで済んだ。


「……あぁ。だけど、気をつけろ。あいつもキリヤと同じ、近距離遠距離どっちもいけるタイプだからな……」


カズマは相手への警戒心をより強く持ち、剣を構えた。相手は近距離遠距離どちらからでも攻撃の出来る優れたプレイヤーだ。まだまだ素人同然のカズマにとっては、かなりの強敵だ。だからこそ、カズマは自身の剣を強く握りしめ、緊張感を持ったまま戦うしかない。

先に攻撃を仕掛けて来たのはカズマではなく、目の前の敵だった。もう一度、ナイフをぶん! と斜め一線に振ってくる。カズマはそのナイフを自身の剣で太刀打ちする。ぎん―――と、鋼のぶつかる音が部屋中に響き渡り、火花が飛び散った。


「……一応、名乗っておこう。オレの名は、『アサシン』。オレに戦いを挑むとは、いい度胸だぜ、オマエ」

「……名乗られたからには、名乗り返さなくちゃな。俺はカズマ。……お前を倒す男の名だぜ」


カズマはそのまま剣でアサシンのナイフを押し返す。アサシンはその勢いのあまり、ナイフを握りしめたまま後退する。その隙にカズマは、アサシン目掛けて剣を突く。剣士専用スキル『ダッシュスパイク』。高速で身体を前に、一直線に突き出すスキルだ。

アサシンは俺の『ダッシュスパイク』を、その黒いナイフで太刀打ちする。が、それでも俺のスキルの威力は収まらない。アサシンは一瞬顔を歪め、俺の繰り出したスキルをステップで移動していなした。


「なるほど……。俺のスキルに勝てないから、そのままいなすとはな……」


俺は感心しながら敵と対峙する。……スキルをいなした相手を見たのは、これが初めてだった。こうやってスキル直撃を回避するとは思っても見なかった。


「……オレくらいになると、スキルをこうやって回避することは容易いことだからな。……今度はこちらから行くぞ!」


アサシンがナイフを持ちかえると、一瞬で俺の目の前へ近づいて来た。


「な――――!」


アサシンは俺が驚く暇すら与えてくれなかった。そのままナイフをぶん、ぶんと振ってくる。俺はそれをかろうじて剣で防御する。俺の防御よりも、相手のナイフでの攻撃の方が速い……!

ナイフは、その刀身が短い分、素早く攻撃を繰り出す事が出来るのだ。なので、連続でコンボを決めたいプレイヤーや、素早い攻撃で敵に攻撃する暇を与えないようにする縛りを好む人にオススメの武器なのだ。流石の俺でも、このナイフの連撃を何度も回避する事は至難の技だ。

アサシンのナイフでの連撃を剣でかわす俺。しかし、アサシンがナイフを上へ突きあげ、俺の剣を弾き飛ばす。


「やばっ……!」


剣を弾かれ、俺の身体は完全に無防備状態となっていた。このままでは、アサシンのナイフが俺の身体に確実に直撃する……!


「ふっ……」


アサシンはニヤリ、と笑うと、そのままナイフを突き出した。剣は完全に俺の頭上にあり、胸元に戻したとしても直撃は免れない……! そのままステップで回避したとしても、確実に腕の一本は失う事になる……! 絶体絶命のピンチだった。


「避けきれない……ッ!」


俺は直撃を免れる事を諦め、そのまま目を閉じた―――――。



――――――がきん。



ふと、俺の目の前で鋼がぶつかる音が聞こえた。おそるおそる目を見開く……。

すると、そこには剣が俺の目の前にあった。しかし、刃先は俺の右手の方を向いており、こちらへ害を及ぼす様なことはしなかった。


「……私を忘れちゃ、困るわよ!」


鈴と響くソプラノの声。俺は左の方へ首を向ける。そこには……白い騎士のような服で身を包んだ少女が立っていた。


「あ……、いり……」

「……危なかったね、カズマくん」


こちらの方を振り向くと、アイリは微笑みを返す。まさに絶体絶命のピンチを、アイリが救ってくれたのだ。


「……ちっ」


アサシンは舌打ちをしながら、後ろへバックジャンプする。


「……ありがとう、アイリ」


俺はアイリの方を向いて、礼を言う。アイリは剣をアサシンの方へ向き直しながら、こくんと頷いてくれた。「大丈夫?」まさにそう言っているようだった。


「……よくも、邪魔をしてくれたな……」

「邪魔……? 私の存在を忘れておいて、その言い方はないんじゃないの?」


悔しそうに下唇を噛むアサシンとは対照的に、アイリの表情は自信満々の笑みが浮かべられていた。その光景を見ながら、俺は改めて剣を構え直す。


「……アイリ、行くぞ」

「……おっけー」


そう二人にしか聞こえない様な声で、目の前の敵、アサシンに立ち向かって行く。


小癪(こしゃく)な! たかが素人二人で、何が出来る!」


アサシンはニヤリ、と笑みを浮かべながら、ナイフを持ちかえ、俺たち目掛けて高速でナイフを振るってくる。俺とアイリは、そのナイフの斬撃を自身の構えている剣で防御しながら、アサシンの隙を探ってみる。

……ナイフがどれだけ速く攻撃できたとしても、必ずどこかに隙が生じるハズだ。そう考えた俺は、わざと攻撃させるように仕向け、隙を探ってみる作戦へと変更したのだ。


「おらおらおらおら――――!」


システムの限界を超えるかのようにナイフを高速で振るってくるアサシン。俺たち二人は、その斬撃を紙一重で防御する。


「―――――ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


その速度を上回るかのように俺も剣を振るって、ナイフによる斬撃を剣で弾き返す。鋼と鋼がぶつかり合い、加速し、さらに高速で音を奏でていく――――。


「は――――!」


俺はナイフの斬撃を、剣で弾き返す。アサシンは手が滑ったのか、はたまた俺の剣の弾き返しが強かったのか、ナイフを後方へ吹き飛ばした。


「な――――!」


アサシンの表情に焦りが浮かんだ。その隙を、俺は一瞬たりとも見逃がさなかった。


「アイリ!」

「……任せて、カズマくん!」


すでにスタンバイしていたアイリは、俺の掛け声とともに、その白き剣に溜めこんでいたエネルギーを一気に爆発させ、アサシン目掛けて一直線に突っ込んでいく。


「――――必殺、『紫電の一閃』!!」


閃光と化したアイリは、そのままアサシン目掛けて音をも超える速度で剣を構えたまま突っ込んでいく。アイリが最も得意とする、貫通能力を秘めた〝細剣(レイピア)〟専用上級スキル『紫電の一閃』だ。

ざん―――! と威勢の良い音とともに、アサシンのHPバーが一気に色を失った。


「う……嘘―――だ―――」


断末魔をあげながら、アサシンは無数のガラスの破片へと変化し、ぱりん! と鋭い音が俺の鼓膜を響かせたのだった。俺とアイリはその音と同時に、その場へへなへな…と座り込んだ。そして、互いに顔を見合わせ、笑った。


「ははは……。俺たち……、やったんだ……!」

「はは…。私たちだけで…………あいつを倒したんだね!」


強敵を倒したと言う達成感を味わいながら、アイリとともに笑った。それを訊きながら、キリヤが俺たちの前へ姿を現した。


「……あれ? 俺の出番、もしかして……なかった?」


ぽかん、と口を開けたまま呆然と部屋の入り口に突っ立っているキリヤを見て、俺たちは尚更笑いを止める事が出来なかった。


「なっ…なんだよ、二人とも。どうして俺の顔を見るなり、笑いだすんだよ……!」


キリヤは俺たちの態度を見て、ぷんすかと怒りだした。


「だって……、さっきのキリヤの顔、今までで一番面白い顔だったから……。ははははは!」

「うっ、うるせー! 折角ここまで急いできたのに、その態度はねぇだろうが! アイリもいつまでも笑ってんじゃねぇよ!」


しばらくの間、俺とアイリは腹を抱えながら大笑いするのだった。後に、機嫌を損ねたキリヤをなだめるのに苦労することになったのは言うまでもない。

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