第八話
先日は投稿忘れてました。すみません
壊れた扉、ボロボロの机、割れた花瓶。そんな空間の中心に俺は立っていた。
どうすればいいんだろうか、なにもわからない。
受け入れたくない現実、目の前で死んだ親父さんたち、その光景が目に焼き付いて離れない。
「くそっ……なんだっていうんだよ」
やっぱりダメだったのか? 俺はでしゃばっちゃいけなかったんじゃないか? 今回は、今だけは少しでも活躍できるなんて思ったから、だからダメだったんじゃ……
「ダメだよ」
不意に背中に感じる暖かさ。誰だろう、なんて考える意味はない。今は俺と
「サクナ……」
こいつしかこの家に居ないんだから
「お父さんたち、死んじゃったんでしょ?」
冷や汗が流れ落ちるのを感じる。その一言が俺を永遠の闇に捉えるような、そんな拘束感があった。
いやだ、サクナには、軽蔑されたくない。嫌われたくない、嫌なんだ。誰か助けて……
「嫌わないよ」
「え?」
「前に私はちゃんと言ったよ。カズヤから離れたりしない、ずっと一緒にいるって」
「でも……俺のせいで……」
「カズヤのせいでなに?」
動揺する俺に問い返すサクナ。その言葉には今までの人生で感じたことのない暖かみが込められている気がした。
「救うことができなかったんだよ、俺がでしゃばったから。だからいっそのこと嫌ってくれよ! 離れてくれよ! その優しさが…………今は辛い」
最低だな、俺は。
自分自身に対する苛立ちを、責任を怒鳴ることでサクナにぶつけている。自覚はあった、でも止められない。
一度言ってしまったから、もう後戻りはできない。
「そんなに自分を責めないで?」
「……」
「それに大丈夫だよ」
「何が……?」
「私をちゃんと救ってくれた。カズヤが助けに行ってくれたおかげでお父さんたちは少しでも長く生きていることができた。だからカズヤは何も悪くないんだよ?」
やめてくれよ……大丈夫っていうならなんで……そんなに涙を流してるんだよ!
「サクナ!」
俺は気がつけばサクナを抱きしめていた。
「ほんとにごめんな……でもサクナのことは守るから! 親父さんたちの分までちゃんと!」
「……うん、ありがとう。これからも、よろしく…………ね」
その先の言葉は嗚咽に混ざってよく聞こえなかった。俺はただ、胸で泣きじゃくる少女を強く抱きしめる。
「あのな、ちょっと話聞いてくれるか?」
首が小さくしたに動くのを確認して続ける。
「俺な、小学校の時に母親が浮気して、慰謝料も取られて出ていっちゃったんだよ」
たぶん慰謝料とか言ってもわからないだろうな。でも、今はただ聞いていて欲しい。
「それで学校の先生は俺の事気遣ってくれてたんだけど、まわりの子達はそれを許さなかった。そうしてイジメが始まった」
あー思い出すたびにムカムカする。
「靴がない、机がない、教科書がない。そんなことが一年近く続いた。不幸だったのは小学校の子達がみんな同じ中等部への進学だったこと。イジメはどんどんと悪質になっていき、過労死で父親が死んだのを境に、俺は引きこもった」
驚いたように顔をあげて俺を見るサクナ。こんなこと言っちゃなんだけど、今が一番人間らしい感情が見える気がする。
「それってつまり、カズヤもお父さんとお母さんがいないってこと?」
よかった、過労死なんてわからないと思ったけどちゃんと意味は伝わってたみたいだな。
「それも、ずっと前から……一人で?」
「いや、年上の兄貴がいたから一人ではなかった」
思い出すのは……兄貴に迷惑をかけたこと。いやほんとにごめん。
「そっか……」
「うん、だからと言ってサクナの気持ちを完璧にわかるなんて言わない。殺されたのと死んじゃったのは確実に違う」
母親のことは知らない。
「でもサクナと似たような境遇にはいる。だから少しはわかってあげれるつもりでいる」
「うん……カズヤ」
俺の名前を呼び、また胸に顔を押し付けるサクナ。
「ありがとちょっとだけ楽になった……だいすき」
ホントに嬉しいこと言ってくれるな……こんな俺でも少しは人のためになれてる、それがわかるだけでも十分嬉しいわ。そして最後にかすかに聞こえた言葉は空耳ってことで納得しておこう。その方がお互い幸せだ。
******
「カズヤーお昼ご飯ができたよ」
「わかった、すぐ行く」
返事をして読んでいた本を閉じる。
デーモンの襲来から早一週間、俺は結局いつもの引きこもり生活へと戻っていた。
いや、サクナと一緒に頑張るつもりだったんだけど……予想以上に優秀すぎたんだ、サクナが。
掃除洗濯炊事となんでも完璧。正直俺がいても邪魔になることがわかったのでその辺のことは全てサクナに任せることになった。
ほんとに使えないな……俺。
階段を下りながら壊れた家具たちに目をやる。新しいのを買うかと言う話はしたのだがお父さんのお仕事を片付けてからにすると言って聞かなかったのでそのままにしてある。というかサクナは前述通りに親父さんの仕事をしているらしい。時々親父さんの部屋に入っては何かしらの作業をしているっぽい。
ほんと優秀、一家に一台サクナがいれば完璧だね。
「早く食べないの?」
「ああ、食べるよ」
にしても、こんなぼーっとしてることがここまで優秀なんて……
「カズヤ、酷い」
「え、口に出てた?」
「出てなくてもわかる」
「ソウダッタネー」
全く、サクナにはおちおち隠し事もできないな。いや、特にするつもりはないけどさ。
お、今日も美味しいな。
「ありがと」
うん、口に出さなくても会話が成立するのほんと楽だ。
「でも最近会話してくれること増えたよね」
「……まぁな、なんというか……サクナを一人にした罪滅ぼしだ。べ、別にそれ以上の意味なんかないんだからね!」
「う、うん」
実際にそうだ。俺があの二人を殺してしまったようなものだからな。
「別にそんなこと思わなくていいのに……」
ま、気にすんな。
「……それより、食事終わったらお父さんの部屋に来て欲しい。見せたいものと話したいことがあるの」
「今じゃダメなのか?」
正直めんどくさい、というか寝たい。最近は引きこもりの行動スケジュールに戻ってきてるからな。
「めんどくさいはひどいよ。それにみせながらのほうが説明しやすいの」
「りょーかい、ごちそーさん」
頼まれた時点で断るつもりなんてなかったけど。
「捻くれてる」
「うっせ」
こうやって軽口たたける仲になれたことに、少し安心感を覚える。
「じゃあまた後でね」
「おう」
なんでお前は食事の片付けをしないのかだって? 愚問だな、俺が俺だからに決まってるだろ。
******
食事が終わり、数十分したところでサクナに呼ばれ、親父さんの部屋に入ってきたのはいいが……
「すっげー本の量だな」
本棚一面なんてレベルじゃない、壁一面に本が置かれていた。その様はまるでラノベに出てくる大図書館。実際に見るとなかなか迫力があるな。
「こっちだよ」
サクナに先導され、部屋の奥に進んでいくも、未だに本は変わらず壁一面に並んでいる。
「親父さんってこんなに本を読む人なのか?」
「これは資料が多い。仕事でよく使ってる」
「そういえば仕事って結局何してたんだ?」
「それも今から見せるものの中に入ってる」
入ってるってことは本かなにかなのか?
「この扉の向こう、入って」
言われてみるとやけに真新しい扉が目に入る。まるで後から取り付けられたかのような……って気にしても仕方ないか。
言われるがままに扉を開ける。
「なっ…………なんでこんなところに!?」
扉の先は真っ白い部屋だった。そこには椅子と机と、俺がよく見知った電子機器が一台。
「パソコン……だよな」
間違えることもない、パソコンがそこにあった。