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数学授業

『一週間は気になる人を見てみれば?』


私は昨日、照ちゃんに言われたことを思い出していた。

気になる人を見る…。

照ちゃんの言った通り、左に顔を向けると数学の授業中にも関わらず、また何かを熱心に書いている。

その真剣さには興味深々だとでも思っているのか、私の鼓動は段々と早くなっていった。


「熱でもあるのかー成瀬。」


数学教師のゴローちゃんが、黒板に書いていたチョークの手を止め私を見る。

ゴローちゃんは私が付けたアダ名だ。黒髪の短髪で、初めての授業で紹介してくれた。黒板に丁寧な字で山本五郎と書かれていたのでゴローちゃん。

優しそうな先生で、直ぐにクラスにも溶け込んでいった。


「何も無いなら余所見するなよー。」

「バレてましたか。」


ペロッと舌を出す私に対して、ゴローちゃんはまた黒板に向き直る。


「バレバレだ。もうちょっとで、この問題を全て解いて貰おうかと密かに思っていた。」

「ごめんなさい。」


やっぱり訂正。

優しそうなんかじゃない、ドS先生だ。見てわかる程、引っ掛け問題が山盛りの問題を1人で解かせようと思うとか…。

運良く顔は見えないが、これで笑っていたりすると鬼畜属性まで持ち合わせているかもしれない。

私は、ぱっと見優しそうなゴローちゃんの隠れた性格をチラッと見てしまったかもしれない。


…ん?


ゴローちゃん。私、熱なんてないですよ。


何か引っ掛かるようなゴローちゃんの発言に首を傾げていると、私の右肩後ろに紙が当たった。

無雑作(むぞうさ)に丸められたそれを開くと、『ばーか』。

私は眉の間を微かに曇らし、右後ろを見やる。


「颯太…」


振り向いて見ると、冷ややかな意地の悪い微笑みを口元に浮かべている颯太がいた。

颯太めー…見てたな!あ…

私は直ぐに颯太が書いた『ばーか』の下に『早く前見て!』と荒々しく文字を書き、颯太に投げつけた。

しかし、時すでに遅しと言ったところか…。

ゆっくり穏やかな足取りで向かってくるそれは、颯太の前で止まった。


「柳瀬、1番楽しいのを用意したぞ。解いて来い」


左手の親指を立て、黒板を指すゴローちゃんの顔は爽やか過ぎと言っても過言ではなかった。


「う、うえぇーー!!」


颯太の弱々しい声にクラスの皆は笑ったが、ゴローちゃんが作った問題はドSにも程があった。

想像通り颯太に解けるはずも無く、黒板の前でうんうんと(うね)っている。

私はそんな颯太を助けようと前に出るため椅子を引くと、颯太の隣で書いていた私の『気になる人』がチョークを片手に颯太の分までやっていた。


私の中には密かな疑問が残ったが、颯太が帰ってくる際に「あいつ良い奴だな、助かったぁ。」と、わたしに耳打ちしてきた。


颯太の代わりに解いたそれは間違いが無く、綺麗だった。


優しいんだな…。ゴローちゃんには運良く見つからなかったみたいで、颯太はゴローちゃんに褒められていた。


ゴローちゃんのドS授業はチャイムと同時に終わり、また私のお腹の音と共にお昼を告げた。


私は作ってきたお弁当を食べながら、気になる人を見る。

私の気になる人は窓辺の1番良い席に、購買で買ってきたパンを食べながら先ほどの数学の授業中に書いていたノートを手に持ち、見ていた。


(ほんとに、何を書いてるんだろ…。)


私が凝視していても、気になる人は此方に気付かないようで私は残して置いた卵焼きに手を付けようとした。


「要らないなら食べちゃうねぇー」


私が箸でとっていた卵焼きが忽然(こつぜん)と消える。

いきなり現れた啓ちゃんの口によって。

啓ちゃんは私の箸ごと卵焼きを大きな口に頬張り、無邪気な笑顔を見せた。


「なぁに見てるの?なるちゃん」

「んー、ちょっと気になる人を…」

「えっ!?」


私は気になる人を目で捉えながら啓ちゃんに答えると、啓ちゃんは目を見開いて驚いている。


「啓ちゃん、そんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔してどーしたの?」

「難しい表現知ってるね…なるちゃん。って、えぇ!?気になる人いるの?」

「うん」


私が平然と答えると啓ちゃんは更に驚いたようで、「誰なの!?」と聞いてくる。

あ、そういえば…名前知らないなぁ。

うーーーーん。

私は、名前を知らなかったことに今気付き、失礼ながら(ゆび)()した。


「あの人。」

伊月(いづき)璃斗(りと)?」


伊月璃斗って言うんだ。璃斗(りと)って可愛い名前~。


「うん!そうだよ」

「どこが気になったの?」

「どこが…って言われても、なんかね。目を奪われた…感じ」

「へ、へぇー…」


うんうん。目を奪われたんだよねー、あの真剣に何かを書く姿に。

本当に、何を書いてるんだろう…。

私の応えに啓ちゃんは歯切れの悪い相槌をして、逃げるようにどこかに行ってしまった。


残された私はお弁当を片付け、まだ午後の授業まで余裕があったので屋上に行って見ることにした。




*****





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