第四話
眩しいくらいの朝日と小鳥のさえずりが耳に入り薄目を開ける。
ここ最近朝日とともに起きることなんてなかったから違和感が半端じゃない。ゲームやってないときはいつも朝に寝て夜に起きる生活だったからな……
「二度寝するか」
二度寝は素晴らしい。自由を体全体で感じることができ、尚且つ幸せな気持ちで布団に入ることができる。現実の布団ほどフカフカではないがベットなだけましだろう。
「だめー、早く起きて」
その言葉とともに体に重さを感じる。何を乗っけたんだ? 石か? そんなことしないで泣いちゃうから。
「起きた?」
女神がいた。じゃなくてサクナが俺の上に乗っかっていた。うわーすごいリア充っぽい。幸せだ。幼なじみがこうやって朝に起こしに来る、オタなら憧れる光景だな。幼なじみじゃないけど。
「聞いてるの?」
「ああ、起きたよ。そこどけて」
くそっ、コミュ障が憎い! こういう時は何かかっこいセリフを言えれば……
「だっこ」
「はい?」
このお嬢さんは何を申しているのでしょうか……
「カズヤだっこ。疲れた。」
……こういう時は同反応するのが正解なのだろうか。落ち着け俺、勘違いしてはいけない。大丈夫、大丈夫。
「朝ごはん冷めちゃうよ? 早く行かないと」
「いや、だっこを迫ってる人のセリフじゃないだろ……そんなに早く行きたいなら先いけ」
「だっこしてほしいからだっこなの。だめ?」
上目使い+首傾げは反則だぁ! 自分の魅力をわかってやってるのだろうか……そうだとしたらサクナ、この歳にして恐ろしい子っ!
「……わかったよ」
「うん」
いや、結局だっこするんですけどねー。あれだ、役得と考えてればいいんだ、中学生位の女の子をだっこできて役得な高2。わぁ、すごい犯罪臭。
まずは体を起こし、お姫様だっこでサクナを抱き抱える。これは修行なんだ……邪な心を捨て去れ。南無三
「顔が怖いよ?」
「ご、ごめん」
にしてもなんだろうか。無感情にじっと俺の目を見つめる青色の瞳。ショートに切りそろえられた黒髪からわずかに漂う石鹸の匂い。これは朝風呂の跡なのか……妙に色気がってちがぁぁぁう!
捕まりたいの!? てか捕まるよ? 俺ってロリコンだったんだ知らなかったーとか言ってる余裕もないよ、犯罪者だよ!
「また怖い顔……笑って?」
そう言って手を伸ばし俺の顔を触る。
こんなにドキドキしてるのはロリコンとして捕まらないか心配なだけだ、けしてやましい気持ちはない……はずだ。
「そ、それを言うならサクナもじゃないか」
「私はいいの、特別なの」
特別ね、羨ましい限りで……でも一瞬さみしそうな表情に見えたが、気のせいだよな。
******
サクナの家に居候、もといひきこもり始めてから一週間が経過していた。その間、朝のサクナ運搬が日常行事と化してしまっていたが特筆すべきことではないな、うん。はじめは少し驚いてた両親も今や「これは跡継ぎが見つかったかね」なんて話をしてることも知ってるが関係はないよな、うん。外堀埋まってるね、いつからこんなことになったんだろか。
話を戻そう。書斎で調べものをして、歴史などを漁っていたらなかなか面白い結果が出てきた。
今はゲームの時代より少し古い、大体100年前ってところだ。そのためか知らない土地の名前なんかも出てきていた。地名はすべて暗記していたからゲームにはなかった土地で間違いない。そしてゲームで未実装区域だった場所も、当然ながら情報があった。ゲーマーとして行ってみたくはあるが……一流の引きこもりである俺の非外出意欲には勝てないのだ。どこまでもクズだな。知ってたよ。
「今日の調べものは終わりでいいかな。さて、寝るかな」
まだ太陽一一この世界でも太陽だった一一は真上に近い位置にあるが関係ない。むしろここ最近が変だったんだ。俺の生活リズムは昼に寝て夜に起きる。つまり真昼の今でも睡眠を取ることはたやすい。というわけでねる、起こさないでね。起こしてくれるような人もいないけど。
その時響くノック音。なんだよ……これから夢の国へ旅立とうというのに。ネズミの国とは違うからね?
「はいるよ」
声からしてサクナか。暇なのか?
そうして扉をあけてサクナが部屋に入ってくる。相変わらず無表情なことで。
「お話しの時間だよ」
「そんな時間いつ決めた?」
「今決めたの」
「なるほど、そりゃ俺が知らないわけだ。なら俺は寝るぞ」
「まだお昼だよ?」
「知らないのか? 俺みたいなひきこもりは本来なら昼間にねるものなんだ。よってこの行動は正しい。ただし過ぎて回りから変な目で見られる程だ。完璧って辛いね」
……頼む、どうせなら引いてくれ。純粋にわからない様子で首を傾げられると精神的にきついモノがある。自業自得なんだけどさ。
「カズヤはたまに難しいことを言うよね? 物知り」
やめてくれー! これ以上俺のメンタルを削るのはやめて! もうライフ一一精神的なものだが一一はゼロなんだよ!
「そ、そうなんだよ。すごいだろ?」
「うん、カズヤはすごい」
自分の震える声とキラキラした一一あくまで当社比ではあるが一一サクナの瞳でついにK.O。俺は床に突っ伏した。
「どうしたの? 辛いの?」
うん、心が辛いんだよ……プロの引きこもりである俺のメンタルを崩壊させるとは……やるな。
「大丈夫だ、問題ない」
なんとか起き上がりずっと思っていた疑問をぶつける。
「そういえばなんでサクナは学校に行かないんだ? あるだろ?」
「あるけどいっちゃダメなの」
行っちゃダメ? よくわからん。そして今のサクナは今まで見た中で一番表情が分かり易い。つまるところ落ち込んでいるのだ。
「わたしね、すこし普通の人と違うの。人の心に干渉出来るんだって。それもたまに無意識に」
サクナの口から出てきたのはラノベだとチートレベルに認定させる能力だった。心に干渉、できれば読心も精神崩壊もたやすい。だがサクナは言った、無意識にも、と。
「それでね、たまにお友達の心を見ちゃって、秘密をばらしちゃったりしたの。そのせいで嫌われちゃってね。能力が特別だからって先生方は守ってくれてたんだけどそれも限界で、ついには卒業させてあげるから学校は来なくていいよって」
想像以上のクズだった。教師も、生徒も。やっぱりどこいっても社会は腐ってるんだな。やっぱり社会が悪い、サクナが家に引きこもってるのもそのためだ。この社会を変えたい、でもそんな力はない。Q、どうしますか? A、諦めます。悪く思わないでくれ、これが俺の生き方だ。なんだよ、下手な教師よりよっぽど質が悪いんじゃねーか。さすが俺。
「それから家で勉強するようにしてるの。もう少しで勉強の時間なんだ」
勉強か……最後にしたのいつだったっけな。引きこもり生活を始めてから、というかまだ学校に行っていた間でさえまともに勉強してなかったからな。
「一緒に勉強する? カズヤは本読んで勉強してたんでしょ」
なんで知って……いつの間にか見られてたのか。にしても周りによく目が行く子だな。
「ついてきて私の部屋に案内するから」
そう言って小さな手を差し出してくる。握っていいってこと? 握手じゃないよね? ハンドシェイクじゃないよね? これは一緒か。
などとくだらない脳内のやりとりをしながら手を取る。
そして俺は若干の感動を覚えていた。
読心ってすごい。俺が言葉を発しなくてもやり取りが成り立ってるよ。すごいよ、コミュ障御用達の能力だね!
「あ、そうだ。聞き忘れてた」
俺の手を引っ張り、自分の部屋へと先導しながら、こちらを振り返らずにサクナが言葉を紡ぐ。
「カズヤは考えてることがほかの人と違って全然わからないの。考えていることがすっごい複雑。理解できない単語もあった。私がバカなのかもしれないけど、なんでかわかるの。
"この世界にある言葉じゃない"
って」
相変わらず無感情な言葉。しかし俺を動揺させるには十分すぎる言葉だった。
「ねえカズヤ」
やっとこちらに顔を向けるサクナ。しかし相変わらず瞳には感情というものはみられない。
「あなたは、何者なの?」