表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

天丼流vs海鮮丼流

連続投稿のにこめのほうです!

ほらーかこうとしたらへんなことになりました!

隣人◇やる気装置もよろしく!(宣伝)

「フッ、ここか」

 俺は天丼流道場の扉を見た。

 いたって普通の道場だ。

 扉の上にはでかでかと『天丼流道場』と書かれた看板が打ち付けてある。

 俺は扉を空けると挨拶をした。

「頼もう!」



 一週間前。

 親父は俺と海鮮丼流道場のリーダーを賭けた試合をし、負けた。

 海鮮丼流の試合はどちらかが倒れるまで続けなくてはいけない。

 死闘の末、親父は倒れた。

 親父は俺の腕のなかで、静かに言った。

「まぐろよ……、強くなったな……」

「そんな……、口を開くんじゃねぇよ親父!」

「ふふっ……、最後の海鮮丼流かつおのたたき突きは見事だった……」

「そんなことねぇ!親父の海鮮丼流ホタテ張りには遠く及ばねえよ!」

「しかし……、お前は実力差を知恵で埋めた……。それだけで海鮮丼流道場のリーダーに相応しい……グフッ」

「お、おい…!親父!」

「もう……、ここまでのようじゃ……。後は頼んだぞ……まぐろ………」

「親父!親父ィィィィィイイイ!!」

 親父はそのまま意識が途切れた。

「う、うおおおおおおおっ!」

 俺は涙を流す。

 後ろで見ていた門下生たちも、わんわん泣いていた。

 俺は拳を握りながら立ち上がると、門下生たちの方を向き言い放った。

「俺は!俺はこれから少しの間、修行の旅に出る!」

「そ、そんな…。道場はどうするのですか!?」

 門下生の一人、いかすみが狼狽えながら聞いてきた。

「いかすみ!道場はお前に任せる!俺は技を磨き、海鮮丼流の更なる繁栄に向かうために勉強してくる!」

『リーダー!』

「じゃあ、行ってくるぞ!」

「いってらっしゃいませ!」



 俺は、今目の前に立っている天丼流の門下生たちを見ながら、全てを思い返していた。

 すると、スキンヘッドで身長が2メートルはありそうな門下生がやって来た。

「おい、お前どういうつもりだ…?冗談なら今すぐ出ていけば許してやる」

 スキンヘッドは俺を睨み付ける。

「冗談なんかじゃない。俺は正真正銘道場破りに来たんだ!」

 そう答えると、スキンヘッドはフンッと鼻で笑いながら殴りかかってきた。

「そういうことはこの俺様のおもてなしを受けてからいいな!」

 俺は素早く回避する。

 右、左、右、左……足!

 スキンヘッドの攻撃は単調で、簡単に見切ることができた。

「あ、あいつにんじんさんのおもてなしを見切ってる!?」

「俺、にんじんさんのおもてなしが避けられるところなんて、師匠以外見たことねえぞ!」

「まさかにんじんさんの天丼への愛が足りないっていうのか!?」

 スキンヘッドは「にんじん」という名前らしい。

 にんじんはムキになって、腕を振り回した。

 終わりだな。

 俺はにんじんの後ろに回ると、手刀で気絶させることにした。


「そこまで!」


 俺とにんじんは動きをピタリと止める。

 俺は声の主の方を見た。

 ……こいつ………強い……。

 俺はそう直感で感じた。

 男は道着姿で目が細く、ちょび髭が生えている。

 声の主である男は、にんじんに言葉を投げかけた。

「にんじんさん。私はいつも言っているはずです。どんな時であれ相手に敬意を払いなさいと。でなければ最高のおもてなしはできませんよ?」

「はっ!申し訳ございません師匠!」

 にんじんはそう言うと膝をついた。

 つられて門下生たちも膝をつく。

 どうやらここのリーダーはこの男のようだ。

 こいつを倒せばまた一歩、修行の道が完成に近づく。

 俺はにやっと笑う。

「おい、俺は海鮮丼流のまぐろだ。お前は?」

 すると男は俺のほうに向き直り、問いに答えた。

「私は天丼流のころもです。にんじん、立会人をお願いします」

 にんじんは頷くと、俺ところもの間に立った。

「これより、海鮮丼流まぐろと天丼流ころもの試合を開始します。では、はじめ!」

 合図がかかっても俺たちは動かない。

 一瞬でも隙を見せたら殺られるからだ。

 長い。

 今、俺たちは精神力の削り合いをしている。

 と、ころもが目を見開いた。

 それが開始の合図だったように、俺たちは動き出す。

「海鮮丼流!イカの刺身チョップ!」

「天丼流!さつまいも揚げ切り!」

 チョップが交差する。

 俺たちは、バッと間合いをとると一瞬にして詰める。

「おおおおおおおおおっ!」

「はああああああああっ!」



「「はぁ……はぁ……」」

 どれだけ攻めてもどれだけ守っても、試合は均衡を崩さない。

「な……なんだよこれ……」

「俺はこんな試合……見たことねえぞ……」

「師匠が攻めきれないなんて……そんな馬鹿なことが……」

 俺たちの試合に門下生たちは驚愕しているようだ。

 よし!

 俺は自分の中で気合いを入れ直すと、前を見る。

 身構えて足に力を込めた。

「これで……決める!」

 叫ぶと同時に俺は地を蹴った。

 しかし、相手も同じことを考えていたようだ。

「天丼流奥義!海老天砲撃ィィィィィ!」

「海鮮丼流奥義!かつおのたたき突きィィィィィ!」

 技が交差する。

 ころもの左パンチは俺の頬に、俺の左手突きはころもの腹に。

「かはっ……!」

「ぐっ……!」

 そして、俺は気を失った。



 気を失っていたのは一瞬のようだ。

 しかし、体が動かない。

 ころもを見ると、案の定ころもも転がっていた。

 目は開いている。

 どうやらあいつも同じ状況らしい。

「師匠ー!」

「立ってくれ師匠ー!」

「師匠、負けないでくれー!」

 いや、状況は違うようだ。

 ころもは弟子たちからエールを受けている。

 少し羨ましい。

 俺はなんとか立ち上がろうとした。

 その時。


「すいませーん!出前でーす!」


 出前?こんな時に?

 俺は出口を見た。

 どんぶり屋のようだ。

 弟子の一人が全員分の金を払っている。

「毎度ありがとうございましたー!」

 出前の男はお礼言うと、帰っていった。

「師匠!一旦試合中断して飯食いましょう!」

 にんじんが試合はもういいのかどんぶりを前にうずうずしている。

 その様子を見かねたのか、ころもが言った。

「仕方ないですね…。では皆さんで食べましょう」

『いえええええい!』

 弟子たちの叫びで道場が揺れた。

 楽しそうだ…。俺のはないだろうから匂いだけで我慢だな……。

「おい!天丼を人数分頼んだはずなのに、余分に海鮮丼が入ってるぞ!」

 と弟子の一人が叫ぶ。

 ころもはふっと笑った。

「なら、まぐろさんにあげてください」

 俺はぎょっとする。

「い……いいのか?」

「ええ、どうせ誰も食べませんし」

「あ、ありがとう」

 俺は海鮮丼を受けとると一口食べた。

「うっめー!」

 それは口の中がとろけるような味だった。

『あははははは!』

 俺の言葉に天丼流の人たち全員が笑い声をあげた。

 俺もつられて笑った。




「はい!いまVTRをご覧いただきましたように、この天丼と海鮮丼は人に笑顔をもたらします!」

「さらにさらに!本当に食べられたお客様の声をもらってきました!」

「どうでしたか!?」

「〇〇県出身にお住まいの死ぬ寸前だったさんからですね。『息子と死闘してもう死ぬと思っていましたが、これを食べて元気になりました!』」

「なんと!これには人を元気にする力もあるんですね!他には?」

「いかがすみはいたさんからですね!『リーダーがいなくなって寂しかったんですけど、これを食べたら寂しさが気にならなくなりました!』」

「皆さん聞きましたか!?寂しさまで消してしまうようですよ!」

「ここまで色々な効力があって、天丼と海鮮丼のセットのお値段がなんと!99999円!99999円ですよ!」

「えー!そんなに安いんですか!?」

「さらにさらに!今から30分以内に電話した人限定でこのお寿司消ゴムをつけちゃいます!」

「うわ!絶対に欲しいじゃないですかそれ!食べられそうだし!あーん……ゲホッ!ゲホッ!」

「電話番号は0539ー×××ー×××です!お電話お待ちしており━━━━」


 ブツン!


 僕はテレビを消した。


「長いCMだったなぁ………」

次はホラーを書いてみせます!絶対に!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] オチが素晴らしかったですわ! [気になる点] Nothingですわ! [一言] 海鮮丼たべたぁ〜いですわ
2014/06/07 22:05 Queen Elizabesh
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ