プロローグと言う名のテンプレ
どうもお久しぶりです、海雪です。
旧作に関しては近いうちに完結させます……きっと。
少し書き溜めしているので続いて1話も投稿します。
しっかりと完結させますのでお付き合いしてくださると嬉しいです。
このセリフを旧作でも言ったことは気にしないようにします。
聞きなれたキーボードタップ音が部屋の中に響きわたる。
やっぱりこの音は素晴らしい。
いつまで聞いてても飽きない。
それこそ24時間ずっと聞き続けていても飽きないだろう。
だから死ぬまで触り続けよう。
そのためにはこの部屋にいなくちゃならない。
だから俺は社会に出ない。
完璧ないい訳じゃないか。
世間の引きこもりに教えてやりたいよ。
でも、人と話すの嫌だからこれは俺だけが知ってることだ。
なんかちょっぴり特別な気分。
世の中にはプロのぼっちというのがいるらしいが、そんなちんけな輩とは訳が違う。
俺はプロのぼっちであり、プロのコミュ障であり、プロの引きこもりなのだ。
ここまで完璧なやつはいないだろう。
「カズ、仕事行ってくるな」
下の、おそらく玄関から兄貴である『白木 悠也』の声が聞こえてくる。もうそんな時間か。ふと時計を見ると、時計の針は7時を指していた。午前か午後かはわからないけどね。
俺の部屋年中暗いし。
とりあえず床を2回、3回、1回と続けて叩く。
「わかってる、じゃあ行ってくるな」
扉の開く音と共にこの家から人の気配が消える。
兄貴は変わった、俺からしたらいい意味で、世間一般としては悪い意味で。母さんが居なくなり、父さんが死んだとき、俺の事で大喧嘩したのに今じゃすっかり俺に対して唯一の理解者だ。それに俺の床ドン語を読み取れるまでになっている。そう、床ドン語だ。これを開発した苦労話などもあるが……話せば長くなるから割愛しよう。
そんな兄貴だからこそ、食事の時はちゃんといっしょに食べるようにしてる。まぁ俺は何も会話しないんだけどね!
「さてと、もうそろそろかな」
俺は攻略サイトを閉じ、アップデート状況を確認する。どうやら問題なく時間通りに終わりそうだ。
その時、パソコンがメールが届いたことを知らせる電子音を鳴らす。
このアドレスはネトゲの人と……
「このアドレスは?」
きていたもう一通のアドレスは全く知らないものだった。
登録し忘れてたとか、アドレス交換とかかな? いや待て、俺のパソコンにはこのネトゲの仲間(たったの一人であるが)のアドレスしか登録されてなかった。だって俺友達とかいないからな。べ、べつに悲しくもないし泣いてないからな!
いや待てよ、リア友がいなくてもネ友は……一人しかいなかったな。知ってた。
「はぁ……どうせスパムとかだろ。確認だけして捨てるか」
ため息と共にメールを開く。
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From:『薫風』隼人
To:白夜
件名:アプデ後の
本文:今日からのイベント、勿論参加しますよね? 白夜さんのことだから今もアプデ終了を待ちわびてパソコン開いて待ってたりして?
ではまた後ほど。
あ、返信無いのはいつもどおりと思ってるんで気にしないでください。
そんなの気にならないほどに尊敬できるトップクラスプレイヤーさんへ
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……ネ友にまでコミュ障を理解されてるレベルだよ。たしかにメールとか返したことないけど、だってなんて返信したらいいかわからないし、返信来なかったら泣くからな。だから返信しない。そうしたら相手も返信する手間が省けるしナイスアイディアじゃん! 俺ってば天才ね。
……まぁ隼人君はいい人だ。リアルの人達よりもずっとね。だから許してくれてるよね? きっとね? 嫌われてる可能性もなきにしもあらずだけど。
「あと5分か」
脳内芝居を繰り広げながら時計を確認すると、アップデート終了まで残り5分と迫っていた。
はやく残り一通も見てログインしよう。
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From:No Data
To:白夜
件名:おめでとうございます
本文:あなたは『Skill Confused World 』のトッププレイヤーに選ばれました。アップデート終了後のログイン時に自動的に報酬がアイテムとして送られます。それでは楽しい旅を。
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「これは……イタズラか?」
俺は一瞬悩んだ末に結論を出す。
だってNo Dataとか怪しすぎるし、普通こういうのは運営から送られてくるものだろ?
「まぁそのアイテムを見たあとでもいいか」
もし本当に配られていて、それが有害な物なら運営に問い詰めればいいか。
どうせイタズラだし何もないだろうけどな。あれ? これってフラグじゃね?
「おっと、もう終わったか」
あわてて俺はパソコンを閉じ、ベットに置いてあるヘッドホン型フルダイブ型ディバイスを装着し、寝転がる。
既に電源はつけてあるので、すぐさま起動時の機械音が鳴り響く。
そうして俺は社会のクズで引きこもりの白木和也かずやからSkill Confused Worldのトップクラスプレイヤーである白夜へと成り代わる。
電脳世界に引き込まれていく時の電子音、その音が俺の現実逃避を手助けする。キーボード音の次くらいに好きだな。
──さて、理想郷エデンへと行こうか──
意識が飲み込まれる中、俺は自嘲気味に呟いた。
──厨二乙、と。