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モヒートで酔わせて

 僕は半笑いを浮かべて、そこで立ち尽くしていた。みんな動かなくなってしまった。全部僕のせいだ。





 悪い仲間とつるむようになったのがいつ頃のことで、何がきっかけだったのかわからない。気付いたら、俗に言う不良の人たちがいつも周りにいて、どうやら僕もその構成員ってことになっていた。


 別に使い走りってわけではなくて、なんとなく慕ってくれている後輩的なヤツもいて、危なくない程度の迷惑行為をやって鬱憤を晴らす日々。くだらないと思うこともいっぱいあったけど、それなりに楽しく思っていたりして、まぁこういうのも悪くないかもな、なんて考えていた。





 ある時に、他の地域の連中とぶつかってしまって面倒になって、そろそろ終わりなのかなって悟ってしまって。その面倒のときに知り合ったヤツから「これを使うと楽しくなれるぜ」だなんて、カラフルな粉をいくつかもらったんだ。


 自分の最後の集会を盛り上げるつもりで、みんなの飲み物に混ぜて楽しくやろう――と思ったらこれだ。


 口から泡を吹いて、みんな倒れてしまっている。とりあえず手近なヤツのスマホを借りて救急車を呼んでみたけれど、誰かが助かるのもそれはそれで面倒になりそうで、どうしたもんかと思いながら集会所をあとにした。





 眠るなら一人が良い。そんなことを思っていた時期もあった気がするけれど、ほとんど仲間と一緒で遊んでいるうちに雑魚寝することも多かったから、今夜は実はずいぶん振りに独りの晩らしかった。


 月が綺麗だ。どこかの庭で咲いているのか、薔薇の香りが風に混じる。


 どこをどう歩いたのかわからないが、見えてきた小さなバーに僕は吸い寄せられた。カウンター席に座って、バーテンダーにモヒートを頼む。


 しばらくすると、グラスの縁にライムが飾られた洒落たモヒートが出てきた。一口飲むと、よく冷えた液体が喉を通る。爽やかな味わいだが、自分の馴染みのものとはどこか違った。


「――お客様、いかがされました?」


 問われて、頬が濡れていることに気が付いた。


 救急車のサイレンが遠く響く。


 ちゃんと、話そう。


 僕はバーテンダーにこれまでのことを語り出す。後悔に染まってしまった、僕の物語を。


「――それは大変でしたね」


 どの程度伝わったのかわからないが、モヒートを飲み干した頃に彼は頷いた。


「大丈夫。あなたはまだ彼らと一緒にいられますよ」


 何を言っているのかよくわからない。ただ、立ち上がろうとしたのにカウンターに身体がくっついてしまっていて動けなかった。


 眠気が襲ってくる。突然のことに疲れが出たんだろうか。


 身体が鉛のようだ。


「どうぞごゆっくり。良い夢を」


 彼の手にはカラフルな粉が入った袋。


 気付いた時には、意識はもうなかった。


《了》

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