天丼流vs海鮮丼流
連続投稿のにこめのほうです!
ほらーかこうとしたらへんなことになりました!
隣人◇やる気装置もよろしく!(宣伝)
「フッ、ここか」
俺は天丼流道場の扉を見た。
いたって普通の道場だ。
扉の上にはでかでかと『天丼流道場』と書かれた看板が打ち付けてある。
俺は扉を空けると挨拶をした。
「頼もう!」
一週間前。
親父は俺と海鮮丼流道場のリーダーを賭けた試合をし、負けた。
海鮮丼流の試合はどちらかが倒れるまで続けなくてはいけない。
死闘の末、親父は倒れた。
親父は俺の腕のなかで、静かに言った。
「まぐろよ……、強くなったな……」
「そんな……、口を開くんじゃねぇよ親父!」
「ふふっ……、最後の海鮮丼流かつおのたたき突きは見事だった……」
「そんなことねぇ!親父の海鮮丼流ホタテ張りには遠く及ばねえよ!」
「しかし……、お前は実力差を知恵で埋めた……。それだけで海鮮丼流道場のリーダーに相応しい……グフッ」
「お、おい…!親父!」
「もう……、ここまでのようじゃ……。後は頼んだぞ……まぐろ………」
「親父!親父ィィィィィイイイ!!」
親父はそのまま意識が途切れた。
「う、うおおおおおおおっ!」
俺は涙を流す。
後ろで見ていた門下生たちも、わんわん泣いていた。
俺は拳を握りながら立ち上がると、門下生たちの方を向き言い放った。
「俺は!俺はこれから少しの間、修行の旅に出る!」
「そ、そんな…。道場はどうするのですか!?」
門下生の一人、いかすみが狼狽えながら聞いてきた。
「いかすみ!道場はお前に任せる!俺は技を磨き、海鮮丼流の更なる繁栄に向かうために勉強してくる!」
『リーダー!』
「じゃあ、行ってくるぞ!」
「いってらっしゃいませ!」
俺は、今目の前に立っている天丼流の門下生たちを見ながら、全てを思い返していた。
すると、スキンヘッドで身長が2メートルはありそうな門下生がやって来た。
「おい、お前どういうつもりだ…?冗談なら今すぐ出ていけば許してやる」
スキンヘッドは俺を睨み付ける。
「冗談なんかじゃない。俺は正真正銘道場破りに来たんだ!」
そう答えると、スキンヘッドはフンッと鼻で笑いながら殴りかかってきた。
「そういうことはこの俺様のおもてなしを受けてからいいな!」
俺は素早く回避する。
右、左、右、左……足!
スキンヘッドの攻撃は単調で、簡単に見切ることができた。
「あ、あいつにんじんさんのおもてなしを見切ってる!?」
「俺、にんじんさんのおもてなしが避けられるところなんて、師匠以外見たことねえぞ!」
「まさかにんじんさんの天丼への愛が足りないっていうのか!?」
スキンヘッドは「にんじん」という名前らしい。
にんじんはムキになって、腕を振り回した。
終わりだな。
俺はにんじんの後ろに回ると、手刀で気絶させることにした。
「そこまで!」
俺とにんじんは動きをピタリと止める。
俺は声の主の方を見た。
……こいつ………強い……。
俺はそう直感で感じた。
男は道着姿で目が細く、ちょび髭が生えている。
声の主である男は、にんじんに言葉を投げかけた。
「にんじんさん。私はいつも言っているはずです。どんな時であれ相手に敬意を払いなさいと。でなければ最高のおもてなしはできませんよ?」
「はっ!申し訳ございません師匠!」
にんじんはそう言うと膝をついた。
つられて門下生たちも膝をつく。
どうやらここのリーダーはこの男のようだ。
こいつを倒せばまた一歩、修行の道が完成に近づく。
俺はにやっと笑う。
「おい、俺は海鮮丼流のまぐろだ。お前は?」
すると男は俺のほうに向き直り、問いに答えた。
「私は天丼流のころもです。にんじん、立会人をお願いします」
にんじんは頷くと、俺ところもの間に立った。
「これより、海鮮丼流まぐろと天丼流ころもの試合を開始します。では、はじめ!」
合図がかかっても俺たちは動かない。
一瞬でも隙を見せたら殺られるからだ。
長い。
今、俺たちは精神力の削り合いをしている。
と、ころもが目を見開いた。
それが開始の合図だったように、俺たちは動き出す。
「海鮮丼流!イカの刺身チョップ!」
「天丼流!さつまいも揚げ切り!」
チョップが交差する。
俺たちは、バッと間合いをとると一瞬にして詰める。
「おおおおおおおおおっ!」
「はああああああああっ!」
「「はぁ……はぁ……」」
どれだけ攻めてもどれだけ守っても、試合は均衡を崩さない。
「な……なんだよこれ……」
「俺はこんな試合……見たことねえぞ……」
「師匠が攻めきれないなんて……そんな馬鹿なことが……」
俺たちの試合に門下生たちは驚愕しているようだ。
よし!
俺は自分の中で気合いを入れ直すと、前を見る。
身構えて足に力を込めた。
「これで……決める!」
叫ぶと同時に俺は地を蹴った。
しかし、相手も同じことを考えていたようだ。
「天丼流奥義!海老天砲撃ィィィィィ!」
「海鮮丼流奥義!かつおのたたき突きィィィィィ!」
技が交差する。
ころもの左パンチは俺の頬に、俺の左手突きはころもの腹に。
「かはっ……!」
「ぐっ……!」
そして、俺は気を失った。
気を失っていたのは一瞬のようだ。
しかし、体が動かない。
ころもを見ると、案の定ころもも転がっていた。
目は開いている。
どうやらあいつも同じ状況らしい。
「師匠ー!」
「立ってくれ師匠ー!」
「師匠、負けないでくれー!」
いや、状況は違うようだ。
ころもは弟子たちからエールを受けている。
少し羨ましい。
俺はなんとか立ち上がろうとした。
その時。
「すいませーん!出前でーす!」
出前?こんな時に?
俺は出口を見た。
どんぶり屋のようだ。
弟子の一人が全員分の金を払っている。
「毎度ありがとうございましたー!」
出前の男はお礼言うと、帰っていった。
「師匠!一旦試合中断して飯食いましょう!」
にんじんが試合はもういいのかどんぶりを前にうずうずしている。
その様子を見かねたのか、ころもが言った。
「仕方ないですね…。では皆さんで食べましょう」
『いえええええい!』
弟子たちの叫びで道場が揺れた。
楽しそうだ…。俺のはないだろうから匂いだけで我慢だな……。
「おい!天丼を人数分頼んだはずなのに、余分に海鮮丼が入ってるぞ!」
と弟子の一人が叫ぶ。
ころもはふっと笑った。
「なら、まぐろさんにあげてください」
俺はぎょっとする。
「い……いいのか?」
「ええ、どうせ誰も食べませんし」
「あ、ありがとう」
俺は海鮮丼を受けとると一口食べた。
「うっめー!」
それは口の中がとろけるような味だった。
『あははははは!』
俺の言葉に天丼流の人たち全員が笑い声をあげた。
俺もつられて笑った。
「はい!いまVTRをご覧いただきましたように、この天丼と海鮮丼は人に笑顔をもたらします!」
「さらにさらに!本当に食べられたお客様の声をもらってきました!」
「どうでしたか!?」
「〇〇県出身にお住まいの死ぬ寸前だったさんからですね。『息子と死闘してもう死ぬと思っていましたが、これを食べて元気になりました!』」
「なんと!これには人を元気にする力もあるんですね!他には?」
「いかがすみはいたさんからですね!『リーダーがいなくなって寂しかったんですけど、これを食べたら寂しさが気にならなくなりました!』」
「皆さん聞きましたか!?寂しさまで消してしまうようですよ!」
「ここまで色々な効力があって、天丼と海鮮丼のセットのお値段がなんと!99999円!99999円ですよ!」
「えー!そんなに安いんですか!?」
「さらにさらに!今から30分以内に電話した人限定でこのお寿司消ゴムをつけちゃいます!」
「うわ!絶対に欲しいじゃないですかそれ!食べられそうだし!あーん……ゲホッ!ゲホッ!」
「電話番号は0539ー×××ー×××です!お電話お待ちしており━━━━」
ブツン!
僕はテレビを消した。
「長いCMだったなぁ………」
次はホラーを書いてみせます!絶対に!




