はじめに
冒頭から自分でこんなことを言うのもなんだか変なのだが、あたしはかなり変わっていると思う。
あたしは昔からおかしな子どもだった。詳しいことはよく覚えていないわけだけれど、母が言うには、子どもの頃から1人遊びを繰り返し、誰もいない壁に向かって話しかけていることが多かったそうだ。周囲の人間はあたしを気味悪がり、後ろ指をさして「また、小町さんとこのメイちゃんは幽霊とお話しているわ。」とご近所で揶揄されていたらしい。
かといって、あたしに幽霊が見えているかと言われれば残念ながらそうではない。たしかにあの頃、あたしには「あるもの」が見えていた。だが、あたしに見えていたのは幽霊ではないのだ。
あたしが見ていたもの。そう、それは確かにこの世の中に存在せざるもの。否、存在してはいるのだが人間の目には映らないもの。
母を始めとして、信じてくれるような人は誰ひとりいなかったのだが、あの頃のあたしにはたしかにそれが見えていた。
そしてあれから十数年が経った今、ある青年との出会いによって、あたしは再び奇妙な出来事に巻き込まれていくことになる。
これはあたしと彼が一緒に過ごした、何でもない不思議な日常の一部を綴った物語である。