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第十話

約50分の遅刻

 「カズ兄、もうそろそろ限界」


 頭に衝撃を感じて目を開けると細い棒を持ったサクナが目の前に立っていた。


 「おはよう」

 「こんばんは。もうそろそろ夜ご飯の時間だよ」

 「……何時間寝てた?」

 「私の知る限りでは18時間」


 順調に現代にいた頃よりクズになっていってますね。流石に18時間もねることはなかったよ。


 「それで限界って?」


 たしかに俺のお腹は空腹で限界だけど。なんてったって18時間も寝てたんだからしょうがないね。


 「カズ兄のお腹なんて知らないよ。お城に行く話、覚えてる?」


 相変わらず起伏の少ない声で俺の冗談を一刀両断する。


  「ちゃんと覚えてるよ。流石に2週間前のことを忘れたりしないから」

 「ちがう、もう2週間」


 ……うん、そこに関しては少し反省してる。

 もうちょっとひきこもりたいと駄々をこねていたら気がつけば2週間も経っていた。


 ちなみにそのあいだに呼び方まで変わっていた。どんな心境の変化かは知らないが、家族を失ったから家族の代わりが欲しかったのかな、とか思って納得している。


 朝起こしに来てくれる妹か……こんなに可愛いんだったらたしかに良いと言う奴の気持ちがわかるな。


 「もう限界」


 そうして最初の言葉に戻る。どうやらもう引き伸ばすのは無理そうだな……


 「わかった、じゃあ行くか」

 「ありがと、じゃあ今すく行く準備して」

 「その前に夕飯食べさせてもらえたら……」

 「知らない」


 神様、最近妹(仮)が冷たくなってしまいました。どうしてでしょうか? 引きこもってるからだろ、自業自得だ、だって? うん、その通りです。さすが神様。


 何だこの茶番。


 「しょうがない、着替えの服と……」


 鳴り止まぬお腹を抑えつつ、荷造りを進めていった。



 ******


 「準備できた?」

 「完璧だ」


 扉の隙間からチョコっと顔を出したサクナに答える。

 貸してもらったカバンを背負って扉を開けるとそこには美少女がいた。


 ……違う、サクナだった。違うわけじゃないけど。


 「どういうこと?」

 「いや、気にしないでくれ」


 そこにはいつもどおりの格好ではなく、年頃の女の子らしくおしゃれをしたと見られるサクナが立っていた。


 薄めのピンクのワンピース風の服で清楚さの中に年相応の色っぽさが混じって……


 「カズ兄のえっち……」

 「ごめんなさい!」


 うん、何を言ってるんだ俺は。

 確実に性犯罪者のそれと同じだった気がする。なにか通じるものを感じた。


 ニートの引きこもりで二次オタで性犯罪者予備軍か。救いようがないクズだな。一度顔を見てみたいよ。鏡見ろよ。


 「で、歩いて行くのか?」

 「そのつもりだよ」

 「どれくらいの時間がかかる?」

 「5日くらいかな?」

 「……その間はどうやって寝るんだ? みたところ野宿道具みたいなのもなさそうだけど」

 「……考えてなかった」


 忘れてた、この子ちょっぴりお馬鹿だった。


  「むぅ……」


 そう唸ると考え込むような素振りを見せるサクナ。


 俺も一緒に考えてみるが、できそうなことはなさそうだし……


 「あ、あった」

 「なに?」

 「そういえば俺木工のスキル持ってたわ。それも高レベルで」

 「……なんで持ってるスキルを忘れてるの?」

 「量が多いんだ。しょうがないだろ」

 「何個?」

 「約30」

 「それは多い。ならしょうがない」

 「だろ?」


 いやでも忘れてるくらいだし、正直使ってないスキルもあるから実質で言ったら20くらいなんだけどね。


 「じゃあちょっと木でも切ってくるわ」


 まったく、なんで労働しなければいけないんだ。魔法で切り落とせれば楽なのにそうするとポリゴンになって消えるから斧で切らなければいけない。

 運営さんもめんどくさいことするよな。いや、普通か。


 「言ってらっしゃい。ご飯作って待ってるね」

 「おう、頼んだ」


 こんな会話してたら夫婦みたいだな。


 ……ごめん、今のなしで。

 自分で言っておいてなんだがクソ恥ずかしいな。


 第一相手は中学生こちらは高校生。道徳的観点からみて問題あるし第一最近なら兄と呼んでしたってくれてるのであってそれで…………ごめん、ほんとにごめん。


 それから一時間して木を切り終わった頃には俺の体は筋肉痛だらけで動ける状況ではなかった。

 なんでステータス高いのに筋肉痛にはなるんだよ……謎すぎるだろ。



 ******


 「おつかれさま」

 「おー……」


 サクナに膝枕されて団扇で扇がれながら俺はクラクラしていた。


 サクナの膝柔らかいなーとか団扇ってこの世界にもあったんだなーとか考えていたら余計に頭が痛くなってきた。

 ほんとにさっきから俺はどうしたんだろうか。


 「馬車作るのは後からでもいいから少し休んでて?」

 「さんきゅ」


 そう言葉を交わすと、揃って黙り込む。

 もとから会話が得意ではない二人だ。話題がないなら黙るのは当たり前と言える。


 なんだろうな……この沈黙すら心地よく感じる。

 元の世界では味わえなかった感覚をサクナは色々と味合わせてくれるな。


 「ほんと、ありがとな」

 「うん」


 意味が通じたわけではないだろうが、何も聞かずに返事をしてくれるサクナ。


 サクナに会えてほんとに良かったな……なんて、こんなこと言ってたらちょっと主人公っぽいかな。



 ******


 「よし、もうそろろ作り始めるか」

 「大丈夫?」

 「作るのはスキル補正が多いから問題ない」

 「補正って?」

 「あー……ま、気にすんな」


 そっか、スキルで作るのが当たり前だから補正があるのが普通なのか。


 さて、まずは手頃な大きさに切りそろえてっと。


 「『木工:馬車』」


 声とともに瞬時に切りそろえられた木材が出現。それを手にとってなんとなくで組み立てていくと何故か馬車ができる。


 ……ほんとなんでなんだろうか。よくわからん。


 「はやい……」

 「レベル高いからな、ほら、乗れ」


 そう言って手を差し出し、サクナの手を取って引き上げる。


 「でも馬なんていないよ?」


 すっごい今更な言葉が飛んできたがそれは予想済みだ。


 「大丈夫、俺に考えがある」


 訳がわからないと言うように首を傾げる。久しぶりに見た気がするなこれ。


 「とりあえず座ってろ。結構スピード出る気がするから」


剣を抜いて馬車の窓から外に出す。

 失敗したらひどいことになるからな……集中しないと。


 「ループ:Flaka Eksploziv ndikim rrezatimi xhiruar 『爆炎波』」


 詠唱が終わると抜いた剣先から激しい爆風が炎を伴って放たれる。それがエネルギーとなって馬車が信じられないほどのスピードで走り出す。


 魔法自体はループをかけてるので永続的に放たれる。

 MPの消費はマッハだけどね。


 「ふわやぁ!?」


 うしろから素っ頓狂な声が聞こえた気がしたがきっと気のせいだ。怪我する前に馬車は止めるけど。


 にしても俺って天才かもしれない。こんなのを思いつくなんて他の人にはできないだろうな。

 発想的にもMP的にも。


 「ゆれ……ひど……い」


 そんなにひどいかな? パッシブのスキルレベルが上がるに連れて三半規管も強化されてるのかも。それだったら納得いくな。


 「このペースなら一時間くらいで着くはず。それまで頑張れ」

 「カズ兄……なんで平気なの……?」


 そこに関してはおにいちゃんも理由わからない。

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