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職業のない者はフリーダム

「早くギルドに登録しようぜ。じゃないと他プレイヤーに袋叩きにされるぞ。」


「いや、それはおかしい。」


「何がだ?」


「ギルドに登録しないとプレイヤーから攻撃されるのは変だろ。」


「フリープレイヤーはカモにしてアウトサイダーだ。殺人鬼や英雄になりたいなら止めやしないが……、ハードだぞ?」


「これ子供向けゲームだよね。さっきから殺伐としてるけど。」


「プレイした子供の顔つきが変わると評判だぜ。」


「リュー……、このゲームやめない?」


「まだ始めたばかりだろ。ほら、新人ご用達の街、ニューシティーが見えてきた。」


ゆるやかな坂道になっていた場所を下ると、街の輪郭が見えてきた。建物の背は高くなく、赤味の強い煉瓦、あるいは切り出した石で造られた家並みが見える。


「一応ファンタジックだな。」


モラルが無さそうな世紀末なプレイヤー達と違い、このフィードルは妖精の国として造り込まれているようだった。


「しかもリアルだよな。それにきれいだし。」


リューが嬉しそうに同意する。ゲーム性のみ着目するのではなく、こうした外観部分も気に入っているようだった。意外である。


「天崖の城っつーすげぇ街があるんだけどよ、まだレベルが足りなくていけてないんだよなー。そこに住む妖精は昆虫系じゃなく、鳥とか蝙蝠の羽を持ってるんだぜ。」


「やっぱNPCは妖精なのか。」


「当たり前。ワンダーランドだぜここ。」


「台無しにしてるのはプレイヤーか……。」


「それはそれ。これはこれ。」


リューがニヒヒと笑う。奴は巨大な剣を背に掛け、黒いマントと鎧を身に付けていた。


剣の柄に手を伸ばし構える。


弾丸のように速い、しかし狙いの甘い黒い毛玉が草むらから飛び出し俺から3歩程離れた地面を抉る。



跳弾黒兎チョウダンコクト。雑魚モンスターだ。」


リューの振る大剣が方向転換にもたつく黒兎を薙いだ。黄色と赤の火の粉と閃光が発生しモンスターの姿が消える。


「へぇー、こんな感じでモンスター出てくるのか。油断してたらすぐ死にそうだな。特に武器もない布の服しか装備してない俺は。」


「ログインポイント間違えて初心者が死ぬのはよくある事だ。気をつけろよ。」


「俺最初から街でログインしたかったな。」


「killされたいのか?」


「街の方が殺意が高い……のか?」


「偶に。」


「GMはいないのか!ここには。」


「アサシンと山賊とPKの人ならいるよ。」


「安全地帯がない。プレイヤーと出くわすのが嫌になってきた。」


「最近できた聖騎士ギルドを粛清しようと躍起になって、街自体がピリピリしてるんだよな。傭兵ギルドの俺としては金払いのいい方につくけど。」


「傭兵なのか。ていうか、ギルドって種類かなりある?」


「9つあるよ。請け負えるクエストも大分違うから、所属はよく考えた方がいいぞ。」


「結構細かそうだな。そこら辺の設定。」


「だから説明書読んどけっていったじゃん。途中で職業変えるとかマジないからな。で、俺のオススメは傭兵!用心棒とか紛争が主なクエストで、健康的なPvPが楽しめるぞ。」


「PvPは普通にあるのか、恨みを買いそうなジョブだな。」


「PKギルド程じゃないよ。あいつらプレイヤーに一度でもダメージ与えた事のある奴ならkill対象に出来るんだぜ?別名バーサーカーギルドだよ。」


「何かアサシンと被ってない?」


「違う違う。アサシン…というか暗殺者ギルドは賞金首を対象にしたのが主だよ。PKギルドの奴は見境なしで、戦闘の終いには味方も敵も攻撃しだすからな。あいつら一人勝ちが最終目的だから気をつけろよ。」


「PvPないのがいい。俺雑魚モンスター相手にしとくわ。」


「ええ!?今回のイベントはPvPが主だぞ。PKゲームマスター主催のキルデスパーティーだ。PKギルド所属のプレイヤーを倒すと"張り付く殺意"っていう呪いアイテムが貰えるんだ。敵味方の特殊攻撃を対象に向ける中々いいアイテムだぞ。欲しくないか!?」


「初心者殺しのイベントじゃねーか!いい加減にしろ!!」


「だから総出でたこ殴りにするんだよ。チームを組めば皆貰えるイベントだし。」


「いいよ俺、いらない。PvPのないギルドに入るわ。……、まさかないとかないよな?」


「つまんねーな。職人ギルドぐらいじゃないか?対人を想定してないの。」


「よし!職人ギルドに行こう!」


街の門を潜る。街の地図や看板がないかと辺りを見回した。リューはいじけて役立たずだ。


PvPとかないわ。格ゲーとか苦手なのに。職人っていうことは生産系だろう。物を作るのはあまり得意ではないが、リューに巻き込まれるよりは、はるかにマシだ。


「おお!」


リューが声を上げる。


「何だよいったい。」


リューの視線の先を辿る。


街の角から手を振る姿が見える。白い仮面を被り、ピッチリした服を身にまとう暗色の男と女。


「にいーちゃーん!」


「うわぁ。」


間違いない。リュー弟だ。リュー弟が出たぞ。


「ちょっと待ちなってコウ!あんまり目立つと狙われるよ!」


女の方は仮面を被ってないが垂れ布で顔を隠していた。職業アサシンなのだろうか。


「にいちゃん早かったね。無事スイにいちゃん連れて来れたんだ。」


「骨折った癖に元気だなお前。」


「ゲームの中のオレは強いからね。」


リュー弟の戯れ言に混じり女が声を掛けてくる。


「あ、えーと初めまして。」


「キィちゃんから借りたのか。」リューが弟と話す。リューはどうやら彼女(仮)と知り合いのようだった。


「どうも初めまして。スイです。」軽く頭を下げて挨拶を交わす。


「どうも、キィと申します。」


彼女(仮)が名乗り垂れ布を捲った。ショートカットの女の子だ。


「ふむ、よくできたキャラメイキングだ。」


俺はキャラの造形を誉める。


「やだな、ほとんど地ですよ地。」


彼女(仮)が照れつつ謙遜する。


「いやいや、よくできてるよ。ネカマかー、こうして見ると新鮮だな。」


ネカマを確認するのは初めてなので、じっと観察する。


「ん!?」


キィ君の動きがピキリと止まる。


リュー弟が俺の発言にぶっと息を吹き出す。


「えっと、スイさん?」


「何かねキィ君。」


「何で男だと思ったのかな?」


キィ君を指差して腹を抑えるリュー弟の爪先に、腰から取り出したナイフを軽やかに投げるキィ君。その滑らかな動きに対処出来ず、10ダメージ食ったー!とリュー弟が騒いだ。


「リュー弟にかわいいガールフレンドがいるだろうか。いや、そんなことはありえない。ならばネカマをする友人ならいるだろうか?それならばいるに違いない!ズバリ消去法だ。」


キィ君の顔から怒りが消え、何処か哀れみを感じさせる表情を浮かべた。


「流石コウ君の兄の友人だ。思考回路が一つ飛び抜けてるね。明後日の方向に。」


「スイはいい奴だけどアホなことを言い出すからな、まぁ許してやってくれ。」


リューがキィ君に偉そうにそんな事を述べる。アホじゃねぇし。どの口が言うか。


「コウ君と同じ学校のクラスメイトで、私は女です。コウ君と友達になったのはVRMMOつながりですから……。」


「はははっ、そんなまさか。リュー弟に女友達がいるものか。俺にいないのに。」


「スイにいちゃん、キィはほとんど男みたいなものだよ。だからスイにいちゃんは間違っちゃないよ!」


「ちょっとヒドスギやしませんかね?どう思います?リューさん。」


「殴っていいと思うよ。ここゲームだし。」


「ひゃあ!」


キィ君がナイフを斬りつけて来た。リュー弟へは投げナイフ、俺には接近戦で。


「たんまたんま!俺武器ないし!」


「すぐ暴力に訴えるのやめろよ!キィ!」


「キルデスパーティーの予行と思えばいいぜ。頑張れよお前ら。」


「ワンキル!ワンキル!君が死ぬまで斬りつけるのをやめない!」


「この子怖い!」


「スイにいちゃん!オレの代わりに死んで!」


「俺を売ろうとするなリュー弟!」


五分後。


「ちっ。」


キィ君は飽きたのかナイフをしまう。


「全く、これだから最近の若者はキレやすいと言われるんだ。なぁ、リュー弟。」


「本当だよね。導火線短いよキィ。」


「私のワンキルリストにお二人はのってますからね。」


「え……。」


「キィは暗殺者ギルドでも高ランクだからすぐにkillされるよ。やったねリューにいちゃん。


「キィはやっぱりアサシンなのか。だとするとリュー弟もアサシンか?」


「そうだよ。所属はPKギルドだけど。」


無言で俺はリュー弟から距離を取る。プレイヤーキラーかよコイツ。


「まぁ普通引きますよね。」


キィ君はさもあらんといった様子だ。


「おう、だから皆でチーム組んでコウをボコボコにするぞ!」


「血も涙もないな。」


「PK仲間と返り討ちにするから問題ないよ。にいちゃんには負けないからな!」


リュー弟がムッとする。まぁ自動的にこのメンツだと、イベントで仲間外れになるしな。


「えと、確かイベントは6時からでしたっけ。」


キィ君がシステムウィンドウを開く。現在時刻とスケジュール表が表示された。


「いま4時だから、あと2時間後か。」


リューがふーむと腕を組む。


「俺は参加するつもりがないから関係ないな。あ、キィ君。職人ギルドが何処にあるか知らない?」


「参加しないんですか?職人ギルドならこの道を真っ直ぐいってここから2つ目の十字路を右に曲がってすぐです。キルデスパーティー、日頃の恨みを晴らすいい機会なのに……。」


「ありがとう。ストレスでも溜まってるのかい?キィ君。」


「ええ、いまさっき溜まったばっかですよ。」


うふふと笑う。目が笑ってない。根に持つタイプかぁ。男はしつこいと嫌われるらしいぞ。


「何かいいましたぁ?」


「いいえ何も。それじゃ俺はギルド登録に行ってくる。」


俺が歩き出すと後に続いて三人がゾロゾロついてくる。ひまなんですね、分かりますけども……。



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