第六話
魔法の読み方は特に考えていません。
字面で判断してくださると嬉しいです
「じゃあいくよ、みててね」
サクナの魔法練習に付き合って見ているわけだが……俺いる必要あるのか?
「Slash erës drapër teh nuselalë 『突風風刃』」
サクナの周りの風が突如として向きを変えて練習用と思わしきカカシに叩きつける。
風属性上級魔法練習か、詠唱も早いし威力も十分。初心者を抜け出した頃って感じだな。
「Kurë dritë shërimin e riparimit origjinale 『完全修復』」
間を開けずに光属性上級魔法でまっぷたつになったカカシを元に戻す。
物質限定の魔法をうまく使ってるな……
「どうだった?」
少し息を切らしながらこちらに近づくサクナ。頬も少し赤くなり今までで一番色っぽく見えたが今はそれよりも気になることがある。
「このメニューは自分で考えたのか?」
「うん、得意な魔法練習した方がいいかなって。カカシはお父さんが作ってくれたの」
よく考えられてるな……これも引きこもりだからかな。なに? 関係ないって?
ばかだな、よく考えてみろ。学校にいって勉強について考えたり、友達関係について考えたりする時間を全て自分のためだけに使えるのだ。それなら個人練習に対して考える密度も自ずと高くなる。よって質の高い練習を考えられる。
とてもひどい言い訳でした。
終わり。
「それで、どう?」
「うん、上出来だと思う」
実際にそうだ。風魔法なら断面を綺麗に切断できる。それを光魔法で直す。綺麗に切れた断面は素早く直せて次の魔法に移りやすい。そしてどちらも得意魔法。使えば使うほどレベルは上がるし発動速度も早くなる。詠唱を暗記すればその分の時間を短縮できる。マイナス点のない練習だな。
「俺の目から見た限りでは完璧だと思う。文句の付け所はないよ」
「ありがと。じゃあ後何回か同じ事するからみてて」
そう言ってまた所定の位置に戻って行く。それにしてもほんとに感情が読み取れない子だな……ここまでだといっそ病気とかを考えたくなる。でも読み取れないだけで確かにあるんだ。でも表に、表情に出てこない。
……考えても無駄か、気になるならお父さんに聞くしかないか。いつ聞けるかわからないけど。いっそ聞きに行けるなんて全く思っていなかったりする。
だって未だにサクナの両親とは業務連絡程度のやりとりしかしてないし。それでも十分進歩してはいるんだけどね。
「疲れた……」
向こうからサクナのつぶやきが聞こえる、体力ないんだな……俺もステータス補正なかったらサクナ以下の体力しかないけどさ。
「がんばろ」
そう言ってまた同じ工程を繰り返す。
なんでそこまで頑張れるのだろうか。辛いことに向き合って、"別の"やり方を探して前に進もうとする。なにがそんな行動力の糧になっているのだろうか。そんな疑問が浮かぶ。
でも同時に答えなんてわかっていた。そして理解する、糧を求めてしか行動ができないから今の俺があるんだ、と。
きっとサクナは考えてない。悪い意味ではなく、ひたすらに頑張ってるんだ。
頑張ることを頑張っている、それは一種の自己満で、無駄なこととしか思えない。そんなことを考えてるから俺は人としてクズで、ひねくれているんだろう。
でもそんな俺が、自分自身では嫌ではない。誇りを持っているまである。だからこそ、サクナの頑張る姿がとても眩しく見えてしまうんだろう。
……寒
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サクナの練習が終わり、俺は部屋へと戻っていた。当のサクナは練習に満足できたのか、今日はいっぱい頑張れたなどと上機嫌で言っていた。多分、上機嫌だった。
そして今俺は手元に水属性魔法で生み出した玉で遊んでいた。具体的にいうならば生み出した水球を無属性魔法の圧縮を掛ける。
そうしてできた玉でお手玉しながら魔法の維持を心がけるといったものだ。
これがなかなか頭を使うしかなりいい練習になると思う。こんな小さな水球なら初級レベルの圧縮で十分だから無属性法の入門にもなる。別にサクナの練習効率に嫉妬したりしてないんだからね! とってもキモいんだからね!
「これはなかなか練習になるな……そして何より手軽だ。でも慣れないうちはあたりを水浸しにする可能性が高いから風呂場で練習すべきだな」
ちなみにこの家に風呂がある。しかもそこだけ文明が開花しちゃったような豪華なのが。正直浮いてる。まあ風呂に入れるんだから文句なんて言ってられないんだけど。
「これは明日サクナに教えてあげるか。こんな練習いらないとか言われたら傷つくからね、言わないでよ?」
……誰に向かって話してるんだろ。
引きこもってた時は独り言なんて脳内で済ませていたから虚しさはそこまでなかったけど最近中途半端に会話するようになってから独り言が増えすぎて辛い。
いや、逆に考えるんだ。社会復帰へ向かっていると。それやだよ、俺はひきこもりたいんだ。なんでわざわざ辛い思いして社会復帰しなきゃならないんだよ。簡単に復帰できる社会を作ってくれよ。
なんで引きこもりに合わせた社会を作らなきゃいけないんだよ、誰だよ初めに社会復帰しやすい社会を作れとか言い出したやつ、社会に謝れよ。俺だよ、ごめんなさい。
「さて、もうそろそろ昼食だな。ダイニング行くか」
そう思って椅子から立ち上がった瞬間に爆音が響く。
サクナが合成魔法に失敗……したわけじゃないよな。この音は……
「玄関か?」
どうしよう、嫌な予感しかしない。
一応しておくか
「『索敵』」
……ビンゴ、最悪の予想的中だ。
数は200程度。室内には既に20匹ほど。
「デーモンさん、なんでまた襲撃ですか!」
俺は一目散に走り出していた。正直なにも考えたくない。下にはサクナと両親がいる。今はそれだけで十分だった。
「全く、人のために全力疾走とか、俺も変わったな」
自分自身に悪態をつくくらいしか、今できそうなことはなかった。